ハードウエア分野の新興企業もプロトラブズのサービスを利用している。例えば高級トースターのヒットで有名になったバルミューダだ。サーキュレータ製品「GreenFan Cirq」の開発時に試作部品の製造を依頼。セイコーエプソンや日本電色工業と同様、プロトラブズのスピード感が高評価の理由だったという。
「限りある期間内で、繰り返し設計を検証できるのが大きな売りの1つ」と横田氏は語る。「デザイン上の難易度が高い製品であれば特に、開発期間内の早い時期に問題が洗い出せる。つまり、設計をもっと詰めることができる。市場競争が激しくなっている今、お客様企業に貢献できるところは大きいはず」(横田氏)。
課題は顧客企業側の社内体制
設計者にとってはメリットの大きそうな“デジタル試作会社”のサービスだが、そのスピード感を生かせるかどうかは、発注者側の社内体制が左右しそうだ。
例えばプロトラブズを利用するメリットの1つは、設計した部品の製造性や納期の概算をWebサイトの画面上ですぐに確認できることである。だが、それには顧客企業の設計者は部品の3次元データをプロトラブズのサーバーにインターネット経由でアップロードする必要がある。このアップロードというアクションが顧客企業社内のルールに抵触するおそれもある。「資材調達部門が定めた手続きを経なければならない」ならまだしも、「社外のサーバーに開発部品のCADデータをアップロードしてはならない」といったルールがあれば、設計者としてはプロトラブズを使う際に慎重にならざるを得ない。
プロトラブズ側ではこうした企業側の事情を考慮し、「ご相談の内容に応じて個別対応も実施している」(横田氏)という。例えば顧客企業のサーバーを経由してデータを授受する、製造性の解析結果や見積もり結果は資材調達部門を経由して設計者に渡す、といった具合である。
ただそれでも、現場の設計者がプロトラブズのサービスを機動的に使いたくても使えずに終わることも多いようだ。例えば、コスト削減の要請から資材調達部門が調達先を絞り込んでおり、設計者側の都合だけではなかなか増やせないというケースである。コスト削減に注力したい資材調達部門と、良いものを作りたい設計者の意図は、必ずしも合致するものではない。
現場の設計者からの強い要請を受けて資材調達部門が折れたのだろうか、横田氏は「特例として緊急の部品試作の相談にいらしたような雰囲気のケースもある」と打ち明ける。
ものづくりに携わる企業が機動的なデジタルサービスの恩恵を受けて、その真価を発揮できるかどうかは、組織によくある縦割りの都合をクリアできるかどうかにかかっているのかもしれない。デジタルに理解のあるマネジメント層が、個々の組織の利害関係を超えた采配を下すことが必要だろう。