ILSを主催するプロジェクトニッポンの代表取締役、松谷卓也氏
オープンイノベーションが注目を集める中、毎年東京で開かれているアジア最大級のオープンイノベーションの祭典、「Innovation Leaders Summit(以下、ILS)」。2018年10月22日から24日にかけて行われた第6回ILSでの来場者数は、昨年比約163%の1万1003名を記録した。
今、企業がオープンイノベーションに乗り出す理由は何か。その動向から見える今後の展望は。ILSを主催するプロジェクトニッポンの代表取締役、松谷卓也氏(以下、松谷氏)に話を聞いた。
大企業の関心が集まるディープテック分野
ILSではベンチャー企業による技術展示やピッチ、VCやベンチャー、大企業のキーパーソンによるセッション等も行われているが、大きな注目を集める目玉企画は「パワーマッチング」。大企業とベンチャーとで新事業を創出するためのマッチングプログラムだ。来場者数同様、こちらの参加者数も年々増加しており、今回は128社の大企業から942名、555社のベンチャーから1290名の合計2232名が参加。
大企業とベンチャー双方が事前に専用サイトにニーズや技術・製品などを登録しておくことで、興味のある企業や自社に興味を持つ企業両方に効率的にアプローチできる仕組みだ。第6回ILSでのパワーマッチングでは、事前にマッチング専用サイトを通じて2697件の商談をアレンジ。それを基に当日会場でマッチング商談が行われ、最終的に1026件の協業案件が生まれている。

また、ベンチャーに関しては完全招待制にすることで質を担保。国内外のVCなど、有力な支援機関の推薦を得られた企業のみが参加できる仕組みで、同プログラムの高いマッチング率に一役買っている。
「オープンイノベーションに対する関心が高まると共に、パワーマッチングに参加する大手企業の顔ぶれは年々変わってきています。第1回開催時は家電メーカーなどの、いわゆる最終製品を作っている会社が主な参加企業でした。次の年は化学メーカーや素材メーカー、部品メーカーが加わり、その次は食品メーカーなどが増加しましたね。そして2018年は電鉄や電力・ガスなどのインフラ系の会社が目立ちました。つまり、危機感を強く抱いている企業から順に、オープンイノベーションで自社の課題解決に取り組もうとしているんです」と松谷氏。
また、ILSは公式サイトにてパワーマッチングから得たデータを収集・分析して作成した「オープンイノベーショントレンドレポート」を提供している。そのレポートによれば、昨年と比べてディープテック(高機能素材や産業用ロボット、画像解析、電池など)分野でのマッチング率数が増加しているが、その理由を松谷氏はこう分析する。
「これまで、大手企業側は自分たちがまだ持っていない、未知の技術をベンチャーに求めるのが通例でした。既存事業には直接関与しない、新規事業の開発を目的にオープンイノベーションに取り組もうというのが一般的だったんです。それが最近では、自分たち(大手企業)が既存事業で取り組んでいる分野をさらに深掘りするためにベンチャーの力を借りようとする大手企業が増えてきました。これはパワーマッチング全体に見られる大きな変化であり、ディープテック分野が拡大している要因でもあると思います」
参加企業数が増えると共に顔ぶれにも変化が見られるというパワーマッチング
レポートでも触れられているが、AIやビッグデータ等のデータアナリティクス分野のマッチング数は依然としてトレンドでありマッチング数も多いが、勢いは鈍化してきている。一方のディープテック、特に「高機能素材」のマッチング数は2017年に比べ85件も増加した。大企業がベンチャーに求める役割は着実に変化してきている。
CVC主体ではない、日本型オープンイノベーションとは
大企業は従来自社のR&D部門で研究開発していた分野に、ベンチャーの力を求めるようになってきている。今後もこの傾向は強くなっていくだろうと松谷氏は語る。
「特に、もともと日本が高い競争力を持っている、ディープテック分野でオープンイノベーションが加速していくのだと思っています。それというのも、やはり国や大手企業が研究開発型ベンチャーに資金を出すようになったということが大きいです。そしてこれは、CVC主導の欧米型オープンイノベーションとは異なる特徴です」
VCやCVCが好むのは、短期間で投資資金の回収が見込めるベンチャーだ。一方で日本の大企業から注目が集まるディープテック型ベンチャー(研究開発型ベンチャー)は、仕上がりまで時間がかかる上に投資額の負担も大きいため、VCはなかなか投資したがらない分野だろう。ここに対し国や大企業が積極的に投資するようになってきているため、欧米とは異なる流れができてきているというのだ。
一方で、ディープテック系のベンチャー企業が大企業との協業先を見つけるのは至難の業だという。
「ベンチャー企業は、例えば自社で新素材を開発したとしても、それをどこの大手企業のどこの研究所や事業部のセクションに興味を持ってもらえるかわかりません。せっかく良い技術を持っているのに、製品化できない、マーケティングができないベンチャーが多い。プレゼンテーションが得意でない企業も多いですね。ILSではこうした問題を解決するため、データベースを構築し各ベンチャーの情報をしかるべき大手企業のセクションの、しかるべき担当者へ展開しています」

その甲斐あってパワーマッチングでは、大学発の素材メーカーなど、以前は注目を浴びることが少なかったタイプのベンチャーも、次々に協業案件を創出している。どこにどんな技術を持ったベンチャー企業が存在し、それを求める大手企業セクションがどこにあるのか。このデータベースの網羅性が、同プログラムによる高いマッチング率を維持しているといえそうだ。
一方で、注目が集まることで年々マッチング商談会に参加する大手企業側1社あたりの参加者数も増えており、平均して10名、最も多い企業は6部署から50名以上参加があり担当者の負担が増えているという。背景にはオープンイノベーションを社内に根付かせるためにできるだけ多くの部署を巻き込みたいという理由もあるようだ。また、ベンチャー側からILSに対しては「大企業にもっと積極的になって欲しい」という要望が届いているとのこと。
前者に関しては、そもそも大企業の中でオープンイノベーション担当者というのは普段から「やっていることが見えにくい」と思われがちであるという。ILSが昨年3月8日に発表した「イノベーティブ大企業ランキング 2018」には、オープンイノベーション担当者たちの役割を知らしめ、プレゼンスを高める狙いもあったという。実際、同ランキングは各種メディアに大きく取り上げられ、大手企業、ベンチャー企業の双方から反響を呼んだ。
後者に関しては、「ILSベンチャー企業調査2016」での「協業先となる大手企業を絞り込む際に最も重視する項目は何か?」という質問事項に対する回答からもよく分かる。ちなみに同結果の第1位は「自社の技術やビジネスを高く評価してくれているか」、第2位が「協業内容にスケール感があり取り組む意義が高いか」。第3位が「意思決定が早いか」、そして第4位が「担当者の熱意があるか」となっている。松谷氏によれば、大手企業側の担当者がどれだけそのベンチャーについて事前に調査しているかどうかは、実際にILS当日のマッチング成否を分けているとのこと。
オープンイノベーションにおいて、大企業とベンチャーとのスピード感の違いはしばしば課題として挙げられるが、有望なベンチャーに「選んでもらう」には、時として大企業側の意識改革が必要な場合も多いようだ。
一過性のブームではなく、時代が求める必然の変化
「もともとILSを始めたきっかけは『なぜ日本ではオープンイノベーションが起こりづらいのか?』と考えたときに、アカデミアとベンチャー、そして大手企業という3つの村の間での人材流動が極めて少ないからだ、という課題感を持ったからなんです。大手企業や大学からベンチャーへの人材流動を促進するのは難しいと思いますが、チームを作ることはできると思ったんです」と話す松谷氏。
年々来場者数が増加しているILS。海外の政府機関からも注目されており、今回のパワーマッチングにも韓国やドイツ、イスラエルや台湾などのベンチャー企業75社が参加している。こうした企業は、ILSの開催地である「日本」の市場進出というより「その先」を見据えているのだという。
「台湾や韓国、イスラエル等は自国のマーケットが小さいので、事業を拡大しようと思ったら必然的に海外に出て行かなければなりません。そんな中、グローバルブランドと協業し製品供給ができれば自ずと世界進出できると考えています。自社に興味を持つ大企業や自らが興味のある大企業と一度にまとめて商談できるILSは、彼らにとって良い機会なのでしょう」

また、アジアを中心とした中の技術力を東京に集め、世界中で展開できるようなエコシステムを構築したいと話す松谷氏。
「日本の大手企業は、持っている技術の競争力は高いのですが、画期的なビジネスモデルや製品を作ったり、全体を司るアイデアや構想力が弱いのが課題といわれます。逆にiPhoneなんかは、使われている技術一つ一つはさほど先進的な物というわけではありませんでしたが、ビジネスモデルが画期的でしたよね。なので世界中、特にアジアの面白い技術やアイデアを持った会社に、ILSを通じて『日本の大企業とビジネスをしたい』と思ってもらいたいんです」
最後に、日本のオープンイノベーションに寄せる期待や、オープンイノベーションを成功させる秘訣について語ってもらった。
「ドラッカーは『危機感でしか人は動かせない』といいましたが、日本でも危機感が高まっている以上、今後もオープンイノベーションが活発に行われていくのではないでしょうか。ブームではなく、時代の変化ということですね。ILSの(大手企業側の)参加者層は第一回開催当初中心となっていた事業開発部の担当者から研究開発部を含めて幅広くなっていますが、本来予算や人事権を持っているところが(オープンイノベーションを)やる方が成功させやすいんですよね。一方で、社内で研究開発していた分野を掘り下げていく以上、大手企業の現場は『社外に良い技術があった』という、時に自己否定にも繋がりかねない事実を認めた上で、しっかりとリーダーシップを取っていけるようになる必要があると思います」
「より良い物が外にある」ということを研究開発の現場が認めたがらない大企業は多いのだと話す松谷氏。一方、「誰も見たことがないもの」や「目新しいもの」はそう生まれない。共通の目標を掲げ、大手企業とベンチャー企業が協力し、POCを繰り返しながらアイデアや技術を磨き製品化していく。そんな建設的なオープンイノベーションを促進させる鍵となるのがILSで利用されているようなデータベースであり、松谷氏が目指すエコシステムの構築にかかっているのではないだろうか。
● Innovation Leaders Summit(ILS)
「オープンイノベーショントレンドレポート」https://www.dreamgate.gr.jp/InnovationLeadersSummit/contact/





