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トランプ新政権による「ディール型外交」、激化する関税戦争、泥沼化するウクライナ・中東情勢――世界は今、誰も予測できない分断と混乱の渦中にある。日本はどう生き残るべきなのか。マッキンゼー元日本支社長で経営コンサルタントの大前研一氏が著した『日本の論点2026-27』(大前研一著/プレジデント社)から一部を抜粋。米中が覇権を懸けて競うAI開発競争、そして30年以上停滞し続ける日本のGDP。この2つの論点から、日本が進むべき針路を問う。
なぜ日本はAI開発の分野で圧倒的に遅れているのか。「国際卓越研究大学」に10兆円ファンドを組んでも追いつけない、根本原因とは?
中国AI躍進の理由は 技術者層の厚さにあり
『日本の論点2026-27』(プレジデント社)
なぜ中国でAI研究が盛んなのか。理由の一つとして、そもそも中国には理工系の研究者が多いことが挙げられる。
中国の理工系学部生は毎年200万人以上に上り、アメリカの約6倍だ。博士課程修了者は年間5万人弱を輩出し、その数はアメリカの約2倍である。すそ野が広いだけではない。2022年のAI分野上位2%研究者の出身国を見ると、アメリカが28%でトップだが、中国は25%と肉薄する。
ちなみに第3位はインドで7%、第4位はフランスで5%。質の面でも米中が2強であることがよくわかる。
興味深いのは、上位2%研究者の「活動国」である。第1位はアメリカでダントツの57%、第2位は中国だが12%で、トップとは大きな開きがある。このデータは、中国出身の優秀なAI研究者の多くがアメリカの企業や研究機関で活躍していることを示唆している。
実際、オープンAIでAI開発に従事している研究者のうち、約2割が中国出身だ。インテルやボーイングが旧ソ連の技術者を囲い込んだように、すでにアメリカのAI企業も中国の技術者を中に入れているのだ。
中国はAIの実装も進んでいる。とくに注目したいのはロボティクスとの組み合わせだ。北京では、エリア限定ではあるが自動運転のロボタクシーが走っている。2016年に創業したユニツリー(杭州宇樹科技有限公司)の4足歩行ロボットもすごく、搭載のAIで自己学習や自律探索が可能で、複雑な地形も難なく移動する。これが軍事用に使われるシーンを想像すると、背筋が凍る。
日本企業はAI開発のもはや二番手集団にも入っていない
中国は短期間で一気にAI先進国になった。とはいえ、このまま中国がAI開発競争で優位に立つとまでは言えない。
実は「DeepSeek-R1」のリリース日、北京で李強(りきょう)首相が座談会を開き、そこに招かれた梁氏がスピーチしている。タイミングを考えると、中国政府がディープシークを全面的にバックアップすることを内外に示したと受け取れなくもない。
政府の肝いりでAI開発にお金が集まれば、そこに人も知恵も集まっていく。その意味では追い風だ。ただ、それまで創意工夫でやってきたところに政府の手厚い支援がつくと、それがかえって足かせになりかねない。旧ソ連の航空機産業も冷戦終結後、技術発展が停滞した。中国のAI企業もこれまでは北京と距離があったからこそできたことが、今後はやりにくくなるだろう。
一方、アメリカにとって中国の台頭はいい刺激になる。ドナルド・トランプ大統領はディープシークを、アメリカ企業への“ウェイクアップコール(目覚まし時計)”と評した。
半導体や電力のパワーは依然として重要だが、物量頼りでは足をすくわれかねない。それに気づかせてくれたという点で、ディープシークには感謝しなくてはならない。トランプ氏にしては珍しくまともな発言である。米中のAI開発競争の行方は、まだ見えてこないが、開発コストが下がることはアメリカ企業にとっても恩恵が大きく、競争相手がいるほうが進化のスピードは増す。今後は開発が一層進むはずだ。
さて、勢いを増す米中に比べて、見る影もないのが日本のAI開発である。「国際卓越研究大学」に10兆円ファンドを組むくらいなので、政府にお金がないわけではない。圧倒的に足りないのは人材だ。
AI分野上位2%研究者の出身国は米中が突出していると指摘したが、日本はドイツの4%、カナダの2%より下で、上位6カ国にも入らず、「その他」でまとめられてしまっている。二番手グループにすら入っていないのだ。
日本におけるAI研究者不足の原因は、大学のあり方にある。日本の大学は30年前の実績で教授になった研究者が居座り続け、海外から優秀な研究者を招く仕組みもない。若い研究者が米中で学んだり、米中から優秀な研究者を招いたりして新陳代謝を促すべきだ。10兆円もの資金を積んでも古いものを定着させるだけで終わってしまえば、日本はAI発展途上国のまま国力をますます落としていくことになるだろう。
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