天文20年(1551)──。 周防の大内義隆はながらく雌伏の時にあったが、いよいよ壮大な作戦を始動するところにあった。「ここまで当家の地獄を見てきた者たちだ──」 義隆は三人の重臣の顔を思い浮かべ、「──面構えが違う」と心のうちで呟いただろう。 周防守護代・陶隆房(すえたかふさ)。もと美少年。従五位上。当家筆頭の武功派である。周防は義隆の本国だが、実務は彼に任せておけば安泰だった。領民や商人からも慕われている。 豊前守護代・杉重矩(すぎしげのり)。隆房とは険悪だったが、昨年仲直りしたようだ。心の広い男である。時々いらざる諫言をしてくるが、宥めていればそのうち黙るようになる。 長門守護代・内藤興