厳しい環境が小売業を鍛えた。コロナ禍でも北海道発の小売企業「ノーザンリテーラー」が元気だ。例えば、ニトリホールディングスやツルハホールディングス、アインホールディングスは全国チェーンに駆け上り、アークスはじわりじわりと関東をにらんで歩を進める。道内にとどまる企業でもセコマ(セイコーマート)、コープさっぽろはその一挙手一投足が業界の注目を集める。
バブル崩壊後のデフレ経済下で躍進
日本経済新聞社が「日経MJ(流通新聞)」紙上で毎年まとめている「日本の小売業調査」によると、2021年度で売上高50位以内に入る本社が北海道もしくは北海道を源流とする企業は5社(ツルハHD、ニトリHD、アークス、DCMホールディングス、コープさっぽろ)。総生産が19兆6528億円で、日本全体の名目GDPの3.47%(2018年度)しか占めない北海道経済の位置からすると、ノーザンリテーラーの奮闘ぶりが分かる。2000年度は50社以内に入る北海道企業はゼロだっただけに、バブル崩壊後のデフレ経済下での躍進も目立つのだ。
1997年の北海道拓殖銀行の経営破綻で、北海道経済は危機に見舞われた。資金調達と市場低迷に苦しんだ北海道の小売りはローコスト経営を徹底。この結果、価格競争力を高めた。ノーザンリテーラーの経営者には「地域愛」があり、人口減少や過疎化、物価高といった社会課題に敢然と立ち向かった。1年の多くの時期を雪に閉ざされつつも広大な大地に住む人々に、小売業の使命として豊かな生活を維持・向上するのため知恵を絞り、仕組みを整えていった。
メリルリンチ証券でアナリストを務め、「北海道現象」の名付け親である鈴木孝之氏(プリモリサーチジャパン代表)は「首都圏の肥沃なマーケットで足腰の強い企業が生まれるかというと、得てしてそうではない。その一方、北海道で成功した企業の経営者は志が大きく、開拓者精神が根付いている。北海道は歴史が浅く、守旧派的な企業や制度が存在しない。企業文化として自分たちが歴史をつくる気概があるのだろう」と分析する。