日本IBM主催のスタートアップインキュベーションプラグラム「IBM BlueHub」Demo Day開催!
2019年3月18日、日本アイ・ビー・エム(以下、日本IBM)が主催するスタートアップインキュベーションプラグラム「IBM BlueHub」のDemo Dayが開催された。同イベントでは「テクノロジーで日本をアップデートする」をテーマに掲げ、イノベーションを追求するキーパーソンによるスペシャル・セッションが行われた。今回はその模様をお送りする。
ヤフーのコーポレートエバンジェリスト・伊藤羊一氏(以下、伊藤氏)、ソラコムの代表取締役社長・玉川憲氏(以下、玉川氏)、日本IBMの執行役員・池田和明氏(以下、池田氏)がパネリストとして登壇。BBT大学のグローバル経営学科長・教授の谷中修吾氏(以下、谷中氏)がモデレーターを務めた。
モデレーターを務めたBBT大学のグローバル経営学科長・教授/谷中修吾氏
「過去」「現在」「未来」に対峙し、テクノロジーの行方を見定める
まず「テクノロジーは世界を変える? 技術の進化をいかに取り込むべきか」というテーマでセッションはスタート。パネリスト3名は共に「(テクノロジーは世界を)変える」と答えた上で、各々の立場から考えを述べた。
検索やショッピングをはじめ100以上のサービスを展開するヤフーは、「データの会社」を目指し様々な施策を行っている。伊藤氏は、検索サービスでのデータを「Yahoo!ショッピング」のレコメンド機能に生かすことでクリック率が5倍になったこと等を例に挙げ、改善の余地はあるものの、明確な数字に表れる形でテクノロジーをビジネスに活用できるようになってきたと話す。
ヤフー コーポレートエバンジェリスト/伊藤羊一氏
2015年9月以来、絶えず2週間のサイクルで新たな製品やサービスを生み続けているというソラコムの玉川氏は、実際にテクノロジーで世界は変わっているし、変化の速度は今後ますます加速していくだろうと語る。スピードを重視する同社のIoTプラットフォームは、出荷台数が30万台を超えるヒットとなったソースネクストのクラウド翻訳機「POCKETALK」や、人型ロボット「Pepper」の開発に携わった林要氏が代表取締役を務めるGROOVE Xの家庭用ロボット「LOVOT」等、先進的なプロダクトに活用されており、正しく「テクノロジーで世界を変え」ていっている事例として紹介した。
ソラコム 代表取締役社長/玉川憲氏
一方、日本IBMで戦略コンサルティングやデザイン統括を行う池田氏は「テクノロジーを使って社会を良い方向に向けていくにはどうしたら良いのか、そのために企業はインパクトの大きいテクノロジーをどう活用していけば良いのかを考え、日々企業のコンサルティングを行っている」と別の視点からのアプローチを語った。最近は先端テクノロジーがもたらすインパクトの大きさをよく理解し、積極的に活用する機会だと認識している経営トップが多く、これを使い新事業の創出を試みる企業も多いという。
日本アイ・ビー・エム 執行役員/池田和明氏
また、池田氏は「テクノロジーが実現する未来」のビジョンとして『攻殻機動隊』というSF漫画作品を例に挙げたが、今やこうしたSFの世界が夢物語ではなく、「現実と地続き」の世界に思えるほどにテクノロジーが進化してきている。伊藤氏はこうした話題を受けて、テクノロジーの活用先についての具体的なビジョンを持つことの重要性を説いた。
「恐らくそういうこと(SF映画等)に対する興味関心をどれだけ持っているか、ということも大事なんでしょうね。技術ドリブンも時には必要だけど、『こういう世界を実現したいんだ』という明確なイメージがあれば、じゃあそれを技術的に実現するにはどういう風にすれば良いんだろう、と考えていくことができますよね。日本の経営者やリーダーと話していると、このビジョンの部分がちょっと弱い気がしています」
セッションでは「日本には尖ったパッションを持ったリーダーが少ない」ことについて意見が交わされる場面もあったが、このことと無関係ではないのかもしれない。そして玉川氏は、ビジョンを持つことに加えて歴史を知ることも必要だと語る。
「歴史に学ぶ、という言い方もありますが、リベラル・アーツや孫子のような『こういうことが起こった時、人間はこうなる』という指針となる歴史を学ぶことはすごく大事だと思います。その上で、例えば『レディ・プレイヤー1』のような最近のSF映画や、クラウドやIoTといった今の技術の両方を見ていくと、この先どういったものが成長していくのかという予想がつけられるんですよ。今はまだ小さいかもしれないけど、今後成長していくであろう領域を正確に把握していくには、歴史と今描かれているITの未来、その両方を知っておく必要があると思います」
急速に進化するテクノロジーを上手くビジネスに取り入れるには、歴史に学びつつ現在のテクノロジーで「何ができるのか」を把握し、将来「どんな世界を作りたいのか」のビジョンを持つ必要があるようだ。
OSの異なる大企業とスタートアップ。協業を成功させるには
「大企業×スタートアップ協業のリアル」というテーマでは、必然的に2017年夏よりKDDIグループの一員となったソラコム玉川氏に注目が集まった。

「KDDIに限らず、大企業の中に入るとスピード感や技術志向な経営スタイルといったソラコムの良さが駄目になってしまうんじゃないか、とずいぶん心配して頂いたかと思うんですけど、そこから一年半やってきた中で順調に新しいサービスも出して、お客さんもたくさんついてきてくれています」
良い条件がそろった結果の成功だというが、成功要因の一つは「人」であり、大企業側とスタートアップ側の目的が合致するかどうかも重要だという。
「必ずしも失敗するとは言いませんが、上手くいかない典型例として、スタートアップの人は自分のビジネスを伸ばしたい。対して大企業の人はスタートアップを買収して自分のビジネスに役立てたい、という風に利益が相反するケースがありますよね。また、大企業側の担当者が数年で違う部署に異動してしまう、ということもすごくよくあるパターンです」
ソラコムの場合、担当者は後にKDDIの代表取締役社長となる髙橋誠氏であり、同氏はKDDIの中にスタートアップを取り込むのではなく、KDDIのリソースでスタートアップを推す、という考え方を持っていたため、「グローバルのプラットフォーマーになる」というソラコムの目的と合致した。協業相手を選ぶ際は、慎重に相手企業や担当者の目的やモチベーションを見定める必要がありそうだ。

対する池田氏は、日本IBMという大企業側の視点から、スタートアップとの協業について語った。大企業のイノベーション施策がなかなかうまくいかない理由はどこにあるのだろうか。
「クリステンセンの『イノベーションのジレンマ』からもずいぶん時間が経ち、そこから今に至るまで大企業の中ではずっと、イノベーションや新規事業創出の取り組みは行われていました。事例が蓄積されていく中で、方法論的なものも確立されてきたんじゃないかと思うんです。ただ、それを大企業の方々にやれというのは“50代のおじさんにストリートダンスを踊れ”と言っているのに近いと思っています」
要は、「デザイン思考で顧客の本当にやりたいことを把握して、アジャイルに、リーン・スタートアップで試行錯誤を繰り返していく」のが良い、と理屈で分かっていてもできないということだ。それを解決するには、自力で頑張るだけでなく、できる人と組んで一緒にやっていく、つまりスタートアップとの協業が有力な方法だ。続けて池田氏は、投資に対してリターンを得たり、自社の事業に取り組んだりといったことを協業の焦点に置くのではなく、スタートアップの組織的な力や文化を学ぶよう務めることが、成果に結びつくのではないかと語った。
また、これまで10種程のアクセラレータープログラムのメンターを務めてきた伊藤氏は、その経験から協業を成功させるには3つの要素があると分析する。一つは玉川氏と同じく「人」。熱意のあるリーダーが手掛けるプログラムには自然とメンターたちも協力的になり、良い空気ができあがっていくのだという。そして二つ目は「隔離」。大企業とスタートアップはどうしても交わらない部分が多いため、スタートアップが自由に動けるよう、ある程度距離を保った上でそれをサポートしていく。しかし、隔離しただけでは協業できないため、最後の要素となる「対話」が必要だ。特にこの「対話」ができている企業は協業を成功させているという。
これを受けて、玉川氏は大企業とスタートアップとでは経営やチーム面の「OSが違う」と語り、無理やり交わらせることはできないという意見を述べた。普段から紙の書類や電話、メールも使わず、社長と社員が直接チャット上で意見を交わし合うソラコムのようなスタートアップと、何を決めるにも稟議を通さなくてはならない大企業とでは、確かにスピード感は全く異なるのだろう。そのため、相手のOSが違うことを理解し「対話」することが肝となる。
大企業側の担当者は、スタートアップと対話しながら起業家目線で新規事業を進めつつ、その知見を大企業内でどう生かしていくのかという視点も忘れてはならない。協業を成功させるには、スタートアップと大企業とを結ぶためのコミュニケーションを戦略的に行っていく必要があるようだ。
日本企業がテクノロジーを使って世界で勝つために
IBMは量子コンピューター、ヤフーはスーパーコンピュータ「kukai」の開発を行うなど、次世代テクノロジーの活用やR&D連携にも積極的だ。二社の池田氏、伊藤氏ともその本質的な価値を見定め、新たなビジネスを創出するための準備を進めていると話す。
玉川氏は大企業とスタートアップ、それぞれが協力してR&Dに取り組むことの有用性を説いた。
「一般論ですが、次世代の研究って結果が出るスパンが長ければ長いほど、体力がある方が強いんですね。つまり、スタートアップは基本勝てないんです。ですが、たまにAmazonやGoogle、Facebook、Microsoftに勝つ企業が表れる。これは大企業が目を向けない領域を攻めているからなんです」
既存事業で数千億の売上のある大企業は、あえて利益率の低いニッチな領域には手を出しづらい。こだわりとセンスを持って大企業が入り込めない領域を見付けだし、飛び込んでいけるのはスタートアップの強みだ。玉川氏はR&D連携に関して、大企業側はこうしたスタートアップのニッチな戦略やビジョンを見て、良いと思ったら後押しする。そして、スタートアップ側は責任を持って自分達が勝てる領域をかぎ分け、成すべきことを成すという連携の仕方がベストなのではと語った。

最後にモデレーターの谷中氏は「日本企業が世界で活躍するには」というテーマで3名それぞれの視点から一言ずつメッセージを求めた。
伊藤氏は改めて「技術で何ができるのか」をしっかり把握することと、同時に「何をやるのか」というビジョンを明確にすることの重要性を強調した。
玉川氏は、就社主義から就職主義へと変わろうとする日本において、「リスクを取れること」は個人の価値だと語る。起業家には積極的にリスクを取ることを、大企業にはリスクを取っている人を応援してあげて欲しいというメッセージを残した。
池田氏はかつての日本企業には試行錯誤を繰り返すことのできる環境が存在していたことや、そうした環境を再び取り戻したいという考えを語った。さらにGAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)への対抗策として、彼らが形成するプラットフォームを利用し、より価値の高い体験を提供していくといった戦略を提案。日本企業への期待を語った。
ビッグデータやAIを中心に、あらゆる業界で取り入れられつつある先端テクノロジー。企業として成長し続けていくためには、無関心ではいられない分野だ。





