個人情報保護法や内部統制、CSRの観点からも、企業にとって書類の管理・処理が重要な課題になっている。重要な書類をすべてシュレッダー処理するとなれば、途方もない時間と手間がかかる。そこで注目されているのが、書類を跡形もなく消滅させてしまう溶解処理だ。今年2月からサービスを始めた佐川急便の「飛脚機密文書リサイクル便」は、書類を取り出さず、箱ごと溶解処理してリサイクルするという安全・安心の方式が評価され、登録ユーザーは3万件を超えそうだ。7月からは、「飛脚機密文書リサイクル便」を補完する文書保管サービスも本格展開する。これらのサービスを開発した黒川泰之・営業戦略部 営業企画担当課長に、新サービスの狙いや展望を聞いた。

セキュリティに苦慮する企業に援軍 全国8カ所に溶解処理施設

 情報漏洩は、信頼失墜につながる致命的なトラブルである。近年では、すべての企業に内部統制監査体制の確立が義務付けられ、機密文書の管理・処理についても大きな課題の一つになっている。

 大企業の場合は、法令に基づく文書の管理・処理システムを構築しやすいが、中堅・中小企業の場合、契約書のコピーや会議の資料などの処理に頭を悩ますところも多い。シュレッダーを設置するほどのスペースはなく、その都度溶解工場まで運ぶのでは手間も費用もばかにならない。佐川急便が「飛脚機密文書リサイクル便」を開発したのも、そのような企業からの要望が発端だった。

 営業戦略部 営業企画担当課長の黒川泰之氏は、「1年半ぐらい前に、金融関連のお客様から相談を受け、共同でプロジェクトを立ち上げました。そうしたノウハウから、支店や事業所などにも手軽に利用していただけるよう、段ボールひと箱からでも溶解処理を引き受けるサービスを構築したのです」と開発の経緯を説明する。

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佐川急便株式会社 営業戦略部 営業企画担当課長 黒川 泰之氏

 「飛脚機密文書リサイクル便」は、専用の段ボール箱(1枚300円、税込。20枚1セットで販売)を購入し、箱がいっぱいになったら佐川急便に連絡すると、引き取りに来て溶解処理までしてくれるというサービスである。料金は、運賃のほか溶解処理料、証明書発行手数料を含めて1箱1500円(税込)。企業としては、通常通り連絡すれば担当のセールスドライバーが引き取りに来てくれるので、使い勝手が良いのが特徴だ。

サービスの流れ
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 佐川急便は、「飛脚機密文書リサイクル便」ではセキュリティの確保がカギとなることから、従来とは異なるシステムを採り入れた。まず、利用にあたってはWebサービスの登録(IDの取得)を必須条件としたことだ。取得したIDで専用webサイトに入り、専用送り状を発行するため、管理の面でもセキュリティの面でも信頼できる。同時に、運送中のリスクを軽減するため、北海道から沖縄まで全国8カ所に溶解処理施設がある企業と提携した。この委託先選定では、セキュリティやリサイクルの設備、能力を重視した。


クリップなどは外さなくても大丈夫 中身が目に触れない専用の箱を開発

 企業の文書処理は、シュレッダーによる裁断から溶解への移行が加速しているのだという。その理由としては、裁断洩れによる情報漏洩、設備のスペースや手間の問題などがあるが、文書が消滅してしまうことで確実にセキュリティを維持できることが大きいと思われる。

 「飛脚機密文書リサイクル便」では、ユーザーに手間をかけないようにも配慮した。そのひとつが、クリップやホッチキスの針ぐらいまでなら一部混入も許されることだ。不要な書類を箱に詰め、密封シールを貼れば終わりなので、面倒がなくていい。これは、「各地の溶解処理施設を見て回り、クリップなどの異物を除去でき、良質のトイレットペーパーに再生できるハイレベルな技術をもつ企業と提携することにした」(黒川氏)成果である。

専用段ボール箱

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専用段ボール箱は1 枚300 円(税込、1箱20Kgまで)。※処理工場で溶解した古紙パルプはトイレットペーパーなどのリサイクル原料になる

ポスト型・専用段ボール箱

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改良したポスト型の専用段ボール箱。書類を入れる際にも中身が見えないつくり

 文書の溶解処理サービスを行っている企業は多く、「飛脚機密文書リサイクル便」は後発だが、「すでに月間で約5000箱に上っており、当初目標の年間8万箱は達成できそうです。利用登録の申し込みが3万件を超え、手ごたえを感じている」というほど、順調な滑り出しをみせている。

 黒川氏はさらにサービスの充実を図るべく、新しい段ボール箱を開発した。「店舗で接客される企業のお客様から、段ボール箱をのぞくと中身が分かってしまうのが気になるとの話を聞き、中身が見えないポスト型の段ボール箱に改良した」のだ。さらなるセキュリティ確保への努力である。

 新しい段ボール箱は、旧タイプの段ボールと同様に簡単な組み立て式にしただけでなく、容易に中の書類が見えないほど高い密閉性を持つ仕様にした。6月末から提供を始めたが、価格は従来通りである。(※新段ボールは特許申請中)。


トイレットペーパーに再生し環境保護 溶解処理証明書はwebから入手

 溶解処理のメリットには、焼却処理のようなCO2(二酸化炭素)の排出もなく、環境問題解決にも有効な点にある。「飛脚機密文書リサイクル便」は段ボール箱も中身の書類も、トイレットペーパーなどにリサイクルする。そのため、「再生を考慮に入れて、段ボール箱の素材にもこだわりました。封印シールも溶けるものを使っています」と、黒川氏は説明する。段ボール箱は、表面だけでなくボードの間の波状の部分までトイレットペーパーのリサイクルに適した素材を使用している。

証明書

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溶解処理後は、Web サービスのサイト内で溶解処理証明書の発行が可能となる


封印シール

専用封印シール

 さらに、ユーザー企業から高い評価を得ているのが、溶解処理完了後に専用webサイトから「溶解処理証明書(PDF)」を出力できるところである。佐川急便ならではのシステムで、処理日や溶解処理工場の住所や連絡先を記載されているだけでなく、実際に溶解した段ボール箱の個数や重量も分かり、監査などで処理法の提示を求められた時も即座に対応できる。証明書は6カ月間、必要に応じてダウンロードできるため使い勝手も良い。「実際にほぼ100%の企業が利用しています」(黒川氏)というのも頷けるだろう。


文書や電子媒体の保管サービス開始 グループをあげセキュリティ事業強化

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 佐川急便ではさらに7月から機密文書を保管するサービスも開始する。これは従来の「飛脚機密文書リサイクル便」を補完するサービスだ。グループのシナジーを活かした新サービス提供を目指してのことで、黒川氏は「ワンストップのトータルサービスを提供していきたい」と力を込める。ちなみに料金は、セキュリティのレベルによって、1箱1カ月で150~250円(税込)を目安に差別化を図るという。

 決算関係の書類や医療機関のカルテなど、法令で一定期間の保管を義務付けられているものも多く、今後も文書保管サービスのニーズは増えていく。それは当然、保管期間が過ぎた文書は溶解処理に、という一貫サービスを呼び起こす。ただ、「監査や整理のために保管中の書類を見たいので戻してほしいという要請が結構ある」のも事実で、このため黒川氏は「依頼主が簡単にチェックできる在庫管理の仕組みも構築した」としている。


文書保管サービスはまず都内の施設を活用してスタートし、各地域にあるグループ会社の施設も活用して全国に展開していく計画だ。また、納品代行や商品管理を業務とするワールドサプライを子会社化したことで、今後はさらにサービスの多様化も期待できる。佐川急便は、文書の運送から保管・処理というセキュリティ関連の分野でのトータルソリューション提供を目指し、さらに事業の幅を広げていきそうだ。

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