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 中小・零細企業の倒産が増加している。コロナ対策として実施された金融支援の縮小・終了により資金繰りが悪化し、さらに物価高や円安といった市場環境の変化も重なり、取引先が予期せず経営破綻するケースが相次いでいる。大企業にとっても、こうしたリスクの兆候を見逃さないことが重要だ。本連載では『なぜ倒産 運命の分かれ道』(帝国データバンク情報統括部/講談社)から内容の一部を抜粋・再編集。大企業と取引のあった2社の事例から浮かび上がる“倒産のリアル”に迫る。

 今回は、100円ショップ向けの日用雑貨品を企画製造し、2023年9月に民事再生法の適用を申請したメーカーのケースを紹介する。
 

100円ショップ向け日用雑貨企画製造、卸
近畿用品製造

■ ダイソーの親密先「優良企業」はなぜ破綻したのか

【負債】
約103億3290万円
2023年9月25日民事再生法適用申請

 2023年9月、近畿用品製造が大阪地裁へ民事再生法の適用を申請した。取引銀行内では「つぶれない会社」と目されていた企業の破綻に、関係者からは「信じられない」「なぜこのタイミングで?」「やはりそうだったか」と、さまざまな反応が巻き起こった。

 近畿用品製造を倒産に追いつめた要因は何だったのか――。

 そこには、倒産に例外はないことを突き付ける、普遍的な真実があった。

■ 100均の黎明期から

 近畿用品製造は、1986年6月に大阪府堺市で創業。当初は靴下を吊るすプラスチック製フックを取り扱っていた。この頃はまだ自社で工場を持たず製造は外部へ委託する、どこにでもある零細企業だった。しかし、創業からわずか1年にして大きな転機を迎える。

 大創産業の代表取締役からの声かけにより、100円ショップ向けの専売業者の道を歩み始めることとなったのだ。業容は徐々に拡大し、91年3月に法人改組。この年は、大創産業が初めて直営店を出した年でもあり、近畿用品製造は100円ショップの黎明期から業界を支えていた企業の一つだったといえる。

 法人改組後すぐは、トレイやバスケットなどのプラスチック成型品を主体に取り扱っていたが、100円ショップの成長に伴い、扱い品目は徐々に増加。折しも、時代はバブル崩壊後の未曽有の不景気、30年以上続くデフレがスタートした時期と重なる。

 デフレ時代の成長業界であった100円ショップは、消費者の認知度が向上し、生活に欠かせないものとなっていく。その中でも、業界のトップランナーとして急成長を遂げていく大創産業とともに、売り上げも拡大していった。

 1994年に大阪府松原市へ、2002年には同東大阪市へ本社を移転し、そのたびに本社を拡張していった。その後も、2005年にはタイに工場を開設(後に大創産業に売却)するなど、海外へ進出。国内の労務費の高騰とさらなるコストカットを理由に海外からの仕入れを増やしていった。

 中国やタイ、ベトナム、インドネシア、マレーシアなどの工場から直接仕入れることで、100円ショップの厳しい価格要請に対応し、2010年2月期には年売上高約81億円、経常利益約5000万円を計上するまでに成長。この頃には、創業期から取引のある大創産業との蜜月関係は業界内で有名な話となり、「つぶれない会社」と目されるほどの成長を遂げていく。いつしか、取引先は近畿用品製造に大創産業の影を見るようになっていた。

■ 看過された異変

 順風満帆に見えた近畿用品製造だったが、2010年ごろ、金融取引で異変が起きる。主要取引行の一つだったメガバンクが貸付残高を大きく落とすとともに、いくつかの地方銀行も取引を解消し始めたのだ。

 業績は好調だったのになぜか? 実はこの頃、一部取引金融機関の中では、近畿用品製造の決算書に疑義が生じていた。「決算書が複数あるのではないか?」「簿外の借り入れがあるのではないか?」という疑義だ。事業拡大期における取引銀行の融資剥落は致命的で、一時は支払いに支障を来すほど資金繰りは追い込まれていた。

 しかし、別のメガバンクからの追加融資や、複数の新規行からの資金調達で難局を乗り切る。その後もデフレが続くなか、生活に溶け込んだ100円ショップとともに品目数、取り扱い領域を広げ、2013年には本格的に自社でプラスチック成型機を設置し、製造機能を獲得。

 売り上げ増加に伴い、大阪府和泉市に物流拠点も開設した。2022年2月期には年売上高約145億円、経常利益約1億5000万円を計上。業種の特性上、利益率こそ高くないものの、押しも押されもせぬ有力企業となっていた。

 直近の数年を見ても、メガバンクや地方銀行が積極的に私募債を引き受けるなど金融取引は順調で、格付けは当然「正常先」。コロナ禍でも支持され続けた100円ショップは大きな痛手を負うことはなく、取引先の間で大きな信用不安情報が出ることもなかった。

 そんななか、2023年9月25日に突如として大阪地裁へ民事再生法の適用を申請する。「優良企業なのになぜ?」「大創産業との蜜月関係があったのにどうして?」という声がある一方で、10年以上前に浮上した決算書の疑義を覚えていた元関係者からは、「やはりか」との声が上がった。

■ 粉飾で覆い隠した経営実態

 結論から言うと、近畿用品製造の決算書は粉飾だった。取材時に判明した限りでも、金融機関用、税務署用、大創産業用の3つの決算書があったようだ。そのどれも経営の実態を表すものではなく、提出相手に合わせた決算書を作り込んでいたことがよく分かる。

 2023年2月期の損益計算書を見ると、売上高は、銀行用が約145億円だったのに対し、税務署用では実態に近い約84億円。資金を調達したい近畿用品製造としては、銀行には業容を大きく見せる必要があった。

 営業利益は、銀行用が約1億7000万円、税務署用では約4億6900万円を計上している。しかし、その実態は8億円以上の損失計上であり、赤字決算は5期以上も続いていたようだ。この赤字の原因に特別なものはない。原材料価格の高騰に加え、円安が進んだことで輸入コストは上がり、さらに倉庫の人件費や物流費の価格転嫁が進まなかったという、至ってシンプルかつ現実的な要因だった。

 同期の貸借対照表を見ると、銀行用の在庫は実態に近い7億円内外を計上している。銀行用の決算書の売上高が約145億円であったことを考えると、棚卸し資産回転期間は約0.6ヵ月と相当短い。また、預金を架空計上することで当座比率を高め、10年以上も前に回収不能になった貸付金を損失処理せず、資産として計上し続けた。

 銀行がチェックする財務分析項目を良く見せるための決算書を作成しており、ある取引銀行の審査担当者は「数字を見る限りでは優良企業。もちろん正常先だ。強いて言うなら自己資本がやや弱いかなというくらいで、それ以外はすべて、水準を大きく上回る数値を叩き出していた」と語っていた。

 その一方で、税務署用では在庫を56億円内外も計上している。在庫を過大計上することで売上原価を低減させ、利益を上げているように見せる粉飾手法が用いられていたからだ。税務署用ならば、月商8ヵ月分の在庫があろうが関係ない。税金の支払いの源泉となる「利益」を創出することを第一義とした決算書を作っていたと言えるだろう。

 決算は架空の数字で彩られた虚構だった。その実態は優良企業とは程遠い、数十億円の債務超過で、手の施しようのないほどに傷んでいた。

 それでは、大創産業との蜜月関係も虚構だったのだろうか。おそらくそうではない。大創産業が粉飾決算を知っていたかは定かではないが、近畿用品製造が倒産するまでに大創産業は前渡し金という形で、25億円以上の資金支援を行っていた。

 これは、近畿用品製造にとって大創産業からの3.5ヵ月分の受注金額に相当する。この資金支援がなければ、資金繰りはもっと早くに破綻していたはずだ。一般的に、得意先企業がこれだけのファイナンスを行うことはあり得ない。蜜月関係は続いていたと考えるのが普通だろう。

 さらに民事再生法の申請後すぐ、大創産業は新会社を設立し、近畿用品製造の事業継続を支持する意向を示していた。近畿用品製造がいかに重要な位置付けであったかが見て取れる。

 近畿用品製造は、帝国データバンクの信用調査に対して長年にわたり非協力的な姿勢を貫いていた。具体的な業績数値だけでなく、あらゆる情報開示を避けてきた。まったく異なる複数の決算書があれば、どれを開示したとしても誰かにとっては不整合なものが出てくる。

 当然、実態の数値を言えば信用は地に堕(お)ちる。さらに、商流や仕入れ先、外注先など業績数値以外の情報を開示すれば、取引量から推定される売上高や収益性、資金繰り、在庫など不審な点が浮かび上がり、粉飾決算が明るみに出る可能性がある。そのことを恐れ、疑心暗鬼となり、調査に非協力的な姿勢を取り続けるしかなかったのかもしれない。

■ 果たして「突然死」と言えるのか

 100円の製品を一つ作るには、原材料費、製造費、人件費、光熱費、輸入費用、運送費、パッケージ費などさまざまなコストがかかる。もちろん、工場建設費や土地取得費用、設備維持費、金融コストなど、長期的なコストも強いられる。そして、現在そのコストの大半が上昇している。

 しかし、100円ショップは販売価格の変更が容易ではない。多くの100円ショップ向けメーカーは、内容量を減らし、使用する原材料を減らし、省力化を進めるなどの企業努力でしのいでいる状況にある。

 実際に、ある100円ショップ向けメーカーの帝国データバンク調査報告書の「最新期の業績」欄を見ると、このような記述がある。

「最新期は、得意先の100円ショップの積極的な新規出店によって店舗数が増加したこと、既存店舗の販売量が好調であったこと、ハロウィンやクリスマス商材の販売が好調だったことなどから増収となった。損益面は、原材料価格や運送コストの上昇により仕入れ単価が上がり、粗利益率は前期より6.0ポイント以上も低下した。また、販管費は前期より大幅に増加。結果、営業損益以下の各段階損益は欠損計上を余儀なくされた」(一部抜粋)。

 銀行の審査担当者(前出)は「いま思えば、近畿用品製造だけが業界環境に比べて財務分析数値が良すぎた。同業他社と事業環境は変わらないはずなのに…」とため息を漏らしていた。

 どんな業界にも、勝ち組がいれば負け組も存在する。それ自体は仕方がないことだと言える。近畿用品製造は、勝ち組の仮面をかぶった負け組だったということだろう。世の中がデフレ脱却へと進むなかで、近畿用品製造の経営者は負け組からの脱却を本気で目指していたのだろうか? 会社が置かれている現実を粉飾決算で覆い隠し、企業情報を秘匿し続けていては抜本的な経営改善に着手できない。

 見せかけの優良企業のままでは、事業の再構築や人員削減など大ナタを振るうことができないからだ。デフレ下での市場拡大によって成長を遂げた近畿用品製造は、デフレの終焉が近づく現在の環境変化に対応できず、関係者に業界の課題と決算書への不信感を残したまま、再生の道をたどることとなった。

<連載ラインアップ>
■第1回 ダイソーと蜜月関係だったのに…「つぶれない会社」で有名だった100均グッズメーカーは、なぜ突然破綻したのか(本稿)
第2回 楽天モバイルとの取引で急成長 業績が2年で3倍になった運送会社は、なぜ不正取引と資金還流に手を染めたのか?

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