写真提供:日刊工業新聞/共同通信イメージズ

 内燃機関は本当に時代遅れなのか。電動化が進む自動車業界で、エンジン技術はなお進化を続けている。環境規制や電気自動車(EV)化の潮流を踏まえながら、熱効率向上や新燃焼技術の開発の最前線に焦点を当て、エンジン復権の可能性を問い直す『エンジンの逆襲』(伏木幹太郎著/日経BP)から内容の一部を抜粋。日本が誇るエンジン技術の底力と中国のEV戦略を探る。

 日産は、エンジンで発電しモーターのみで走るシリーズ方式のe-POWERを軸に、発電特化型エンジンで熱効率50%を目指す。社内でも疑問視された方式で、高速域の燃費という弱点を克服できるのか。

※記載されている事実関係は、刊行当時のものです。

日本のエンジン・HEV技術、7社の戦略
日産自動車

エンジンの逆襲』(日経BP)

 日産のエンジンは、純粋なエンジン車用とHEV技術e-POWER車用の2つに大きく分けられる。今後、同社はエンジンの種類を減らしていく方針だ。2020年度にはe-POWER車用を4種類、エンジン車用を45種類量産していたが、2030年にはe-POWER車用で3種類、エンジン車用で16種類に絞り込む。

 今後のエンジン開発はe-POWER車用が中心となる。EVとe-POWER車の二本柱で電動パワートレーン戦略を推進中だ。すでにエンジン車用の新規開発は終了しており、将来の厳しい排ガス規制にはe-POWER車で対応していく。

 e-POWERはシリーズ方式をとる。エンジンは発電専用として使い、全領域をモーターで駆動する。エンジンを発電だけでなく駆動にも活用するトヨタやホンダのシリーズパラレル方式に比べて、簡易な構成にしやすいのが特徴だ。

 シリーズ方式はEVの駆動装置にエンジンと発電機を追加する構成といえ、EVから部品を流用しやすい利点も大きい。日産は第3世代e-POWERのモーターやインバーターをEVと共用することで「部品や製造のコストを削減している」(同社の技術者)と説明する。

 一方で特に高速域の燃費性能でシリーズパラレル方式に劣る面があり、採用企業が最近増えていなかった。社外だけでなく日産社内にもシリーズ方式の将来性を疑問視する見方があった。今後、e-POWERでシリーズパラレル方式の燃費性能を上回ることができれば、シリーズ方式への疑念を払拭できる。

 e-POWERの効率改善の鍵を握るのがエンジンである。モーターを含む電動アクスルの伝達効率は80%以上と高く、燃費改善には効率の低いエンジンを改善した方が伸び代は大きい。高速走行時の電池残量はほぼゼロで、エンジンで発電した電力はそのままモーターに向かう。エンジンの効率向上がシステム全体の効率向上に直結する。

e-POWER用エンジン開発の方向性。従来エンジン(左)とe-POWER用エンジン(右)の燃焼マップの違い(出所:日産自動車)
拡大画像表示

 e-POWER車用エンジンは、機能を発電に限定することで、エンジンの運転範囲を効率的な領域に限り、なるべく定点運転とすることで熱効率を高めていく。発電に特化することで、走行中に同じ回転数とトルクで回し続ける定点運転が可能となる。回転数でいうと2000~3000rpm付近だ。

発電性能に磨きをかけ、熱効率50%へ

 日産は今後、発電性能に磨きをかけていく。専用に設計して余分な機能や装備を捨て、効率を上げることで「エンジンの究極を具現化する」(同社の幹部)。

 発電「特化型」の考えを導入したのが、2022年に発表した新型「セレナ」のe-POWER車に採用する排気量1.4Lの直列3気筒(直3)エンジン「HR14DDe」である。

 HR14DDeではスターターの設置を想定しない設計にした。通常のエンジン車はスターターを用いてエンジンを始動する。e-POWER車では発電機でエンジンをかける方式とすることでスターターをなくした。スターターを省いた設計とすることでその空間を起因としたたわみをなくしたのと同時に、エンジンと駆動用モーターの結合部の剛性を高められた。

セレナのe-POWERシステム。e-POWER用に設計したエンジンを採用(写真:日経Automotive)

 ロングストロークにしたことも特徴だ。先代型のe-POWER車に採用していた1.2Lの直3エンジンの「HR12DE」とボア径は変えず、83.6mmから100mmにロングストローク化することで排気量を235cc拡大した。これにより、ストローク/ボア比は1.28となった。一般的に1.0を超えるとロングストロークといわれている。ロングストロークによって燃焼効率を高められる。新エンジンでショートストローク化するトヨタとは逆の動きである。

 圧縮比は12から13に高めることで熱効率を向上させた。燃料供給系は、燃費向上のためポート噴射式から直噴式に変更している。

 日産は次世代e-POWER車用エンジンで熱効率を50%にする極めて高い目標を掲げる。実現するために開発しているのが、新燃焼コンセプト「STARC」だ。気筒内に吸入した混合気の流れや点火を強化し、より希釈した混合気を高圧縮比で確実に燃焼させることで熱効率を向上させる考え方だ。同社の幹部は「今後、STARCの技術を1つずつ(市販車に)導入していく」と話す。

 そのSTARC燃焼の一部を取り入れるのが第3世代となるe-POWERだ。2025年後半から欧州市場に導入する。新エンジンは主に大型車向けを想定した排気量1.5Lの直3ガソリンターボエンジンで、日本市場では「エクストレイル」や次期「エルグランド」への搭載を想定する。第2世代でも1.5Lの直3ターボだったが、エンジン車のものをベースに開発していた。

 今回はエンジン車での利用を想定することなく、発電機能に特化したe-POWER専用エンジンとして開発した。生産は横浜工場で、現行エクストレイルのエンジンと同じラインだ。生産設備を流用するためボアピッチ(隣接した気筒の中心間距離)は従来と同じにした。

 新しいエンジンは定点運転を重視したことで負荷変動を抑え、熱効率を高めた。熱効率は第2世代の39%から42%へと向上し、低速から高速まで含めたWLTCモードの燃費は9%改善した。

<著者フォロー機能のご案内>
●無料会員に登録すれば、本記事の下部にある著者プロフィール欄から著者フォローできます。
●フォローした著者の記事は、マイページから簡単に確認できるようになります。