世界で初めて『ユーロマネー』『ザ・バンカー』『グローバル・ファイナンス』の3誌から「世界のベストバンク」という称号を12カ月のうちに冠された銀行「DBS」。これは銀行界では、映画でいうアカデミー賞で「作品賞」「監督賞」「主演賞」の3つを同時受賞したに等しいともいわれる。顧客満足度最下位だったシンガポールの元政府系金融機関、DBS銀行(旧称:The Development Bank of Singapore)は、いかにして最先端のテック企業へと生まれ変わったのか?「世界最高のデジタル銀行」と称賛されるDBSの変革の軌跡から、DXを成功させるための教訓、ベストプラクティス、成功の秘訣を学ぶ。

 第2回となる本稿では、DBSが「バンキングを楽しくする」ことを中核に据え、デジタル主導銀行へと変革するために取り組んだ4つ優先項目を紹介する。

(*)当連載は『DBS 世界最高のデジタル銀行:テクノロジー企業を目指した銀行の変革ジャーニー』(ロビン・スペキュランド著、上野 博訳/東洋経済新報社)から一部を抜粋・再編集したものです。

<連載ラインアップ>
■第1回 世界最高のデジタル銀行「DBS」の変革は、いかにして実現されたのか?
■第2回 DBSがデジタル主導銀行へと変革するために取り組んだ、4つの優先項目とは?(今回)
■第3回 DBSをDXで「世界最高のデジタル銀行」たらしめた、3つのシンプルな戦略原則


<著者フォロー機能のご案内>
●無料会員に登録すれば、本記事の下部にある著者プロフィール欄から著者フォローできます。
●フォローした著者の記事は、マイページから簡単に確認できるようになります。
会員登録(無料)はこちらから

 2014年のプーケット島での経営陣ミーティングを終えて、DBSは「デジタルウェーブ」の導入に取り掛かった。「新しいアジアにおいて選ばれるアジアの銀行」となることが、「アジアウェーブ」の中核であった。同様に、「デジタルウェーブ」では「バンキングを楽しくする」ことが中核に据えられた。目的は、カスタマージャーニーに焦点を当てて、導入される数々のテクノロジーから得られる機会を活用することである。

DBS 世界最高のデジタル銀行
(東洋経済新報社)
拡大画像表示

 その結果どうなるか?バンキングを目に見えなくすることで顧客にとって楽しい経験とするということだ。銀行のあらゆる部署で、顧客のために「バンキングを楽しくする」取り組みが始まった。

 当時のピユシュの懸念は、多くの金融機関がフロントエンドのシステムを多少いじくるか、単純にウェブサイトを更新するといったことをやっていて、中核からの変革に取り組んでいないことだった。こうした考え方が、デジタルテクノロジー導入の3分の2が失敗に終わる理由につながっていることを、様々な調査が示している(※)

(※)「なぜほとんどの変革は失敗するのか?ハリー・ロビンソンとの対話」マッキンゼー&Co

「デジタルの口紅を纏うだけでは十分ではないのだ」―ピユシュ(CEO)

 そのため、経営陣は「デジタルウェーブ」を銀行全体に組み込もうとし始めた。同時に、常に顧客視点からのトランスフォーメーションに取り組むようにした。ピユシュは「デジタルウェーブ」がIT施策として見られることがないようにしようと決心した。実際それは、全く異なるものだった。

 単にデジタルの口紅をつけるのでなく、完全なデジタル主導銀行へと変革するために、ピユシュは以下の4つの項目に優先的に取り組んだ。