「AI市場はすでに競合がひしめき合っており、レッドオーシャンの状態だ。しかし、セキュアAIの分野は今のところ競合らしい競合がいないブルーオーシャン。海外に出ても十分に勝負できる」。そう話す今林氏に、AIとセキュリティに着目するようになったきっかけや、今後の事業展開を聞いた(今林氏の経歴は最終ページ)。

脳に対する興味からAIに行き着く

――セキュアAIについて聞く前に、AIモンスターがどのように誕生したのかに関心があります。

今林広樹氏(以下、敬称略) もともとコンピュータオタクでもエンジニア肌でもありません。ただ、7歳か8歳あたりから、脳の働きに強い関心を持っていました。意識とは何だ。なぜ睡眠が必要なのか。どうして今これをやったのか。自分の行動を振り返り、冷静に俯瞰して考えるような子供でした。そんなこともあり、大学は脳科学に関係がある勉強ができるところを選び、早稲田大学の先進理工学部生命医科学科に進みました。

――そこでAIと出会った。

今林 大学3年生頃から脳のことを理論的に知りたいと考えるようになり、行きついた先が、脳をモデル化するAIでした。その後、独学でAIの勉強をしているうちに、今度はモデル化した数式をシミュレーションしたくなった。そこでコンピュータの勉強を始めたら面白くなり、AIとコンピュータにのめり込んでいきました。

 そもそもAIの可能性に惹かれ始めたのは、もう少し前ですね。ある会社の創業メンバーとして仕事を手伝うなかで、スタートアップの海外動向を調べていたときです。米国西海岸の大学で、文系の学生が将来を見据えて理工系の機械学習の授業に入り込み知識を得ようとしている、といった記事を目にしました。それが「機械学習って何だ?」と興味を持った最初です。

――セキュリティについては、どういうきっかけで?

今林 AIを学ぼうと大学院でデータサイエンスの研究室に入って間もなく、すごい技術に出会ってしまいました。「高機能暗号」です。従来の暗号化はデータをただ隠すだけの技術なのに対し、高機能暗号はデータを暗号化した状態で解析や検索の機能を使える。