車は長いトンネルを抜けた。山に向かう一本道。その時、日常が遠く離れていくのを感じた。登山口に向かう車は列をなしている。人も多い。だが、どこかに迷い込んだような感覚を覚える。 1985年の日航機墜落事故から38年となる8月12日、事故現場となった御巣鷹の尾根の慰霊登山に同行した。事故現場に立つのは事故の翌年以来だ。 日常の中であの時の記憶は遠くなった。あの日、笹をかき分けて夢中で登り着いた事故現場で目に飛び込んできた光景も遠い記憶の中に埋もれている。御巣鷹の尾根に立って私は何を見るのだろう。 御巣鷹の尾根は時を止めてはいなかった。登山道は階段に整備され、手すりやベンチが設けられて参拝者を出迎えて