日清食品常務取締役事業統括本部長兼Well-being推進部長、NISSIN ACADEMY学長、フィジカルインターネットセンター理事の深井雅裕氏(撮影:宮崎訓幸)

 物流と地球社会を持続可能にするために、今何が必要なのか。デジタル先端技術から経営戦略まで、世の誤解・曲解・珍解を物流ジャーナリスト・菊田一郎氏が妄想力で切りさばく連載企画。

 第12回からは5回にわたり、日清食品常務取締役事業統括本部長兼Well-being推進部長で、フィジカルインターネットセンターの理事を務める深井雅裕氏を迎えた特別対談をお届けしている。第15回ではサプライチェーンの「全体最適」へ向けて日清食品が取り組んだ組織構造改革、異業種との物流共同化、調達物流の見える化について、実例を基に紹介する。

日清食品取り組み事例①サプライチェーン全体最適への組織構造改革

菊田 第14回の議論を踏まえて、今回は次のテーマに移ります。深井さんが日清食品で物流・サプライチェーンの担当に着任した経緯は第12回で聞きましたが、今まで実際に物流・ロジスティクス改革にどのように取り組んできたのですか。復習すると、深井さんが2019年にサプライチェーン部門の部長に就任する前は……?

深井 当時は営業戦略部長で、そこからサプライチェーン企画部部長 兼 物流構造改革プロジェクトのリーダーになりました。直近の8年間で私は8部署を新設し、1部署をリニューアルしてきたので、全部は覚えてないんですが(笑)。

 では、そうした社内の組織構造改革からお話しします。まず、物流構造改革プロジェクトには生産部からナンバーツーを引き抜いて生産戦略室長にしたり、逆に当プロジェクトから資材部に部長を送り込んだりと、戦略部門を起点にした「たすき掛け人事」で生産・資材・物流・営業と、各部門が連携して動けるようにしました。

 これは非常に良かったですね。組織の壁を取り払って皆がお互いの立場を理解し、各部門が連携して戦略的に連携できるようになって、すごく前進がありました。

 私は日清食品におけるサプライチェーン戦略立案と資材・製品の供給計画&製品受注、それに加えて人材育成&組織開発を管掌していますが、これもさまざまなロジスティクスの改革を前進させるための仕組みです。

 現在の組織は、取締役会・社長の下に私の管轄するSCM本部とWell‐being推進部が並置され、SCM本部の下のSCM部が資材供給・製品供給・物流管理の各グループとロジスティクスオペレーションセンターを擁しています。

 Well‐being推進部の下にはWell‐being企画室、コミュニケーション戦略室と構造改革推進部を置き、構造改革推進部にはS&OP(Sales and Operations Planning)、DX、アライアンスの各推進室と資材戦略室を配置しました。組織をオペレーションと戦略に分けています(2024年9月取材時点)。

深井 サプライチェーン本部の下に最近までSCM部と構造改革推進部を置いていましたが、戦略が動いてきたので、構造改革推進部のゴールをさらに拡大したWell‐being推進部に移しました。当部門では、先の「CLO (Chief Logistics Officer、最高ロジスティクス責任者)」の定義にもあった社会課題のテーマを広く扱います。より大きなテーマに視線を移そうと考えた結果です。

菊田 なるほど~! 物流、サプライチェーン・ロジスティクスだけでなく、Well‐beingという社会課題にまで広く組織の視野、ビジョンを広げた点は、高く評価できますね。

日清食品取り組み事例②異業種で水平・垂直物流連携

深井 次に具体的な物流連携の取り組みですが、異業種との物流共同化に注力してきました。同業者は季節波動も、軽い・かさばるなどの特徴も同じなので、一緒に運んでもさほどメリットが出せない。メリットの出せる相手は、まず『軽い・重い』や『夏・冬の波動』とか特性が逆のところです(図表3)。

図表3 業界を超えた異業種共同保管&共同配送は積載率向上に直結

(注)車のマークは必要なトラック数、折れ線グラフは月別食数。いずれもブルーが飲料メーカー、グレーが日清食品。繁忙期も必要なトラック数も異なることが分かる。
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 そこでサントリーホールディングス様、アサヒ飲料様、サッポログループ物流様、そして伊藤園様などの飲料メーカー様との水平連携となる物流共同化を、あれこれ工夫して実現しました(図表4)。

図表4 【水平連携】ビール・飲料業界を中心に複数の企業と共同輸配送を実現

 もう1つは調達物流と製品物流を垂直連携で統合し、ラウンド輸送を実現した事例です(図表5)。JA全農様から原料になる加工用米を届けてもらい、その帰り便で当社の製品を積んで運んでもらいます。資材の調達物流との連携は他にも複数の資材メーカーと行っています。資材の帰り便はほとんどカラだったので、その車を製品物流に利用しているのです。

 図表5 【垂直連携】資材調達物流と製品物流の統合でラウンド輸送を実現

日清食品取り組み事例③調達物流の見える化で製品物流と統合

菊田 この調達物流は従来、物流部門にとっては管轄外で、暗黒大陸的な存在だったんですかね。トヨタ自動車でさえ、東日本大震災でサプライヤーの1社が被災した時、部品供給が断絶するとは思っていなかった。ティア10まであるサプライヤーの多重サプライチェーン階層を当時は把握できていなかったからです。

 今の事例のように資材・原材料の調達サプライチェーンを把握して製品物流との連携を図ることには、レジリエンス強化を含め大きな可能性がありますね。

深井 実はわれわれも、調達物流の可視化に取り組んでいるんです。前記の通り従来、調達物流には資材部もサプライチェーン企画部も関与しておらず、各工場が生産計画に基づき都度発注していたので、複雑な流通経路も見えないまま。しかも資材価格に物流費が織り込まれていて、その管理も手つかずだったんです。

 これではいけないと、日本全国で調達物流がどこでどう動いているのかを調査し、プロットしてみました(図表6)。

図表6 調達物流の可視化

 この見える化で、実に多数の流れが錯綜していることが判明しました。「ここからここにも、あそこにも運んでいる、ムダじゃないのか? こう運べばもっと効率的になる!」ということがさまざまな地域で分かってきました。

菊田 製品物流とうまく組み合わせれば、相当効率化できそうですね。

深井 それもデジタルデータで可視化することが必要ですね。発注ロットが小さいと、路線便で資材を運んでもらっている場合もありました。われわれは配送ロットを気にかけず、工場が生産の都合のみを考慮して、必要なものを必要な時に発注していましたから。配送ロットを大きくし、その頻度を抑えて月1回にするだけでも、まとめて積載効率を上げられます。

 先日、群馬の物流会社さんから、「日清の製品を下関工場に引き取りに行っているけど、知人の運送会社が、下関への資材を納品しているので、それを統合するなどして、お互いの車を活用できないか?」という提案をいただきました。

 資材部に確認したら、その運送会社と、当社が資材を受け取るメーカーの拠点が近くにあることが分かったんです。この結果、その運送会社の製品引き取り便で資材を納品することで往復で荷物を確保することを実現しました。この事例をきっかけに製品物流と調達物流の統合による効率化の可能性にチャレンジしています。

 こうしたことは縦割りの弊害で全く見えておらず、重複するルートで本来は必要のない片荷輸送をしていた。資材は資材、製品は製品で別々に運んでいたため、資材の帰り便はカラ。これを繰り返していたわけです。

 個別には最適な仕事をしているのに、サプライチェーン全体視点で見たら最適ではなかった――これを把握することがものすごく重要なんです。まさしくそこが、CLOの役割。菊田さんが言われる通り物流統括管理者ではなく、CLOの重大任務ですね。

菊田 いや、ホントにその通りです!

深井 付け加えると、今回の物流2法改正でとてもありがたいと思うのが、物流の委託先から下請けに仕事が出されている場合も、(自らの運送機関を利用し運送を行う)実運送事業者まで見える化する方針が出されたことです。実際は当社の製品をどの運送会社が運んでくれているのか、明らかになることに期待しています。

「流通業務の総合化及び効率化の促進に関する法律(物流総合効率化法/物効法)」と「貨物自動車運送事業法」

 そうなれば、近いところで行ったり来たりしているムダがもっと見つけられるはず。今はデータ標準化が未達で必要な情報が取れていませんが、そうなれば季節波動が逆の飲料メーカーとの、ハブ拠点における共同保管などのアライアンスもより容易になると思います。

(次回につづく)