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テクノロジー
2019.06.12

中国を宇宙から監視、米国の総力戦にアマゾンも参戦
IoT時代、<宇宙開発における官民の関係>が変わる

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マイケル・ピルズベリー(著)、野中 香方子(訳)『China 2049 秘密裏に遂行される世界覇権100年戦略』(日経BP社)

 2049年、アメリカと中国の覇権争いの舞台は「宇宙空間とサイバー環境」へ。

「米中貿易戦争」「米中新冷戦」・・・センセーショナルなキーワードが蜂の巣を突いたように新聞やウェブ記事にあふれ出した令和最初の5月。

 ほぼ5年ぶりに『China 2049 秘密裏に遂行される世界覇権100年戦略』(日経BP社、2015年9月)*1を読み返してみた。

 本書はCIA職員で「パンダハガー(親中派)」のひとりだったマイケル・ピルズベリー氏(以下、ピルズベリー)が親中派と袂を分かち、世界の覇権を狙う中国の長期的国家戦略に警鐘を鳴らすようになるまでの、約40年以上にもわたる実に興味深いドキュメンタリーである。

 冒頭で引き合いに出されるのが「瞞天過海」(まんてんかかい:天をあざむきて海をわたる)という古代中国『兵法三十六計』にある格言である。

 これは「ありふれた風景に隠れ、敵の油断を誘う」という意味だ。自分より強い敵を、相手の力を利用し、戦いに巻き込まれていることさえ気づかせないまま打倒することを意味している。

 中国は孫武の兵法書『兵法』などから策略を学び、毛沢東による1949年の建国当時から100年をかけてアメリカを「瞞天過海」して世界を征服する計画を立てていた、とピルズベリーは主張する。そして、「中国100年マラソン」のゴールが中国の野望が達成される年『China 2049』に当たる。

 1979年の米中国交正常化の当時、中国側の立役者だった鄧小平は経済発展にとって「技術は第一の生産力」だと考え、中国が経済力でアメリカを凌ぐ唯一の方法は、科学と技術を大々的に発展させることだと確信していた。

 そんな鄧小平の対外政策を端的に表す言葉が「韜光養晦」(とうこうようかい:光をつつみ、養いかくす。才能や野心を隠して周囲を油断させて力を蓄えて行く、という意味)であったことは日本でも広く知られている。

 なるほど、「韜光養晦」は「瞞天過海」と見事に符合する考え方だ。

 ニクソン以降の歴代大統領をはじめとする多くのアメリカ人は中国共産党の巧みな調略に目を眩まされ、資本主義的な経済に移行した移行した中国はいずれ自由民主主義も採用するはず、という集団的な認知バイアスに陥って、気前よく資金や科学技術の供与を続け、(トランプ大統領が鉄槌を下すまで)多額の貿易赤字さえ甘受してきた。

『China 2049』を帰結すべきゴールと考え、そこから現在までの道のりをバックキャストで考えると、米中の間で今起きている経済面での激しい応酬や安全保障上の諸問題は必然であると同時に、中国が仕掛ける長いマラソンレースのほんの「通過点」に過ぎない(つまり早期の幕引きはありえない)と解釈できる。

*1:原題『The Hundred-Year Marathon: China’s Secret Strategy to Replace America as the Global Superpower』 Michael Pillsbury

中国との冷戦を宣言した、ペンス副大統領の「鉄のカーテン」演説

 しかし、2018年10月4日、潮目は大きく変わった。

 ペンス副大統領がワシントンのハドソン研究所でトランプ政権の対中政策について演説し、中国を「米国に挑戦する国」と決めつけた上、「邪悪な中国共産党」との戦いをアメリカ国民に呼びかけたのである。

 ちなみに『China2049』を書いたピルズベリーは現在、ハドソン研究所の中国戦略研究所長の要職にある。氏のアドバイスがトランプ政権を覚醒させ、ペンス演説の直接的な引き金になったことは想像に難くないだろう。

 このペンス演説の全体は、以下のYouTube動画で視聴することが可能だ。

【参考】 Vice President Mike Pence's China Speech at Hudson Institute
https://www.youtube.com/watch?v=mYAHPPXmcts

 いささか長い演説なので要約すると、ペンス副大統領は中国が困っていた過去の時代にアメリカがいかに中国を助けたかを強調した上で、「我々の中国への行為は共産党政権によって裏切られた」とし、以下のように「中国の罪状」を列挙している。

・ 冷戦終結後、中国が政治面でも民主化すると期待したが、個人財産の尊重、宗教の自由、人権の尊重はまるで是正されなかった。
・ 過去17年で中国の経済規模は9倍に拡大し、世界第2位になったが、それは為替操作、技術移転の強要、知的財産の盗用などによるものだ。
・ アメリカの覇権へ露骨に挑戦している。「中国製造2025」計画のため、官民あげてアメリカの知的財産を侵害し、西太平洋(尖閣諸島、南シナ海)ではアメリカの軍事的優位を脅かしている。
・ 中国国内ではインターネットのアクセスを制限したり宗教弾圧を行ったりして人権侵害が甚だしい。
・ アジア、アフリカ、欧州、中南米で不透明な融資条件の債務外交を展開し世界への影響力を拡大している。
・ アメリカに不法に介入している。中国共産党の影響は、アメリカの産業界、映画界、大学、シンクタンク、学者、ジャーナリスト、地方・連邦政府に及んでいる。

 アメリカ国内のメディアの論調には、この演説を1946年3月に、イギリスの首相だったウィンストン・チャーチルが「ヨーロッパでは鉄のカーテンが降ろされた」と東西両陣営の冷たい対立が始まった歴史的転換を指摘した『鉄のカーテン演説』(ミズーリ州ウェストミンスター大学)になぞらえるものもある。

 何れにしてもその後、トランプ大統領が相次いで打ち出した対中関税や中国ハイテク企業(ZTE、ファーウェイ)への執拗な制裁が、巷で報道されるようにホワイトハウス内で拙速に判断されたのではなく、5年前に出版されたピルズベリーの『China 2049』を伏線として、政党の枠組みを超えてアメリカの国家の統一意思として時間をかけ合意形成された「覚悟の戦略」と理解を深めることが必要だ。

 一方、対する中国の動きはどうだろう。

 2019年5月20日、習近平国家主席は訪問先の江西省瑞金で「今こそ新たな『長征』に出なければならない」と中国国民に呼びかけた、とされている*2

*2https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00019/053100056/

 江西省瑞金は毛沢東が共産党における指導権を確立することとなった『長征』の出発地である。

 1934年、蒋介石の国民党軍と戦っていた中国共産党軍10万人は瑞金の地を追われ、壮絶な行軍(撤退戦)を始めた。2年後、1万2500キロを移動して陝西省延安にたどり着いた時、兵力は2万〜3万人まで減っていたと言われる。

 中国では『長征』は決して惨めな敗残戦ではなく、持久戦に耐えて反転攻勢を仕掛け、1949年の建国のきっかけになった「歴史的な大偉業」と位置付けられている。

 つまり、米中貿易戦争は中国共産党にとっても「100年マラソン」を戦い抜くための『新・長征』であり、アメリカとの冷たい持久戦を戦い抜く覚悟を示したということだ。

国家安全保障の主戦場は「宇宙空間」と「サイバー環境」へ

 2049年は、取りも直さず、米中の国家間の覇権争いのゴールでもあり、国家安全保障上の結節点ともなるはずだ。

 戦いは、今後、宇宙空間やサイバー環境を主戦場に繰り広げられるようになる。

中国の街角でよく見かける中国共産党の標語。2018年夏、上海の新天地にて。(筆者撮影)

 まず「サイバー環境」で敵のシステムを攻撃し、敵の情報システムを混乱させる。同時に「宇宙空間」では敵の最新兵器システムを破壊し、敵の兵站システムを無力化し、敵の技術的優位から生じるシナジー効果を否定する戦い方を展開する。

 これがまさにアメリカの国防総省が想定する対中国の安全保障戦略、近未来の持久戦争の本質なのだ。

 片やアメリカがファーウェイをはじめとする中国のハイテク企業に厳しい制裁を課すことで、中国が早晩、経済的にも技術的にも追い詰められ、戦いの趨勢がアメリカの優位で進むと考えるのはあまりにも早計だ。

 中国のハイテク技術の現在地とポテンシャルを甘く見過ぎてはいけない。

 中国が、民主主義国家なら当然クリアしなければならないプライバシーの問題に全く躊躇することなく、国家規模でビッグデータやAI活用を急ピッチで進めている現実、ファーウェイ1社が保有する5Gの標準必須特許数が(それがたとえ仮に技術移転の強要や知的財産の盗用でアメリカから盗られたたものだったとしても)アメリカのクアルコムやインテルを凌駕する現実*3を直視すれば、アメリカの技術的優位は多くの日本人が期待するほど盤石ではない。

【参考】 顔認証システム「天網」に見る中国の深謀遠慮
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/53116

*3https://www.nikkei.com/article/DGXMZO45231420U9A520C1TCR000/

 今後、宇宙やサイバーでの戦いにつながる基幹技術を保有・開発する中国企業、具体的にはドローンのDJIやAIカメラのハイクビジョンへの厳しい制裁がトランプ政権からカードとして切り出されることが予測されるが、それが中国のハイテク技術の進歩のスピードをはっきり鈍化させることができるかという点では疑問符がつく。

 何れにしても中国の「100年マラソン」のゴール地点で、アメリカ・中国どちらが宇宙空間やサイバー環境で優位に立っているか、という見極めが難しい状況がしばらく続くだろうというのが著者の見立てである。

アメリカの宇宙戦略は民間セクターからの調達が大きな役割を果たす

 宇宙に関しては、アメリカでは2010年にオバマ大統領が出した「新国家宇宙政策」以降、民間企業の技術やサービスの購入、インフラの商業利用、輸出の促進などが明確に打ち出されるようになった。

 つまり、端的に言えば、スペースシャトルの後継機の開発は民間セクターに任せ、NASAは大口の顧客として民間から打ち上げサービスを購入するという政策上の大転換があったのである。

 トランプ大統領は2019年2月19日、国防総省に宇宙空間の軍事活動に専従する宇宙軍の創設に向けて法案を作成するよう指示したが*4、民間セクターからのリソース調達の方針は政権が変わっても踏襲されている。

 結果としてこの動きは宇宙におけるアメリカの国家安全保障上の弱点、すなわち予算不足に起因する中国に対する技術開発の遅れ、の補完という点では大きな成果が期待されるだろう。

【参考】 トランプ大統領、宇宙を国家安全保障上の要衝と宣言「Meeting of the National Space Council」の映像
https://www.youtube.com/watch?v=qqH0xUBHISg

*4https://www.nikkei.com/article/DGXMZO41493750Q9A220C1000000/

軍事産業大手ロッキード・マーティンと共同開発に踏み込むアマゾン

 この流れに呼応するように活発な動きを見せている民間セクターの企業の代表プレイヤーが、アマゾン・ドット・コム(以下、アマゾン)だ。

 アマゾンは傘下のアマゾン・ウェブ・サービス(以下、AWS)を中心に、数年前から公共セクターを対象にしたビジネスに取り組み始めている。

 昨年には国防総省から100億ドル規模のクラウドサービス契約を獲得しかけたが、同社が入札プロセスを乗っ取ったという苦情が競合他社から寄せられたこともあり、契約は一旦、凍結された。

 現在はマイクロソフトとの一騎打ちで受注競争が繰り広げられている*5

*5https://www.nikkei.com/article/DGXMZO45349680Y9A520C1000000/

 宇宙ビジネスについては、2018年11月27日、ラスベガスで開催されたAWSのデベロッパー向けの会議『re:invent 2018』において、CEOアンディ・ジェシー(Andy Jessy)が登壇、衛星通信に関する事業の新規参入と、自前のウェブサービスと連携した「AWS Ground Station」構想を発表したことが注目される。

「AWS Ground Station」はコストがかかる衛星とのデータのやり取りを「オンディマンド化」することにより、ユーザ企業が「使いたい時にだけリアルタイムに近い衛星写真を取得できる」というサービスだ。

「AWS Ground Station」のために、AWSは12基の専用基地局をAWSの各リージョン内に設置(日本も含まれる)する予定で、それらの相互連携で衛星写真のデータを高速に、かつ機械学習による処理も行えるように提供する予定という。

 そして、同時に発表されたのは、AWSが軍事産業大手のロッキード・マーティン社と共同開発した低軌道衛星向けのアンテナ・ネットワークシステム「Verge」(Virtual Resilient Ground)である。

 これはいわば、「AWS Ground Station」の宇宙軍版というポジショニングだ。

【参考】 AWS Ground Station Preview Announcement(「Verge」コンセプトビデオは19分45秒から)
https://www.youtube.com/watch?time_continue=1185&v=EOAxdma0lUY

「Verge」では、人が抱えられるくらいの大きさの箱状の小型基地局を世界中に無数かつ機動的に設置し、それらをAWSのネットワーク上で統合運用することで、迅速かつ低コストでの軍事偵察衛星よる衛星写真活用が可能になる。

 中国が開発を進める衛星攻撃ミサイルのように積極的な攻撃性を持つ兵器として運用されるわけではないが、「Verge」はアメリカと中国との長く、冷たい戦争の過程で、中国の動向を虎視眈々と監視する役割を担っていくに違いない。

 われわれ日本人は、『日本国憲法』第9条の制約で、こと軍事となると反射的に目を背けてしまいがちだ。

 しかし、IoTを支える戦略的な基幹技術(AI、センシング、5Gなど)が実は国家の安全保障の命運も握っていること、軍事技術と民生技術の境界線はデータ時代の進展でますます曖昧になってきていることにもっと冷静な視座を持つ必要があるのではないだろうか。

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