成長戦略の一環としてM&Aを検討している企業も多いだろう。しかし一方で、M&Aが成功する確率は必ずしも高くはないといわれている。多額の資金を投じたM&Aの失敗は成長戦略を挫(くじ)くだけではなく、企業価値そのものを大きく棄損させてしまう。まさにM&Aの巧拙が企業の未来を左右すると言っても過言ではないだろう。

 当連載は、A.T. カーニーの久野雅志氏が、M&Aのトランザクションが始まる前に実施すべきM&A戦略の立案から、ビジネスデューデリジェンスの在り方、買収後のPMI/バリューアップまで、M&A実務担当者の視点で成功のノウハウを体系化した書籍最強のM&A 異質を取り込み企業の成長を加速させる指針と動作』(東洋経済新報社)から一部を抜粋・再編集してお届けする。前編となる本稿では、自社の戦略実現にとって最も有効なM&Aを特定し、こちらから積極的に買収(もしくは事業提携)を打診するために必要な視点や具体的な方策について、A.T. カーニーが関与したメーカー系企業の実際のプロジェクト事例を基に解説する。

<連載ラインアップ>
■前編 M&Aは案件を待っているだけはダメ、最高の案件を獲得するために必要なこと(本稿)
後編 最高のM&A候補企業はどうしたら見つけられるのか?
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案件起点ではなく、事前に備えておく

 自社の企業価値にとっても最も適した案件を主体的に掘り起こしてM&Aができている会社は必ずしも多くないのではないだろうか。実際には、M&A候補先は普段の事業活動の中で接点がある関係会社や、そこから入ってきた情報をもとにM&Aに発展するケースか、証券会社やM&A仲介会社などの外部のアドバイザーからの具体的な候補先企業の持ち込みからM&Aの検討が始まることが多いのではないだろうか。

 普段の事業活動の中で接点がある先に対するM&Aでは、買収前から対象企業の事情がよく分かっており、失敗する確率は下がるかもしれない。また、証券会社やM&A仲介会社などからの持ち込みも、普段では接点がなかったような望外の案件が持ち込まれることもあるかもしれない。

 一定のメリットもある一方で、このようなM&Aだけだとデメリットも大きい。普段の事業活動で接点がある会社へのM&Aばかりだと、業界の構造を変えるような競合相手へのM&Aやゲームのルールを変えるような新たなM&Aは起こしづらい。また、持ち込み案件中心であると、当然、そういった案件に関しては買い手候補間での競争が厳しく、また、十分な準備ができていない中での検討となり、本来良い案件であったにもかかわらず、社内で十分な合意形成ができなかったため見送りになることもある。

 また、社内の決裁が下りる場合でも、そういった案件は競争が厳しい中で、十分な準備ができず、重要な論点を検証しきれないまま高値で買ってしまうということもある。また、本来検証すべき論点が時間切れで十分検証できないまま見切り発車で買収の意思決定をしてしまい、結果、あとから想定外のことが発見されてしまうリスクもある。

 そうならないために、自社の戦略起点で、その実現にとって最も有効なM&Aを特定し、こちらから積極的に買収(もしくは最初は事業提携)を打診するという動きが求められる。そのようなM&Aを起こすには、大きく5つのことを検討・推進する必要がある。