個人情報保護法の施行もあり、機密文書や電子メディアの管理に細心の注意が必要となっている。そこで厄介なのが、本支店間や得意先との輸送問題である。情報漏洩や盗難が起こるとも限らないからだ。その万が一の事態を予防するサービスとして注目されているものに、佐川急便の「飛脚セキュリティ便」がある。頑丈な専用ケースを使用し、ユーザー企業以外は解錠できないダイヤルロックを備え、しかもいつでも荷物の位置を追跡できる機能もつけたサービスである。「安全・安心の輸送」をモットーとする、このサービスを担当している佐川急便の千葉春生・営業戦略部 営業企画担当係長に、セキュリティを確保した輸送のための取り組みや展望を聞いた。

機密情報の保護を重視した輸送サービスを実現

 企業では、個人情報保護法への対応もあり、セキュリティを保って管理するべき書類やデータが確実に増えている。文書などの紛失や情報漏洩は、企業にとって信頼失墜につながる致命的なトラブルになるからだ。ただ、社内での管理については策を講じやすいが、機密性のある書類などをいかに安全に輸送するかを大きな課題とする企業も多いだろう。個人情報や機密書類の取り扱いは、いまや社会的な信頼を得るために欠かせない要素となっているからだ。

 佐川急便がそのようなニーズに着目し、力を入れているのが「飛脚セキュリティ便」である。営業戦略部 営業企画担当の千葉春生氏は「お客様が高価な荷物や重要書類の配送を依頼される時の不安をできる限り解消したいと考え、現在の形に仕上げたものです」と言う。ちなみに「飛脚セキュリティ便」とは、ダイヤルロック方式で施錠する専用ケースをユーザー企業にレンタルし、機密性を確保したまま輸送する高セキュリティのサービスである。

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佐川急便株式会社 営業戦略部 営業企画担当係長 千葉 春生氏

 荷物の内容についてはユーザー企業の申告によるが、現状では名刺や名簿などの顧客情報、電子メディアやノートパソコン、サーバーなどと幅広い。ユーザー企業は、当初は金融関連、カード会社、IT企業、通販会社が中心だったが、最近では学校や行政など業種を問わずに広がっている。「本支店間などの社内便のような利用が5割で、後は取引先との間で顧客リストなどの受け渡しが主な利用になっています。さらに最近は展示会などイベント関連での利用も増えており、キャラバンのように日本各地を巡ることもあります 」という。

 展示会や販促キャンペーンなどを実施した際に、会場で入手・収集した名刺をはじめアンケートなど個人情報に関わるものは、今までは社員自身が運ぶしかなかった。しかし、この「飛脚セキュリティ便」を利用すれば、安全に本社や支店などに輸送することができ、社員は心おきなく来場者との対応などに時間を費やすこともできるのだ。

貨物追跡システムで先行 PHSなら地下まで探索可能

 佐川急便では、セキュリティに配慮した様々なサービスやシステムの開発に取り組んできた。1980年代に、業界に先駆けてドライバーに携帯端末を支給し、荷物を追跡できる「貨物追跡システム」を開発したのがその一例である。営業店などのポイントごとにドライバーが伝票のバーコードをスキャンし、荷物がいつ、どこにあるかを常に確認できるシステムを構築したのだ。さらにその後には、貴重品サービス(セーフティーサービス)を付加できるようにした。

 このようにIT(情報技術)を利用し、ドライバーが入念に確認する信頼性の高いサービスを提供するシステムはすでにできあがっていた。しかし「お客様の不安を最大限解消し、さらに安全を徹底したサービスを確立したいと考え、個人情報保護法の時代にふさわしいサービスの開発の話が持ち上がりました。そしてニーズに応えた商品づくりに取り組むことになったのです」と千葉氏は「飛脚セキュリティ便」開発の背景を説明する。そして完成したのが、PHS端末を搭載したダイヤルロック式の専用ケースを使用した「飛脚セキュリティ便」というわけだ。

専用ケースについて

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専用ケースについて


伝票・専用シール

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専用伝票と貴重品サービスシール


 佐川急便が「飛脚セキュリティ便」に、専用ケースを使用した大きな理由がある。それは2カ所(6桁)のダイヤル式ロックを付け、関係者以外は解錠できない暗証番号式にするためだ。暗証番号にすれば取り扱い担当者を限定できるし、ダイヤル式には鍵がいらないという便利さもある。

 さらに位置情報端末機には、多くの企業が使用しているGPSではなく、PHSを採用した。その理由を、千葉氏は「GPSは地上に荷物があるときの位置情報の精度は高いのですが、地下に入ると位置確認がしにくいのです。しかし、PHS端末にすることで地下でも追跡がしやすく、佐川急便のホームページにアクセスすれば、パソコンから24時間リアルタイムに荷物の現在位置が追跡できるようになりました。また、GPSはバッテリーが1週間程度しか持たないというのも泣き所でした。それに比べ、PHSはバッテリーが約3カ月は持つという省電力設計になっているのです」と説明した。

 しかも佐川急便は、安全性の確保とユーザーの使い勝手を考え、交換用バッテリーは70日サイクルでドライバーがユーザー企業へ届けるようにしている。 こうすれば、ユーザー企業側も定期的にバッテリーを交換でき、長期間輸送の途中に電池切れになる心配もない。ただし、航空機を利用するときだけは安全上の理由からPHS端末の電源はオフにするが、それも必ず佐川急便のグループ会社のスタッフが操作することになっている。

年間から1週間単位まで用途に合わせて選択できる

 「飛脚セキュリティ便」を利用するには、まず佐川急便のホームページにアクセスして申し込む。すると登録完了のメール受信後に営業店から伝票などの確認のためにスタッフが来訪し、その後に専用ケースと専用伝票が届く。そしてユーザーIDとパスワードを事務局から入手すれば、サービスの利用が可能となる。

 専用ケースはレンタルで、開始当初は2年からの長期契約(月額税込5250円)のみだったが、現在は1カ月の短期(月額税込6300円)、スポットの1週間契約(週額税込2100円)と幅が広がった。通常の専用ケースはA3用紙が1500枚入るサイズだが、オーダーメイドも可能。ただし、買い取りで基本は専用ケースと同じデザインとし、ダイヤル錠、位置情報端末機を搭載することになっている。さらに輸送物の内容によって専用保険(有償)も用意されている。

サイズバリエーション

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専用ケース サイズバリエーション
*お荷物の運賃は別途必要となります。
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さらに位置情報の精度を高め 信書便などとの組み合わせも

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 「社会的にも情報保護やセキュリティへの意識が向上しているので、今後も着実に伸びていくでしょう」 と千葉氏は見る。同時に「顧客のニーズとコストを勘案しつつ、荷物のある位置をピンポイントに確認できるようPHSの精度を高める開発もしていきたい」と、さらなるサービス進化への課題を挙げた。

 また、文書保管サービスの際に利用する移動手段として飛脚セキュリティ便を利用したり、5月からサービスを開始した「飛脚特定信書便」を組み合わせたセキュリティ輸送サービスの開発を計画している。グループの総合力を活かし、輸送を中心に文書管理などへも事業の輪も広げ、ワンストップサービスで多様な顧客ニーズに応えようとする佐川急便の今後の展開に注目したい。


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  • 機密情報の保護を重視した輸送サービスを実現
  • 貨物追跡システムで先行 PHSなら地下まで探索可能
  • 年間から1週間単位まで用途に合わせて選択できる
  • さらに位置情報の精度を高め信書便などとの組み合わせも
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