また、その他の「インサイト」の代表的な例として、セブン・イレブン立ち上げの際のエピソードをあげた。米国からライセンスを得て、鈴木敏文会長を含めわずか5人で立ち上げたセブン・イレブン1号店。米国と事情が違う日本では、マニュアルは生かせず、なかなか利益も出せずに苦戦していた。そんなある日、店の棚が空いているのに疑問を持ち、流通科学大学学長 石井淳蔵 氏オーナーに尋ねると、大量仕入れ、大量配送のため品目が限られ、残りは在庫にしているという実情を知ることになる。そこで鈴木氏は「少量配送」の必要性に着目し、それを可能にするための「エリア集中出店」ということをひらめいたのである。エリア集中出店とすれば、小分け配送による「少量配送」が可能になるわけで、これが、コンビニの存立、発展の礎となっていったわけである。
 この他にも、ヤマト運輸の小倉昌男社長の「集配密度」というひらめき、ダイエー創業者の中内功氏の量り売り販売から袋詰め販売というプリパッケージ化における「商品化」のひらめきといった例をあげ、マーケティングにおける「インサイト」の重要性を強調した。
 そして最後に、「ビジネス・インサイト」を得るにはどうすればよいのか、ということについて、確実な方法はないとしつつも、一つのヒントを提示した。
 まず、対象に「棲みこむ」こと。我を捨て、対象となるモノ、人、理論に内在化しようとすること。対象のセオリーや属性で理解するのではなく、事物のあらゆる可能性を探ろうとするのだと。また、そうして得たインサイトに、言葉を与えることが大切であると続けた。たとえば小倉氏の「集配密度」や中内氏の「商品化」など、時間の中に埋没しないよう、言葉を与えて抽象化するのだと。そして、インサイトを理解すること。世の中のすべてのことに当たり前はないと思うこと。現実を当たり前に理解させようとする圧力が働くが、それを意識的に排除して行く努力が必要であると締めくくった。

米国は価格要素での来店前銘柄決定に拍車、日本は店頭でこそ価格要素以外の提案チャンスあり。中国は内陸に今なら商機あり!? 講演「不況下におけるビジネスのヒントを消費者インサイトから探る」?日米中の消費者国際比較から?
株式会社インテージ マーケティングソリューション第1ユニット シニアアナリスト
江島賢一郎 氏

株式会社インテージ マーケティングソリューション第1ユニット シニアアナリスト 江島賢一郎 氏  インテージからのメッセージと題された3部構成の講演では、現下の不況における、日米中の消費者動向調査の結果から、三カ国の現況をもとに得た日米中の消費者国際比較が発表された。その中から、JAPANブランドの現在と今後のアクション・アイデアについての提案が、インテージの江島賢一郎氏から行なわれ、非常に興味深い内容となった。
今回の三カ国の調査は、日本の首都圏、米国東海岸、中国の上海、成都、瀋陽の、それぞれ20?40代既婚女性を対象とした。そして、中国においては、沿岸エリアの上海、内陸エリアの成都、瀋陽で、訪問面接による写真を使った生活実態、1週間の買物行動記録を調べ、さらに国内外の消費者パネルと併せて、その買物特性を打出した旨の説明がなされた。
 調査結果は、日本では買物頻度は増えたが、バスケットサイズが小さくなり、店頭でのお得感を重視する傾向が見えたこと。米国ではガソリン値上げの動きと買い物頻度の動きが密接にリンク。バスケットサイズも小さくなり、とくに1年前と比べて大きな買い物行動の変化は、来店前に価格を調べ、買い物リストを作成することであることがわかったという。また、中国では、日本以上に、買物頻度は多く、安全、安心への意識の高まりから銘柄指定での計画的な買物が主流となっていることが示された。
 個別にその特性を見て行くと、米国の場合、今後「価格要素での来店前銘柄決定に拍車がかかる」傾向が強いと語る。消費大国の米国における買い物個数は、リーマン・ショック以前から縮小傾向にあった。これは、ガソリン価格やサブプライム問題などが先行したためで、貯金はせず、借金してでも消費する国民性向が、安定、節約志向へと変化していったからで、仮に景気が戻ろうと、これまでと同じような買い物行動に戻ることはないであろうと予想した。