写真提供:日刊工業新聞/共同通信イメージズ
世界3位へと成長したインド自動車市場で、サプライチェーン全体の“現地化”が加速している。2025年4月にスズキがEV(電気自動車)の現地生産を開始した他、トヨタやホンダも各社の戦略に基づき現地での体制づくりを進めている。部品メーカーにも、研究・開発機能の内製化など、現地最適化が求められつつある。
こうした自動車産業の構造転換にどう向き合うべきか。A.T.カーニーのコンサルタントが18業界の課題を整理した『A.T.カーニー 業界別 経営アジェンダ 2026』(A.T.カーニー編/日経BP 日本経済新聞出版)から、一部を抜粋・再編集し、その論点を読み解く。
インド市場における自動車サプライチェーンの変化と部品サプライヤーにとっての参入機会
『A.T. カーニー 業界別 経営アジェンダ 2026』(日経BP 日本経済新聞出版)
■ 自動車市場の概観
インドは中国・米国に次ぐ世界第3位の自動車市場であり、乗用車・二輪車を中心に着実な成長を遂げています。2024年度の乗用車生産台数は565万台(前年同期比4%増)となり、経済成長や人口構成を背景に今後も堅調な内需が見込まれています。
中国では内需が頭打ちとなり、現地OEMが海外需要獲得へと活路を見出さざるを得ない局面の中、今後も内需拡大で堅調に成長が見込まれるインドは、ラストリゾート的な有望市場といえそうです。
パワートレイン別に見ると、生産台数の内、内燃機関(ICE)車が90%強を占め、EVは約2%と僅少です。しかし政府は「2030年までに新車販売の30%をEVに」との方針を打ち出しており、政府主導のEVインフラ整備や購入者・製造業者双方向けの補助制度の整備も進みつつあります。スズキはインド現地で25年4月よりEV生産を開始しており、Teslaも工場設立を表明(25年4月時点)するなど、今後インド国内でのEV製造が加速していく萌芽が見え始めています。
インドは中国との間に国境の係争問題を抱えて緊張状態が続いているため、インド標準規格局(BIS)における中国車の認証取得はハードルが高く、実質的な輸入規制とも捉えられています。同時に中国を含む国境隣接国からの投資が政府の事前許可制となった(2020年より)ことで、中国OEMの台頭が比較的強く制約されている市場ともなっています。
インドのEV市場では中国OEMの存在感が低位に抑えられる構図となっており、アジア新興国市場の中では稀有ともいえる状況になっています。
■ 日系の自動車OEMのインド市場における立ち位置と今後の投資動向
インドに進出する日系企業のうち6割超は製造業であり、その15%が自動車関連と、同産業は日系企業のインド展開の中核を担っています。周知の通り、なかでもスズキは1983年の先んじた市場参入の経営判断以降、現地法人マルチ・スズキを通じてインド最大の販売シェアを長年維持してきました。2023年度時点で同社のシェアは約41%に達しており、依然として最大手です。
スズキは今後も成長に向けた大規模投資を予定しており、2025年度には年産240万台体制を確立し、2030年には400万台規模への拡大を見据えています。EVに関してもグジャラート州で電動車の生産体制を強化中で、全体で1兆円規模の投資計画が進行中です。当工場で生産されるEV、eVITARAは、日本・欧州への輸出・販売が計画されており、グローバル生産拠点としてのインドの意義も高まっています。
他方、トヨタもカルナータカ州において新工場の建設を進めており、生産能力の拡張を進行中です。ホンダは販売台数が減少傾向にあるものの、二輪市場では攻勢を保っており、インドをグローバル生産拠点とする戦略を継続しています。
これらの動向は、インド国内需要に応えることに加え、ASEANやサブサハラアフリカといったグローバルサウス諸国への完成車輸出、日本市場への逆輸入など多様な市場展開を見据えたものであり、日系OEMにとってインドは単なる消費市場ではなく、グローバル供給網の戦略拠点としての性格が既に確立されつつあることを示唆していると思います。
■ インドの自動車サプライチェーンにおける構造的な変化
国内需要の急拡大と、コスト・納期両面での競争圧力を背景に、OEM各社はサプライヤーに対し、開発段階からの現地調達化を要請しています。例えばスズキでは、新車種の開発初期から「どの部品を現地調達化するか」を本社と共有し、ティア1サプライヤーにも、現地での評価・車両適合・市場ニーズへの対応などのR&D機能の内製化を働きかけています。
実際にそのようなOEMからの要請を受け、ティア1各社はインド国内での生産・開発拠点を強化し始めています。例えば、曙ブレーキはスズキの年間400万台体制に呼応し、グジャラート州で100億円規模の設備投資を発表。
豊田合成はエアバッグの現地生産体制を強化、東海理化は6カ所目となる新工場を設置予定で、三ツ知はファスナーの新工場を2027年に稼働予定としています。また二輪車向けでは武蔵精密が駆動部品工場を、また工作機械の供給を目論むブラザー工業やヤマザキマザックも現地生産能力の拡大を進めています。
スズキではティア1から仕入れる部品の現地調達率は取引額ベースでみれば約95%に達しているものの、ティア1が使用する輸入部品も含めて再試算すると実質的な現地調達率は約80%と言われているようです。
JAPIA(日本自動車部品工業会)の調査によれば、日系ティア1の現地調達率は6~7割にとどまり、ティア2以下の調達や現地化は今後さらなる伸び代を残すと見られています。つまり、“サプライチェーン全体の現地化”を渇望するインド政府がさらに本腰を入れて要請や規制を発動する暁には、下位ティア層の企業も含む現地生産・調達対応の加速が一層強く求められる可能性がありそうです。
また加えて、ICE向け部品チェーンのみならず、EV向け電動ブレーキや制御機構などのサプライヤーも今後OEMから現地生産化の要請が強まる可能性は十分考えられ、未だインド参入を本格化させていないサプライヤー各社にとっても、インド参入戦略の早期検討が必要な局面と言えます。
■ 日系部品メーカーの現地化リスクと対応戦略
中堅中小企業が大宗占めるティア2以降のサプライヤー、需要の中長期ボラティリティが大きいEV部品のサプライヤーにとって、インドにおける現地生産に舵を切り切ることは容易ではないものの、リスクを抑えながらも将来の成長を取り込む手立ては存在しそうです。
例えばのヘッジオプションとしては、日系OEMへの過度な依存を避け、現地インドOEMや外資系OEMにも販路を拡大することが挙げられます。ファスナー製造の三ツ知は27年にインドで新工場を稼働しスズキの現地法人向けに部品を供給する計画ですが、それに加えて欧州の自動車メーカー向けの供給も計画しており、今後も引き続き海外OEM向けの営業活動を強化する方針を掲げています。
また別のアプローチとしては、やや大胆に聞こえるかもしれませんが、インドローカルOEMを想定顧客として攻略していく、という発想もあり得そうです。
インド自動車業界のエキスパートによると、引き続き韓国系OEMなどは自国系サプライヤーを優先する傾向がある一方、インドローカルOEMは依然コスト重視には変わりありませんが、スズキ等との差別化を志向するうえで革新的な新技術導入に積極姿勢を示す局面もあることが顕在化してきています。
特に小型モーターやステアリング機構など、技術力が求められつつも現地勢がまだキャッチアップしきれていない領域では、日系サプライヤーにとって十分に開拓の余地がある可能性があります。
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