起業家からも注目される「事業承継」とは

 後継者不足を背景に、望まぬ廃業を選ぶ中小企業が増加している。中小企業庁長官・安藤久佳氏は、2018年の年頭所感で「中小企業・小規模事業者廃業の急増により、2025年頃までの10年間累計で約650万人の雇用、約22兆円のGDPが失われる可能性」があると述べた。

 こうした中で、「一般社団法人ベンチャー型事業承継」のように事業承継を支援する団体やプラットフォームが誕生するなど、ソーシャルグッドな動きも見られるようになってきた。新たなビジネスチャンスとしても注目されつつある社会課題、「事業承継」を取り巻く現状を見ていこう。

事業承継が抱える課題と現状

 2019年1月21日に東京商工リサーチが発表した「2018年『休廃業・解散企業』動向調査」によると、2018年に全国で休廃業・解散した企業は4万6724件であり、前年比14.2%増。同年の企業倒産は8235件(前年比2.0%減)であり、そちらと比べても休廃業・解散した企業が大幅に増加していることが分かる。

東京商工リサーチの調査結果より
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 また、休廃業・解散した企業の代表者の年齢(判明分)は、70代が最も多く、37.5%。次いで60代の29.0%、80代以上の17.1%と続き、60代以上が全体の83.7%を占める結果に。また、前年と比べて60代の構成比が3.9ポイント低下した一方で、70代以上は4.4ポイント増加。以上のことから、企業が休廃業・解散に至る大きな要因に「経営者の高齢化」があると考えられる。

東京商工リサーチの調査結果より
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 続けて同調査を見ると、2018年に休廃業・解散した企業の従業員数は判明分だけでも13万3815人に及んでいる。事業譲渡に伴う休廃業・解散もあるため、全ての従業員が失業したわけではないが、13万人超の人々が勤務先の変更や離職を余儀なくされたことになる。

 急速に進む少子高齢化によって国内人口・生産年齢人口は減少の一途を辿っており、生産性の低い企業が淘汰されていくのは必然にも思える。しかし昨今問題視されているのは、業績や資金面に何ら課題を抱えていないにも関わらず、後継者難で休廃業・解散に追い込まれるケースだ。

 2018年11月13日に帝国データバンクが発表した「全国『後継者不在企業』動向調査(2018年)」によれば、2018年における日本企業の後継者不在率は全国で66.4%。約18万社で後継者が「不在」という実情が明らかになった。

 社長年代別に見た後継者不在率では、最も高いのは「30代未満」の94.1%であり、経営者が高齢になるにつれ、後継者不在率は減少傾向となっている。過去3年間の傾向を見ると、2016年には全年代の後継者不在率が前年より悪化していたが、2017年以降は50代以上の後継者不在率が改善。2018年には60代以上の後継者不在率が調査開始以降最低を記録している。

 しかし、若干の改善が見られるとはいえ、2018年の後継者不在率は代表者が50代の企業で74.8%、60代の企業でも52.3%を記録。多くの企業で後継者候補が依然未定という状況が続いている。

 中小企業庁が定めた「事業承継ガイドライン」を見ると、後継者の育成期間も含めれば、事業承継の準備には5~10年程度を要するという。加えて、経営者の平均引退年齢は70歳前後だというから、遅くとも60歳頃には準備を始めなくてはならない計算だ。これを踏まえると、引き続き改善の余地があるといえる。

 特に地方では、中小企業の休廃業・解散が相次げば、それが地域の経済や雇用に多大な影響を及ぼす可能性も考えられる。こうした事情から、事業承継や後継者問題は官民共通の課題として広く認知されており、後継者の確保を含め、出来る限り早期に事業承継の準備に着手できるよう支援する団体や企業も現れ、政府の動きと共に注目されている。

課題解決に向けた動き

 中小企業庁は2017年7月7日に「事業承継5ヶ年計画」の策定を発表。以降5年程度を事業承継支援の集中実施期間と定め、様々な支援施策を行なっていく予定だ。

 昨年度は事業承継税制(贈与税・相続税の納税猶予及び免除制度)が大きく改正され、税制適用条件の緩和・拡大、税制適用後の納税の負担軽減を図る10年間限定の特例措置が設けられた。

 事業承継税制は、後継者が非上場会社の株式等(法人の場合)や事業用資産(個人事業者の場合)を先代経営者等から贈与・相続によって取得した際、経営承継円滑化法による都道府県知事の認定を受けると、贈与税・相続税の納税が猶予または免除される制度。これを2027年12月31日まで大幅に拡充することで、中小企業の事業承継を加速させる狙いがある。

 また昨年10月29日、中小企業庁は事業承継の更なる促進について、支援機関(商工会・商工会議所、士業、金融機関等)による取組の活性化や、事業者の意識醸成・連携強化を図るために「全国事業承継推進会議」を開催し、述べ3000名の参加者を集めた。これを受けて、2019年に入ってからは、より現場に近いレベルでの事業者の意識醸成や、支援機関の地方支部間の連携をさらに強化し、円滑な事業承継を推進していくことを目的とした地方ブロック会議が開催されている。

 そして、民間でも以下のような支援団体やマッチングプラットフォームが注目を浴びている。

●一般社団法人ベンチャー型事業承継

 家業の有形無形の経営資源を活用して、新規事業の開発(新サービス・製品の開発、業態転換、新市場参入など)を行なう「ベンチャー型事業承継」を試みる、34歳未満の若手後継者を支援。全国の自治体や企業・団体と共に、アイデアソンやピッチイベント等のイベント事業や事業化支援、資金調達・業務提携支援や事業化促進サポートを行っている。

 同団体の理事にはクラウドファンディングで知られる「マクアケ」の代表取締役社長・中山亮太郎氏が名を連ねるほか、クラウド会計ソフトで知られるfreeeの代表取締役CEO・佐々木大輔氏も顧問として参画している。また、2018年10月15日には野村資産承継研究所から、2018年12月14日には三井住友銀行からの協賛決定を発表しており、2018年6月20日の発足以来、多くの注目を集めている団体だ。

●TRANBI

 日本最大級の事業承継・M&Aプラットフォーム。売り手は無料という仕組みを採用することで、企業規模による制約を無くし、事業承継に悩む個人事業主や中小企業だけでなく、多角化を進める上場企業にも利用されている。

 事業承継の形として、M&Aによる第三者への譲渡も考えられるが、国内にはM&A専門家が少ないことや、高額な手数料がハードルとなることも多い。そうした状況を打破する手段として、オンライン上で売り手と買い手をマッチングさせることで、M&Aにかかるコストや手間、時間を短縮できるTRANBIのようなプラットフォームが登場してきている。

 同サービスは地域金融機関との提携も拡大しており、2019年1月には登録ユーザー数2万人を突破(2018年7月の1万人突破から約半年での達成)。同月末時点で累計M&A案件数は2202件、累計マッチング数は9336件、平均買い手候補社数は11社となっており、今後も成長が期待される。

●M&Aクラウド

 TRANBIと同じく、M&Aにおける買い手企業と売り手企業とを繋げるマッチングプラットフォーム。同サービスは社名や買収条件、買収実績を公開している買い手に対し、売り手が直接売却を打診できるという特徴を持つ。

 2018年11月1日より「スカウト機能」を実装し、売り手側は匿名の会社情報を登録することで、実名の買い手企業から直接スカウトを受けられるようになった。スカウトを送れるのはM&Aクラウドで実名や買収ニーズ、会社の運営方針等を掲載している企業に限られるため、安心して取引を進められる仕組みだ。

 2019年1月8日にはシニアアドバイザーとして国際投信投資顧問(現・三菱UFJ国際投信) 元会長の吉松文雄氏を迎え、さらなる事業成長や金融機関との連携、営業・管理体制の強化を図っている。

 このように、現在「事業承継」という社会課題には多くの関心が集まっているのだ。

事業承継に眠るビジネスチャンス

 後継者不足の解決策として注目される「ベンチャー型事業承継」や「M&A」。特に前者は、M&Aや第三者承継をしたくとも、買い手を見つけるのが困難な小規模な企業にとって有効な手段だ。起業家精神を持つ若手後継者にとっても、ゼロから自分でビジネスを立ち上げるのではなく、継承先の家業を自身がやりたいことに寄せていくスタイルは合理的だろう。

 前掲の帝国データバンクによる調査結果を見ると、全国・全業種の後継候補の選定が済んでいる約9万3000社の内訳で、後継者候補の属性として最も多いのは「子供」で39.7%。次いで「非同族」の33.0%となっており、年代別に見ると60代以降の社長は後継候補に「子供」を選定するケースが多いことが明らかになっている。

 一方で、社長が50代以下の企業は「親族」や「非同族」を後継候補とする場合が多く、50代では約4割が「非同族」を後継候補としている。この結果、全国平均では「非同族」の割合は2017年と比較して1.5ポイント上昇している。帝国データバンクはこの変化について、上で挙げた「事業承継税制」における対象制限の緩和や、国や自治体の政策的な支援のほか、以前よりも社内外の第三者へ事業譲渡を行うことに対する抵抗感が軟化しつつあることも影響しているという見解を示している。

 こうした変化を受け、今後も中小企業のM&Aを仲介するマッチングサービスの利用者は増加していくことが予測される。売上高が年一千万円以下の小規模業者まで扱うTRANBIでは、脱サラした若者が掲載企業を買収したケースもあると報じられており、スタートアップにとっても、経営資源を備えた中小企業はチャンスが眠る領域として、ますます注目を集めていくのではないだろうか。

 中小企業庁がとりまとめている2018年版「中小企業白書」によれば、全企業数の99.7%を占め、雇用全体の7割を創出(2014年時点)している中小企業は、まさしく日本経済の屋台骨。「事業承継」問題は社会課題であると同時に、イノベーションを生む土台として、今後も注目すべきテーマだ。