経営環境が様変わりする中で、総務部の果たすべき役割も日々変化している。企業の持続的な成長やイノベーションの実現に貢献する「戦略総務」を実現するためには、どのようなアプローチが有効なのだろうか。ソニーマーケティング初代総務部長を務め、現在は小山エフ.エム.ブランドの代表である小山義朗氏に、管理総務から戦略総務へ変革するための考え方と具体的なステップについて聞いた。

※本コンテンツは、2022年10月26日に開催されたJBpress/JDIR主催「第3回戦略総務フォーラム」の特別講演2「管理総務から戦略総務への変革─ソニーで培った戦略思考の実践─」の内容を採録したものです。

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3つに分類される総務業務の捉え方

 ソニーマーケティング初代総務部長やソニーファシリティマネジメント代表取締役社長などを歴任し、ファシリティマネジメントの先駆者でもある小山義朗氏は、その経験から、これからの総務部門は「管理総務」から「戦略総務」へ変革するべきだと語る。

 そもそも総務業務にはどのようなことが求められているのか。小山氏は次の3つを提示する。

 1つ目は、決められたことを決められた通りに実行する「オペレーション総務」。2つ目はオペレーション業務に加え、変化や異常を察知し、適正な改善を行う「管理総務」。そして3つ目は、現状を把握して組織の改革を進め、企業内で戦略部門の1つとして必要不可欠な存在となる「戦略総務」だ。

 オペレーション総務は、総務業務の基本中の基本だといえるだろう。小山氏は、その業務内容として29の中項目を挙げ、そこからさらに1871の細目にわたると説明する。中項目の内容は、福利厚生業務、安全・衛生・防災関係、ホームページの運用、セキュリティー・入退館管理などが挙げられる。ソニーのように開発系の部門がある場合は、生産設備用のインフラ供給や施設機器の保守管理、修繕・維持管理業務も必須となる。

 管理総務については、大事な業務内容の1つに経費管理がある。

「支払期限の決められた経費処理を滞りなく進めるため、期限や金額を整理した管理台帳を作成し、オペレーション総務にミスがないように業務を遂行することが求められます。例えば『担当者が請求書を一人で抱えたまま休暇を取り、支払い遅れを発生させてしまった』といった事態にならないよう、データベース・マネジメント・システムでアラームを出すなどして、支払い遅れを予防する仕組みが必要です」

 加えて、水道光熱費やエネルギー消費量に大きな変動があった場合、その原因を追究し改善を図ることも管理総務の成すべき役割だという。

 ここまでは一般的な総務部の業務といえるが、3つ目の「戦略総務」には何が求められるのだろうか。

「管理総務で行っている経費管理を『コストコントロール』という意味合いに変えることも戦略総務の1つです。この実践には、同業他社のベンチマーク調査を行いながら、コストや機能、品質、スピード、CSなどを俯瞰(ふかん)的に捉え、自分たちがどういったポジションで仕事をしているのか、はっきりと意識をする必要があります」

 その他にも、省エネ施策や災害ゼロへの施策企画・実践、防災企画、BCPの計画支援などを、戦略総務の実践事例として小山氏は提示する。

総務は「日の当たる場所で活躍する」存在としての位置づけを

 小山氏は数年前にベンチャー企業10社の取締役を対象に「戦略総務」についてのアンケート調査を行った。その結果、5社は「総務こそ戦略的に取り組むべき」と回答し、戦略総務の重要性を十分に理解していた。ところが残り5社は「戦略は人事や経理で十分に対応できる」「売り上げに直結しない総務は評価できない」というような回答をしたという。このアンケート結果を踏まえて同氏は次のように指摘する。

「例えば、売上高利益率1%の企業の総務部門が100万円のコストセーブを行えば、それは1億の売り上げに相当すると考えられます。売り上げに直結しないという一方的な見方は正しくありません。総務の努力や仕掛けによって、利益に匹敵する評価が得られると考えます」

 こうしたことから、小山氏は「これからの総務は『縁の下の力持ちから、日の当たる場所で活躍する存在へ』と変化しなければならない」とする。誰にでもできると思われがちだという総務・人事・ファシリティ業務の位置づけは、根底から変えていく必要があるのだ。

 そのためにも「まずは現状を把握した上で総務部門の再構築を図ってほしい」と同氏は説明する。現状把握の際には次の5点を確認する。

(1)お金(労務費、経費の変動、経費のベンチマーク)
(2)効率(仕事の進め方に無駄はないか)
(3)評価(社員は総務・人事・ファシリティのサービスに不満を抱いていないか)
(4)連携(互いの仕事をカバーできる体制が整っているか)
(5)育成(人材育成は行動や実践が伴っているか、評価と見直しはされているか)

「総務部門の再構築にあたっては、『Define(定義づけ)』しなくてはなりません。総務部門としてやるべき業務を整理し、優先順位をつけてアクションプランを実行することで、存在意義は明確化され、組織力の向上を図ることができます」