写真提供:©Jimin Kim/SOPA Images via ZUMA Press Wire/共同通信イメージズ

 第4次ロボットブームの到来で、米中を中心に熾烈(しれつ)な開発競争が繰り広げられている。背景にあるのは「生成AIの進展」「人口減少」「人手不足」。日本にとってもロボットは社会や経済活動を維持するための生命線だ。本稿では『ロボットビジネス』(安藤健著/クロスメディア・パブリッシング)から内容の一部を抜粋・再編集。最先端のロボット技術と活用事例を紹介するとともに、今後の可能性を考察する。

 ここでは、アマゾンのロボット導入の裏側を紹介。ロボット活用を成功に導く「変革の発想」とは?

世界最大のロボットユーザーは誰か

ロボットビジネス』(クロスメディア・パブリッシング)

 世界で最もロボットを使っているユーザーは誰でしょうか。

 作る側に関しては、ファナック、安川電機、川崎重工業などなど候補となる企業が日本でもたくさん思い浮かびますし、公開されているデータもたくさんあります。

 一方で、使う側というのはなかなか想像もできないし、オフィシャルデータも少ないのです。そのため正確なことはわかりませんが、私はアマゾンなのではないかと考えています。

 最近、注文したモノが届くまでの時間が驚くほど短くなっていると思いませんか。本だけではありません。日用品などさまざまなモノが最短で当日、家に配送されることも珍しくなくなっています。それは、アマゾンが物流センターに大量のロボットを導入しているからかもしれません。

 今回は、アマゾンのロボット導入の実態と、それが私たちの日常にどのような影響を与えているのかについて説明します。

 世界最大のロボットユーザーであると思われるアマゾン。アマゾンがひとつの物流倉庫を建てると、1施設あたり数千台のロボットが導入されます。

 現在、アマゾンが世界中の300以上の拠点で稼働させている移動型ロボットは2023年には75万台に上り、その数は右肩上がりに増加しています。これは、世界最大級の電子製造サービスを提供するフォックスコンが目指している100万台のロボット活用計画を先に達成しそうな勢いです。

 では、アマゾンはどのようなロボットを使っているのでしょうか。一番初めに活用したのは、小型の移動ロボット「Kiva」でした。このロボットは、商品の保管棚に潜り込み、棚を持ち上げて、ピックアップスタッフの前まで運ぶことができます。

 アマゾンは2012年にKiva Systemsを7億7500万ドル(当時のレートで約650億円)で買収したことで本格的なロボット活用への投資を始めました。それ以来、このロボットは同社の物流効率を劇的に向上させています。オーストラリアの倉庫では、ロボット導入により1時間あたりの注文処理量を2倍以上に拡大したといいます。

 その後「Kiva」は自律型の運搬ロボット「Proteus」へと進化し、それ以外にもAIで配送先住所を識別して荷物をまとめる「Cardinal」、商品の分別をおこなう「Sparrow」などのロボットアームのシステムが導入されています。その種類も数も着実に増えており、最近は「Digit」という2足歩行型ヒューマノイドロボットのトライも始まっています。

 数十キロ、ときには数百キロ、数トンの荷物も扱う物流倉庫での仕事は、一般的には非常に激務、かつ危険な作業も伴うとも言われています。ロボットにはそのような労働環境の改善も期待されているのです。

 アマゾンが24年10月に発表した計画では、ネット通販の配送コストを従来比で25%減らすために、施設で使うロボットの台数をこれまでの10倍にするとしています。ますます便利になるオンラインショッピングの世界において、その裏側にはロボットを含めた驚くべきテクノロジーが隠されているのです。

ロボット活用のために大切なこと

「ハンコを押すロボット」をご存じでしょうか。数年前に展示会で披露されたときに話題になった、このロボットは、小さな腕でハンコを持ち、朱肉を叩き、そして紙に押印するという動作を繰り返しおこないます。

 一見するとシニカルで滑稽な風景ですが、このロボットは実は非常に深い問題を提起しています。それは「ロボットは人の作業をそのまま自動化してもあまり意味がない」ということです。

 DXが流行している現在、よく耳にするのは「アナログをそのままデジタルに置き換えても効果が少ない」という議論です。DXの本質は、既存のプロセスを抜本的に変革することにあります。ロボットにも同じことが言えます。人間の作業をそのままロボットに置き換えるだけでは、真の効率化は達成できません。

 この点をわかりやすく体現しているのが、アマゾンの倉庫で使われているロボットです。以前、人間の作業員は広大な倉庫内を歩き回り、棚にある商品を一つひとつピックアップしていました。

 現在はこのプロセスが一変しています。先ほど紹介したようにアマゾンの倉庫には商品を保管する棚の下に潜り込み、棚ごと人間の作業員のところまで運ぶロボットが多数稼働しています。これにより、作業員はその場を動かずに次々と商品をピックアップできるようになりました。人が動くのではなく、モノが動くようにしたのです。

 この変革はまさに「DX」ならぬ「ロボット・トランスフォーメーション(RX)」の発想です。単に人間の動作をロボットに置き換えるのではなく、作業の全体的なプロセスを見直し、最適化された新しい方法を導入しています。

 アマゾンの倉庫では、商品のピックアップが驚異的なスピードでおこなわれるようになり、効率性が劇的に向上しました。このシステムにより倉庫内での作業効率は2~3倍向上し、コストも年間で数億ドル、約20%削減されました。これらの成果は、単に人間の作業をロボットに置き換えただけでは達成できなかったでしょう。

 しかしながら、現時点では、すべての作業がロボット化できるわけではありません。たとえば、商品の大きさや重さが異なる場合には、動きが変動的になるため、自動化には限界があります。特に商品を棚に入れたり出したりする作業は現状では人間のほうが効率的です。このように、人とロボットそれぞれの特性を活かした協働作業が求められています。

「人の作業」をそのまま自動化するだけではなく、アマゾンの例に見られるように、プロセス全体を革新し、最適化するRXの発想、そして、「人とロボット」が共存し、お互いの強みを活かせる環境づくりこそが未来への鍵となります。このように、ロボット技術は人間との協働、役割分担を意識した全体最適化によって真価を発揮するのです。

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