イオンネクスト技術責任者CTOの樽石将人氏(撮影:酒井俊春)

 2010年代から日本の流通小売業各社はネットスーパーの開発に力を入れてきたが、なかなか普及が進まない状況だ。その大きな理由としては「リアル店舗での買い物を上回るメリットが少ない」ことが挙げられる。また、消費期限が短い食品という商材の観点から、事業者にとっては収益の確保が難しいという事情もある。

 そんな中、イオングループのイオンネクスト(千葉市美浜区)は、2023年7月にオンラインマーケット「Green Beans(グリーンビーンズ)」を開始した。大型の物流施設「誉田CFC(顧客フルフィルメントセンター)」(千葉市緑区誉田町)を拠点として、人工知能(AI)による在庫管理、商品レコメンドなど先端的なサービスを提供する。

「オンラインマーケットがお客様の生活に根付くかどうか、その究極の分かれ目は買い物を“習慣化できるか”にかかっている」と語るのは、イオンネクスト技術責任者CTOの樽石将人氏だ。Green Beansとはどのようなサービスなのだろうか。樽石氏に話を聞いた。

Green Beansで「買い忘れ」を防ぐ?

──小売業界がGreen Beansに注目しています。どのようなネットスーパーなのでしょうか。

樽石 将人/イオンネクスト技術責任者CTO

レッドハットおよびヴィーエー・リナックス・システムズ・ジャパンにて、OS、コンパイラー、サーバーの開発を経験後、グーグル日本法人に入社。システム基盤、『Googleマップ』のナビ機能、モバイル検索の開発・運用に従事。東日本大震災時には、安否情報を共有する『Googleパーソンファインダー』などを開発。その後、楽天を経て2014年6月よりRettyにCTOとして参画。海外への事業展開に向け技術チームをリードし、同社の上場の牽引後、22年1月に退職。21年12月に立ち上げた樽石デジタル技術研究所の代表のほか、ヤフーギグパートナー、PowerX社外CTOなど、22年3月より現職。
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好きな言葉:「挑まなければ得られない」
おすすめの書籍:『ビジョナリーカンパニー』(ジム・コリンズ著) 『人を動かす』(D・カーネギー著)

樽石将人氏(以下敬称略) Green Beansのコンセプトは「買い物を変える。毎日を変える。」です。食品の買い物は他の商材と違い、毎日行うもので、消費者の生活リズムに根付いています。そんな中オンラインマーケットという新しい買い物スタイルを受け入れていただくには、それ相応のメリット、つまりGreen Beansでしか体験できない買い物のあり方を提供する必要があると考えています。

 Green Beansが届けたいのは「日常の買い物時間を減らし、大切な人たちとの時間を増やす」という体験です。食品は、催事やお祝い事といった「ハレの日に買う商品」と、牛乳や卵、米などの「いつもの買い物(定期的に買う商品)」の2つの買い物に分けられます。

 Green BeansはAIやCFCでのロボティクスの最新技術、AIレコメンドなど新技術を導入することで、後者の「いつもの買い物」をオンラインマーケットで完結しませんか?と提案しているのです。そうすれば、忙しい時でも常に冷蔵庫には必要な食材が揃っていますし、必需品の買い物に使っていた時間を家族や友人、恋人といった大切な人たちと過ごすことに充てられます。

 Green Beansはブランドコンセプトにあるよう、単純に買い物を変えるだけでなく、お客様の日常生活も変えられる存在でありたいと願っています。

明らかになった誉田CFCの実力!

──ユーザーからしてみると、Green Beansは普通のネットスーパーとどこが大きく違うのでしょうか。

樽石 Green Beansのサービスの特徴は、「Ease」「Reliability」「Choice」の3つにあります。

「Ease」は簡単という意味で、お客様が欲しい時に欲しい分だけ商品を受け取れる仕様にしています。卵や牛乳など、日常的に使用する商品は毎週の定期購入にしたり、在宅中の7時から23時まで1時間単位で配達を可能にしたりと、お客様の生活スタイルにフィットした使い方ができます。また、Green Beansの想定顧客ペルソナは忙しい共働き世帯なので、商品の到着は注文の翌日から14日先まで可能にし、柔軟なユースケースを用意するほか、過去の購入歴に基づいて、AIが定期的に買う商品をカゴに入れるなど、「買い忘れ」を防ぐ機能も搭載しています。

 Green Beansの強みは、お客様の生活の中に「習慣化」しやすい、つまり生活に溶け込みやすいところにあると言えるでしょう。

「Reliability」は信頼性という意味で、鮮度を徹底的に維持しています。一般的なネットスーパーで生鮮品の買い物が敬遠される大きな要因は「鮮度が保たれているか不安だから」というところにあります。Green Beansでは商品の鮮度維持に細心の注意を払っています。

 Green Beansは他社の運送会社を使わず、自社の専任スタッフが配送します。トラックには温度管理された荷室が完備されており、鮮度が落ちません。また、野菜は1週間の鮮度保証が付いているものもあります。これは、特別仕様のラッピングを施し、収穫から倉庫、配送までコールドチェーン体制を用意できているからこそ可能になっているのです。

「Choice」は豊富な品揃えを意味します。Green Beansは旬の野菜・果物からオーガニック商品、介護・ベビー用品まで、最大約5万アイテムまで広げていく予定です。

──なぜ、それほど幅広いアイテムに対応できるのでしょうか。

樽石 大きな理由は、物流体制にあります。

 まず、Green Beansは敷地面積約7万3000㎡の誉田CFCを物流拠点としています。誉田CFCは24時間稼働していて、ロボットが効率的に商品をピックアップしています。オンラインマーケット専用のCFCが、効率的な配送を含む買い物体験を底上げしているのです。

 またGreen Beansが東京23区を中心に、千葉県、神奈川県と、首都圏の広範なエリアのお客様を商圏としています。通常、ネットスーパーでは顧客に近い店舗から商品を配送するのですが、これでは商圏によって売れる商品がバラバラになってしまい、廃棄ロスが出てしまうリスクがあります。Green Beansは誉田CFCをハブとし、中継地点を随所に設けることで、離れたエリアに住む顧客の個別のニーズに対応できる物流体制を築いているのです。

自社雇用配達員が「挨拶」する理由

──広範なエリアの顧客を想定しながら誉田CFCを物流拠点とし、その先端技術を活用することで、これまでのネットスーパー事業の課題を解決しようとしているのですね。

樽石 実店舗や物流網など既存のインフラを活用してネットスーパーを運営するというやり方ではなく、顧客のあるべき生活スタイルから逆算してサービスを組み立てていますから、これまでとは全く異なる買い物体験を届けられる自信があります。

「使いたい時に、いつもの食材が冷蔵庫にない」という体験は、消費者にとってはかなりストレスになるものです。Green Beansでの買い物が生活の一部になると、そうしたストレスはかなり低減されると思います。

──樽石さんはこれまでIT企業で長く勤務されてこられましたが、イオンネクストに入社したきっかけはなんだったのですか。

樽石 グーグルや楽天を経て、グルメアプリのRettyでCTOをしていたところ、イオンネクストからGreen Beansを立ち上げるので加わってほしいと誘われ、入社しました。

 Green Beansの裏側には、ソフトウェアエンジニアたちが組み上げた様々なインフラが走っています。イオンのような巨大グループ企業で、これほど大規模なリアルとデジタルを組み合わせたサービスをつくるチャンスに恵まれる機会はないと今でも思っています。

──最後に、今後の目標を教えてください。

樽石 Green Beansを、お客様にとって「なくてはならないサービス」にさせたいですね。食品は「あったら便利」というより「日常になくてはならない」商材です。だからこそ、サービス体験を磨いていきたいと考えています。

 例えばGreen Beansでは、商品をお客様の元にお渡しする際、自社の配達員(デリバリークルー)は必ず「ありがとうございました」と笑顔でご挨拶するようにしています。我々は、あくまでも小売業というサービス業者であり、いくらデジタルに投資しようがそこは変わりません。これからも、Green Beansにしか生み出せない体験を届けていきたいと思います。