近年、戦略の複雑化が進み、企業はさまざまな分野で高度な戦略を展開している。だが、多くの企業が高収益を上げ、従業員に対する手厚い報酬を提供できているわけではない。なぜ戦略と実行が、一部の企業には成功をもたらし、他の企業にはもたらさないのか。本連載では、ハーバード・ビジネス・スクールで教えらている最先端の戦略理論「バリューベース戦略」を紹介した『「価値」こそがすべて! ハーバード・ビジネス・スクール教授の戦略講義』(フェリックス・オーバーフォルツァー・ジー著/東洋経済新報社)より、一部を抜粋・再編集。戦略を簡素化し、圧倒的な成果につなげる新たなアプローチを解説する。

 第3回目は、価値創造に優れた企業が大切にするWTP(支払意思額)とWTS(売却意思額)の差を最大化する方法と、戦略のシンプルさがいかに実行スピードを上げるかについて見る。

<連載ラインアップ>
第1回 ハーバード・ビジネス・スクール教授が教える圧倒的な成果を上げる戦略とは?

第2回 税引前利益は2倍、株価は4倍に、米家電量販店大手ベスト・バイの復活劇
■第3回 米家電量販店大手ベスト・バイに学ぶ、競合を置き去りにする戦略と実行力(本稿)
第4回 米旅行予約サイト大手エクスペディアは、なぜ激しい競争を生き抜けるのか


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価値創造に優れた企業は、WTPとWTSに正面から取り組む

 すべての重要なイニシアチブは、カスタマーエクスペリエンスを向上させる、つまり、消費者のWTPを高めるか、あるいはベンダーや従業員にとってその企業で仕事をする魅力を高める、すなわち、WTSを低下させるようにデザインされています。このテストをクリアできないイニシアチブは、棄却されます。たとえば、ベスト・バイは、アマゾンのようなマーケットプレイス(サードパーティベンダーが自社製品を販売できるようにする取引所)を廃止しました。価値創造に失敗したためです。

同業他社より優位に立つ企業は、模倣が困難な方法でWTPを上昇させ、WTSを低下させる

 ベスト・バイの最も特徴的な資産は、その大規模な店舗ネットワークです。実店舗で提供されるクオリティの高い公平なサービスは、ベスト・バイの競合他社が追随することは困難です。アマゾンには同様のリアルな店舗がありません。ウォルマートはハイタッチ・サービスを提供することで知られているわけではありません。アップルは顧客への公平なアドバイスに消極的です。

シンプルさは、創造性と幅広いエンゲージメントの余地をもたらす

 ジョリーは、リニュー・ブルー戦略を最もシンプルな言葉で表現しています。「私たちの使命は、テクノロジー製品、サービスを提供する場所となり、その権威となることです。私たちは、お客様がテクノロジー製品を発見し、選択し、購入し、ローンを組み、起動し、楽しみ、そして最終的には買い換えるお手伝いをするためにここにいます。また、オンラインと店舗の両方でテクノロジー製品の最高のショールームを提供し、パートナーであるベンダーのマーケティングを支援します※1

※1 Hubert Joly, "Best Buy Earnings Call," Thomson Reuters Street Events, edited transcript, November 19, 2013.

 ここで博士号は必要ありません。大切なのは、顧客のWTPとベンダーと従業員のWTSだけです。

 ベスト・バイの再建ストーリーを見ると、その動きの速さや、何十ものイニシアチブをすばやく立ち上げ、実行に移していること、そして、ここで述べることができないそれ以外の多くのことに驚かされます。猛烈なスピードで実行するには、戦略がシンプルであることが重要です。WTPを高める方法、WTSを低くする方法についてアイデアを持つすべての役員、店長、従業員は、企業を正しい方向に導く手助けをしていると確信することができるのです。