第1回 敬老の日3連休!久々の家族団らんのはずが……

敬老の日を合わせて3連休となった週末、僕は家族を連れて、正月以来帰っていなかった郊外の実家へと出かけることになった。
この春定年退職した父があまり元気がないと母から聞き、だったら敬老の日にかこつけて孫の顔でも見せてやろうと思ったのだ。

「いらっしゃい!」
実家に着くと、玄関先に出てきたのは母ひとり。父さんは? とたずねると、居間でテレビを見ているという。
「いつもそうなのよ。一日中、家でテレビを見てるかパソコンでトランプのゲームやってるか。こっちまで気が滅入っちゃって」
どうやら、真面目一徹で働いてきた父には仕事をしないことが受け入れがたいようだ。

「父さん、久しぶり」
そう声をかけると、父はようやく返事をしたが、目はテレビに向いたままだ。
「おお好也か。元気か」
「父さんもね。悠々自適でいいじゃない。もう充分働いたんだろ。なんか趣味でも始めたら」

そういうと、父は形相を変えた。
「充分とは何だ! 働けるなら働いて世のために役立つのが人のつとめだろう! 十把一絡げに人を不要品扱いするな!」
突然の大声に子供たちが何ごとかと怯え出す。父はそれきり黙って、再びテレビに戻った。

僕の不用意なひと言で家の空気がすっかり重くなってしまった。気分を変えようと、僕は外で食事にしようとみんなにもちかける。母も父を連れ出すいい口実になると賛成する。

孫に急かされて父も重い腰をあげた。街道沿いに車を走らせ、良さそうな店を見つけたら教えて、とみんなに声をかけると、いきなり息子が先の方を指さした。そこには、赤い丼のサインが見える。

「すき家! パパ、すき家があるよ! すき家がいい!」

これが牛丼店?おどろきの初すき家

しまった。子供たちが大のすき家ファンだと忘れていた。たまに家族ですき家に行くと、ものすごく喜ぶのでそれはそれで微笑ましいのだが、何も今じゃなくても……。

「ほらほら、今日はおじいちゃんおばあちゃんにありがとうする日なんだから」
とたしなめる脇から、孫に大甘の母が援護する。
「まあまあ好也、いいじゃないの。たまなんだから好きなもの食べさせてあげれば。あなたもいいでしょ?」
と父にたずねると
「牛丼……て、若い者が食べるものじゃないのか」
と渋る。まあ当然の反応だ。

「おじいちゃん、おいしいよ! 一緒に食べよ!」
今度は娘が援護射撃。これにはさすがの父も首を縦に振るしかなかった。

牛丼店は初めてという両親と共に、すき家に入る。行き慣れた都市型の店と違って、郊外型の店舗は広々としてテーブル席も多い。カウンターで丼をかき込むイメージしか持っていなかった両親も、清潔でゆったりした店内に驚いたようだった。

「こんなにあるのか!」
父が思わず声を上げる。メニューには牛丼のバリエーションが彩りも鮮やかに並んでいる。まさか牛丼だけで10種類以上もあるとは思わなかったのだろう。
一方の母は、お肉は好きだけどたくさんは食べないし、ごはんも丼一杯食べきれるかしら、と不安がる。一緒にメニューを見ていた妻が、「お義母さん、すき家はサイズが6種類もあって、小食な人はミニも選べるんですよ」とお店の人のようなアシストをする。実は彼女も子供たちに負けず劣らずすき家ファンであることを僕は知っている。

「ぼく、3種のチーズ牛丼すきすきセット!」
「ずるい、わたしもそれにしようと思ってたのに! じゃあ3種のチーズカレーにしようっと」
子供たちはさっそく大騒ぎ。僕は定番の牛丼を肉1.5盛で、母と妻は仲良くさっぱり系のおろしポン酢牛丼とわさび山かけ牛丼をミニサイズでチョイスする。

じっくりと隅々までメニューを見ていた父は、おもむろに顔を上げるとこういった。「じゃあねぎ玉牛丼に、とん汁健康セットってのをつけてみようかな。あと納豆とおしんこだ」

ねぎ玉牛丼

とん汁 納豆 おしんこ

いきなりセットにサイドメニュー! やるなおやじ。「おじいちゃん、すごい!」と子供たち。はしゃぐ孫たちにかこまれて、父も少し顔が明るくなったようなのがうれしかった。

もちろんすき家だから待たされることもなく、次々とお盆が運ばれてくる。牛丼屋さんっていっても、ここはレストランみたいなのねえ、と母が感心する。

「いただきまーす!」
元気な子供たちの声を合図に、ボリュームたっぷりの肉1.5盛に箸を付ける。うん、いつもと変わらない味のはずなのに、みんなでテーブルを囲むとずっとおいしく感じられる。肉1.5盛は、食べても食べても肉がなくならない感じが好きなんだよな。ちょっと子供っぽいけど、口の中をおいしい肉でいっぱいにしても、まだたっぷり残ってるってところが幸せっていうか、お得感があるっていうか。

「おじいちゃん、3種のチーズ牛丼はね、少し待って、チーズがとろとろになってから食べるとおいしいんだよ」
「3種のチーズカレーはかき混ぜながら食べるとそんなに辛くなくなっていいんだよ!」
子供たちが先を争うように元は僕の教えたウンチクを披露する。カレーと牛丼、まったく違う2つの料理のどちらにも合って、うまさと華やかさを高めてしまうチーズってのはまったくすごい食材だ。いろんな香りが複雑に絡み合って、なんとも食欲をそそる。

3種のチーズ牛丼 3種のチーズカレー

「あら、意外とさっぱりしてるのねえ。これ、気に入ったわ」
母がおろしポン酢牛丼を食べてにっこりとする。大根おろしとねぎ、そしてポン酢が牛丼のおいしさを引き立てながらも、後口を爽やかにまとめあげる。「でしょう?」と妻がまたしてもお店の人のように満足げな顔を見せる。
「お義母さん、こっちも食べてみてくださいな」
と、とろろの白さも鮮やかなわさび山かけ牛丼を差し出す。ねっとりとした山芋のとろろが甘辛い牛丼の肉とごはんを包み込み、ツンと鼻に抜けるわさびの清々しさを残して、のどをするりと通り過ぎていく。想像しただけでもうまそうだ。
僕もご相伴にあずかりたいところだったが、談笑する女同士の姿を見て今回は遠慮することにした。

わさび山かけ牛丼 おろしポン酢牛丼

父はといえば、卵のセパレーターの使い方を娘にレクチャーされながら、肉を覆い隠すようにたっぷりとかかった青ねぎの上に、ぷるん、と黄身を落としていた。シャキ、とねぎの音も鮮烈に一口ほおばる。

「……案外、いや、結構、いけるな」
「やったー!」
子供たちも大喜び。黄身をなかなかつぶさないのは僕と一緒だな、と変なところで親子の縁を感じてしまう。サイドメニューに納豆を選んだのは偶然かも知れないが、これも僕と同じなのだ。卵とねぎが納豆にもベストマッチなのは言うまでもないだろう。納豆こそがねぎ玉牛丼のうまさを倍増させるチョイ足しナンバーワンだと断言したいほどだ。納豆の後口はセットのとん汁と冷や奴でさっぱり洗い流し、箸休めのお新香で味覚をリフレッシュしてさらに丼を攻めていく。いや、わが父ながら初すき家とは思えない手練れのチョイスだ。

「あら、あなた、いつもそんなに食べないのに」
父の食べっぷりに気付いた母が声をかける。なんとなく嬉しそうだ。
「そうだったかな」
そう答える父の丼はもう空だ。

牛丼がつないでくれた家族の絆

「なあ好也」
実家に戻った後、父はこういった。
「定年退職した後、なんだかもうおまえは用済みだって言われた気がしてな、ずっと気が晴れなかったんだ。もうわしの人生は終わってしまったんだってな。

でもそうじゃなかった。こうして会いに来てくれるおまえたちがいる。必要としてくれる家族がいる。今まで気にも留めなかったすき家に連れて行かれて、知らなかった牛丼のうまさも教えてもらった。まだまだ新しい出会いも発見もあるんだなって。仕事を人生そのものだと思い込んで勝手に終わらせていたのは、誰でもない、わし自身だったんだ」

そう言う父の目は、昔と同じような力強さを取り戻していた。

「おじいちゃん、またすき家に行こうねー!」
「おう、たまには肉を食べて元気を出さんと、おまえたちと遊べんからな。またおいで、すき家のおいしい食べ方、もっと教えてくれよ」
「約束だよ!」

帰り際、子供たちの相手をする父は来たときとは別人のようだった。
父のこれからの人生を余生とは呼ぶまい。きっと持ち前の実直さと熱心さで新たな人生も実りあるものにしてくれるはずだ。元気でいてくれよ。

※文章中の商品情報は2011年9月10日現在のものです

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