「先進ITがもたらす経営革新」「ITの戦略的活用」「業務改善とコスト削減を導くIT」etc.……ITベンダー各社が訴える“経営を変えるIT”のメッセージを、頭では理解しながらもいまひとつ実感が持てないという傾向が少なくない。全社員にPCを与え、サーバも導入してそれなりの活用をしているが、実際それで自社のビジネスが大きく変わったようには思えないのである。

 そうした声は主にITスタッフの人数や予算が十分でない中堅・中小企業から聞かれ、それらがネックになっているケースも多いが、実のところ理由は他にもある。今回は、経営陣や事業部門リーダー、そして現場の社員にとって、「経営を変えるIT」がピンとこない理由はどこにあるのかを明らかにし、今、何をなすべきかを考えてみたい。

中小企業で顕著な「ゼロ情シス」「1人情シス」問題

 ひとつお聞きしたい。あなたの会社には、社内のPCやサーバ、ストレージ、ネットワーク、業務アプリケーションなどの導入や運用管理を専門的に担う「情報システム部門」があるだろうか?もし答えが「ノー」である場合、そうした情報システムにまつわる仕事は、どの部署の、だれがやっているのだろうか?

 情報システム部門が当たり前にあり、そこに何人ものスタッフが所属しているような会社に勤めている方は、こんな質問をすること自体、不思議に思うかもしれない。だが、日本の中堅・中小企業では、情報システム部門がなく、専任で担当する社員がいないという状態は珍しいことではない。

 数字でご確認いただこう。下のグラフは、IT市場調査会社のノークリサーチが公表している、年商500億円未満の中堅・中小企業1000社の経営層および管理職を対象としたIT投資動向調査結果からの引用だ。対象企業でITの運用管理に携わる人員の規模を、年商5億円以上から50億円未満の年商別に表している。人員規模の項目のうち、「ITの管理/運用を担当する社員は特に決まっておらず、その都度適切な社員が対応している」や「ITの管理/運用を担当する役割を持つ社員が1名いる」の比率に注目すると、前者のいわゆる「ゼロ情シス」の企業は年商5億円未満で65.5%、後者の「1人情シス」の企業は24.0%を占めていることがわかる。

年商別に見たITの管理/運用の人数規模

 こうしたゼロ情シスや1人情シスの状態はなぜ起きるのか。年商が低くなるにつれ、情報システム担当の人数が少なく、中小企業の場合、情報システムにかけられる予算が概して少ないという問題が大きい。今やどの企業でも社員1人に1台のPCが割り当てられ、サーバやネットワークは導入したきりで、それらの運用やビジネスへの高度な活用までは手が回らないのが、大方の中小企業の実情だろう。

 予算を多くとるか低く抑えるかは無論、経営者が決めることであり、大手か中堅か中小かといった企業規模の問題ではない。グラフが示す、企業規模が小さくなるにつれ担当者が少なくなるという傾向は、経営者や事業部門リーダーの、ITのビジネス活用に対する関心の薄さの表れだと言える。そうした経営者は、たいていITを定常的なコストとしてしか見ておらず、「ITの力で経営革新」などと言われてもピンと来ない。むしろ、重荷に感じてしまうのである。

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