AIの判断能力を高い水準で維持する技術「High Durability Learning」の開発をけん引する富士通研究所人工知能研究所トラステッドAIプロジェクトの中澤克仁主任研究員(右)と横田泰斗研究員(左)

 学習したあと正しく判断を下せるようになったとしても、環境が変われば再度学習をし直す手間がかかる。AIが抱えるそんな“弱点”を克服する技術を富士通研究所が開発した。

 新技術の名称は「High Durability Learning(ハイ デュラビリティ ラーニング:高耐性学習)」。再学習を繰り返さなくても、AIの判断精度を高い水準で維持できる。

正解付けの労力と再学習の回数を削減

 High Durability Learningは大きく二つの機能を備える。一つは、AIによる判断を継続的に監視しながら判断精度の低下をリアルタイムで把握する機能。もう一つは、AIの判断を自動で修正する機能である。このような技術は世界初だという。

 High Durability Learningは「Durable Topology Space(DT空間)」と呼ぶ独自のデータ分類手法を用い、データの分布状況を継続して監視する。一般的にデータの分布はAIが最初に学習した時点から徐々に変化していく。DT空間における分類とAIの判断が異なるデータが現れれば、DT空間に合わせてAIの判断結果を正していく。

 最大の利点は、AIの判断精度を維持するのに要する労力を大幅に軽減できることだ。

 環境の変化によってデータが変わっていってもAIが常に正しい判断を下せるようにするには通常、最新のデータを使った再学習を繰り返す必要がある。再学習を行う際は、データを用意する必要があるとともに、個々のデータをどう判断するべきかという「正解」のラベルを人手で再度データに付加する手間がかかる。

 High Durability LearningはDT空間の分類にしたがってデータの正解付けを自動実行するため、再学習用のデータに「正解」ラベルを人手で付加する手間を減らせる。また、AIの判断結果をDT空間に合わせて見直し続けているので、そもそも再学習の実施頻度を少なくできる。富士通研究所人工知能研究所トラステッドAIプロジェクトの横田泰斗研究員は、「再学習時のデータの正解付けにかかるコストを80%以上減らし、再学習の頻度を90%以上削減するなど、トータルで再学習のコストを100分の1以下にできる」と話す。