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イノベーション
2017.09.19

生体センサーとIoTで登山はより楽しく安全になる
IoT時代、<登山の体験>が変わる

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日本百名山のひとつ、北関東の皇海山。(筆者撮影)

「百の頂に百の喜びあり」。

日本百名山』(新潮社)を世に送り出した深田久弥さんのこの言葉に魅せられて、著者が山登りを始めてから随分と時間が経つ。

 コンサルティングの仕事の合間、まとまった時間ができると、60リットルのザックに寝袋、テント、着替えと3日分の食料を詰めて、ひとり山へと向かう。

 著者の登山スタイルにユニークな点があるとすれば、仕事柄、デジタルの登山ギアに人一倍強く反応して、それらを“実戦投入”していることだろう。

 最近の一押しは、iPhone7に入れている登山アプリ「ジオグラフィカ」(Geographica、デベロッパー:Keiji Matsumoto)である。

「ジオグラフィカ」の地図表示画面。

「ジオグラフィカ」はその名が示すとおり、本格的なナビゲーション機能を持った“使える”登山用GPSアプリ(キャッシュ型オフラインGPSアプリ)である。

 クルマのカーナビ同様、たとえ携帯電話の電波の届かない山奥であっても、自分が今いる位置と歩いた軌跡が地図上に正確に表示される。

 しかし、このアプリの潜在的な魅力はそれだけではない。

IoT Today』 の読者の方であれば、気付くだろう。このアプリの今後の機能拡張の技術的な方向性としてIoT導入を想定すると、登山者にとって、さらにワクワクするような登山体験を提供してくれる可能性が大きいことに。

 IoT時代、<登山の体験>も変わる。

 実際に「ジオグラフィカ」を連れ、日本百名山のひとつ、北関東の皇海山(すかいさん、標高2144m)の山頂へと続く変化に富んだ尾根道を歩きながら、いろいろと楽しい想像を巡らしてみた。

最大の魅力は「体験の可視化」と「スピーチ機能」

 これまでも「地図ロイド」(Android版のみ)のようにGPSを利用して、あらかじめ読み込んでおいた国土地理院の地図に現在位置を表示してくれる登山用のアプリ(いわゆるキャッシュ型オフラインGPSアプリ)は存在した。

 登山以外でも、例えば、ランニングの世界では「NIKE+」がいち早く同様のサービスを提供していることは周知の通りである。

 しかしながら、老若男女を問わず、大多数の登山者にとって登山ルートの確認方法の定番は『山と高原地図』(昭文社、最近はアプリ版もリリースされている)と方位磁石(コンパス)を組み合わせる、という昔ながらのアナログな手法だろう。(実際、著者も登山の際は『山と高原地図』を必ず携行している)

 デジタル登山ギアのギークであれば、ガーミン(GARMIN)の登山用GPS専用機を選択するというケースもありうる。

 しかし、ガーミンは値段が7万円から10万円と高価な上、肝心の地図を表示する液晶画面が小さいため、GPSの精度に定評こそあるものの、一般の登山愛好家は手を出しにくい代物である*1

*1:ガーミンは最近、地図ガイド付きマルチGPSウオッチ「フェニックス 5X サファイア」を発売した。高度計、気圧計、コンパスに加え、光学式の心拍計を備えているが、腕時計ゆえ肝心の地図の表示面積が小さく、登山地図の代わりにはならない。

 方位磁石、気圧、高度(気圧から計算される)だけなら、スント(SUUNTO)の「コア」シリーズやカシオの「プロトレック」に代表される登山用腕時計で情報は取れる。しかし、地図読みの判断(読図)は登山者自身が行わないといけない*2

*2:カシオの「プロトレック」スマートでは地図表示が可能になったが、ガーミンと同様の理由で登山地図としての実用性は低い。

 その点「ジオグラフィカ」は秀逸である。「登山体験の可視化」の点で、このアプリを超える登山ギアはないだろう。

「ジオグラフィカ」のトラックポイント一覧表示。

 同時に、バックグラウンドでは非常にこまめにトラッキングデータ(高度、距離、時間)を記録してくれているので、登山者が定期的に登高速度(登山者にとっては自身のパフォーマンスを知る重要なバロメーターになる)を把握することが可能である。

「ジオグラフィカ」はスマホのアプリなので、軽量化を旨とする登山に余計な荷物が増えないのもありがたい。

 加えて960円の買い切り(課金)で使い放題(しかもトラックログ8回までは無料)なのは、経済性の点でも他の登山ギアと比較した場合の圧倒的な優位性といえよう。

 さらにこのアプリには「スピーチ機能」(音声でのトラッキングデータ通知)という従来の登山用スマホアプリやガーミンになかった、極めて特徴的な機能もある。

 ふだん、ヘッドランプや応急薬の入っているザックの雨蓋の中に、iPhoneを押し込んで登山道を歩いてみよう。若い女性の音声で、現在時刻、標高、踏破距離、登高速度(1時間にどれだけ高度が上がるかという数字。地図では通常300m/時でコースタイムが設定されている)など必要な情報を逐次、耳元で囁く感じで教えてくれる(情報の種類や頻度は利用者によるカスタマイズが可能である)。

「10時10分。標高1800メートル地点です。登高速度は登り453メートル」というような具合に。

 アプリがトラッキングデータを記録する際には、ピヨピヨという小鳥のさえずりが聞こえてくる仕組みになっている。

「日本語も話せる、可愛くて有能な小鳥」を肩に止まらせて歩いているような錯覚。もっぱらソロ登山を好む著者ではあるが、決して悪い感じはしない。

IoTで可能になる登山者の体験の「近未来の予測と改善提案」

 急登のガレ場が連続する登山道で、著者の妄想はピークに達してしまう。

 仮に著者が左腕につけているカシオの「プロトレック」に、フィットビット(Fitbit)のリストバンドのように生体データを測定するセンサーが内蔵され、「ジオグラフィカ」とBluetoothでつながっていたとしたら・・・。

 このアプリが提供してくれるサービスの内容は、さらに大きく進化するに違いない。

 登山は体力的な側面では、限られた時間内での、疲労との戦いでもある。

 アプリは、リストバンドから送られてくる心拍数、血圧、発汗量などの生体データから、登山者の疲労度を瞬時に判断する。そして目標地点までの到達時間を予測してくれるだけでなく、必要に応じて、休憩や補給などのアドバイスをしてくれるはずである。

「通過ポイントの不動沢のコルまであと10分。コルの先は山頂まで標高差200メートルの急登です。登高速度が徐々に低下しているので、小休止と水分補給をおすすめします」という具合に。

「近未来の予測と改善提案」は、IoTが人間にもたらす体験価値の本質である。

 このように空想を自由に膨らませて行くと、登山時の体験だけでなく、登山前の体験も変わっていくことが推察される。

 登山者のトラッキングデータはインターネット経由で吸い上げられ、時系列的に蓄積されていく。AIが何十万人ものアプリの利用者の中から、著者とパフォーマンスデータが似通った登山者のグループのデータを抽出し、本人のデータと統合・解析していく。

 すると「無雪期に、八ヶ岳の赤岳鉱泉小屋を起点に阿弥陀岳、赤岳、横岳、硫黄岳を周回した場合のあなたの予想コースタイムは8時間40分」というような形で、アプリが登山計画を自動で作成してくれるようになるだろう。

 登れる山と登りたい山は違う。しかし現実には、この辺りの勘違いが原因で道迷いや滑落による遭難が頻繁に起きているのも現状である。

 アプリの進化は、登山の体験にこれまでになかった新しい楽しみを付け加えてくれるだけでなく、山岳遭難のリスクという社会的な問題をも解決してくれるに違いない。

 IoTは企業の「なりわい」を変えることはもちろんだが、登山のようなスポーツの体験のあり方も大きく変えていくだろう。

JBPRESS

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