60回の失敗から導いた必要最小限

VR内見で見える室内。写真をクリックすると、物件の360度パノラマがご覧になれます。

 実際に「VR内見」を試させてもらうと、いかにも実用的という印象を抱く。VRという言葉でイメージするのは、ゲーム的な世界感、要素ばかりだったので、そのギャップに驚いた。派手な機能があるわけでもなく、簡単に部屋の作りがわかるようにできている。

 奥行きはもちろん、天井の高さもリアルに感じ取ることができるので、試さない手はないと思えた。その理由を多田さんはこう説明する。

「ここに行きつくまでに、60回失敗しました。開発当初は、VRと内見をどう使うか、ずいぶん試行錯誤しました。いろいろな仕掛けや機能を作ってみたり、考えてみたり・・・でも、答えは至ってシンプルなんです。圧倒的に実際の目的に即した動きを重視する。必要十分に絞ってサービスを供給することです。すごく見栄えのいいVRを見たからといって、成約率にはつながらないんです。我々はVRをソリューション化して、すべて利用者のためだけに開発を行い、『60回もの失敗』をし、改善を続けてきました」

 つまり不動産業界の現場と真摯に向き合い、その声に素直に耳を傾けてきたからこそ、ユーザーと大家という「お客様」の信頼獲得に繋がるものとなったのだ。筆者の質問に対する、言葉が象徴的だ。

――もっと、ボタンで前にどんどん進んだりできるのかと思っていました。

「実際に内見するときにボタンでは進まないですよね。技術的にはできますけど(笑)」(多田社長)

 効果は、と言うと「VR内見」を導入して1.5倍に跳ね上がった店舗もあるという。