連載「ポストコロナのIT・未来予想図」の第15回。フェイスブックが主導し計画されていたデジタル通貨「リブラ」は、12月に「ディエム」へと名称変更を余儀なくされた。この背景について元日銀局長・山岡浩巳氏が解説する。
2019年6月に計画が発表された、フェイスブックが主導する「リブラ(Libra)」は、2019年中の国際金融界の話題を独占しました。
2009年に最初の暗号資産(仮想通貨)であるビットコインが登場して以降、数千種類の暗号資産が発行されましたが、そのほとんどは支払決済手段としては使われず、投機の対象にとどまりました。
その第一の理由は、暗号資産の価格変動が激し過ぎることです。誰も、明日値上がりすると思うものを支払いに使わないし、明日値下がりすると思うものを受け取りたがらないからです。
ビットコインのような暗号資産は誰の債務でもないため、発行者は、それを何かの対価として受け取る人がいれば、「発行益(シニョレッジ)」を得ることができます。これは一見「濡れ手に粟」のおいしい話ですが、そうした資産は発行益目当てに濫発されがちです。暗号資産がこれまで数千種類も発行されているのもそのためです。そのような性質を持つ資産は、ますます支払決済手段として使いにくくなります。
もう一つの理由は、支払決済手段として重要な「ネットワーク規模」を獲得できなかったことです。あらゆる決済手段は、他に使う人々や受け入れる人々が多くなるほどその効用が高まるという「ネットワーク外部性」を持っています。暗号資産を支払手段として受け入れるお店が少なければ、これをわざわざアプリに入れて出かけるメリットも少なくなります。
リブラの基本構造
リブラは、このような暗号資産の問題を克服することを狙ったものといえます。