食の安全への意識の高まりを背景に、生鮮食品を産地から取り寄せる消費者が増加している。販売方法はカタログ、インターネットなど様々だが、難問はいかに鮮度を維持しつつ配送、そして確実に代金を回収するかだ。そこで「縁の下の力持ち」の役割を果たしているのが、佐川急便である。全国的な配送ネットワークをベースに、受注・発送業務などを合理化するIT(情報技術)ソリューションを提供、さらに荷主にも消費者にも好評の代金引換サービス「e-コレクト*」を組み合わせたワンストップサービスが、その武器となっている。販促支援まで含めたその展開を、JAあわじ島(あわじ農業協同組合)のケースをもとに見てみよう。
* 「e-コレクト」はSGホールディングスの登録商標です
日本経済は「失われた10年」が「失われた20年」になりかねない長期低迷の状況に陥っている。だが、そのような混迷をよそに成長を続けているのが、ダイレクトマーケティング、いわゆる通信販売だ。その市場全体を捕捉したデータはないが、「およそ9兆円」と推計されている。ことに成長ぶりが顕著なのは、インターネットの普及をテコにした個人によるネット取引で、経済産業省がまとめた調査によると、「2008年には6兆1000億円になり、前年比で13.9%増えた」とされる。
なぜ、通信販売が高い成長力を示しているのか。その1つの要因は、複雑な流通経路をカットし、リーズナブルな価格を実現したことによる魅力だろう。それを後押しするものには、インターネットが普及し、評判など様々な情報を手に入れ、かつ商品の性能、品質や価格を比較しやすくなったことがある。さらにここ数年、企業が、また各地の自治体などが「ブランドの確立」に力を入れ、情報発信やプロモーションを活発に展開していることも見逃せない。
「地域ブランドの確立」は、特産品の売れ行きや観光客の誘致を左右するだけに、全国の自治体が懸命に取り組んでいるテーマだ。その成功例に、淡路島のタマネギが挙げられる。JAあわじ島(あわじ島農業協同組合)の販売部特産課長の溝渕英昭氏は「特産品のブランド化を進める目的で通販に乗り出したのです。東京の消費者から『デパートでも手に入らない』などという声が寄せられたこともあり、全国的なブランド確立を目標にしました」と振り返る。
その結果は、どうなったのか。「淡路島のタマネギは、甘くて、柔らかくて、おいしい」という評価を確立したのだ。JAあわじ島の販売部農産課長の長谷川雅一氏が「通販では東京など関東圏が地元の関西圏を上回る勢いがあります。農林水産省の平成20年野菜出荷統計によれば、日本最大のタマネギの産地は北海道で約67万トン、兵庫県は第3位で約10万トンで、そのうちJAあわじ島は5万トン足らずなのですが、北海道から定期的に注文してくれるお客様がいます」という状況をもたらしたのである。そして「いたずらに量を追わず、確かなものをお届けすることを第一に、着実に成長させていきます」と付け加えた。
淡路島のタマネギが高い評価を得られた理由として、長谷川氏は「淡路島の南部は、酪農が盛んなこともあって土地が肥えています。しかも、北海道では収穫までに4カ月ぐらいのところを、ここでは7カ月かけて養分をよく吸収するように栽培し、冬は寒気に晒されるのでタマネギが引き締まるのです」と説明する。そういう地の利に加え、「今でもタマネギ小屋で自然乾燥しつつ熟成させることが少なくありません」というように、手間と時間を惜しまない栽培を行っていることが、「おいしいタマネギ」という評判として実を結ぶことになった。
だが、品質のよさだけが、淡路島のタマネギのブランドを確立し、通販事業に成功をもたらしたわけではない。消費者のニーズ、ことに利便性の実現と信頼性の獲得も不可欠だった。利便性とは、指定した日時に間違いなく配送されることであり、支払いに自由の利くことだ。そのためにJAあわじ島が白羽の矢を立てたのが、佐川急便だった。溝渕氏は「通信販売を始めた頃は何社かに頼んでいたのですが、量がまとまり、1社にトータルでと考えたとき、きっちりした仕事ぶりや社風を評価し、佐川急便にお願いすることになったのです」と振り返る。
現在、佐川急便がJAあわじ島から大きな信頼を獲得している要因には、配送の的確さとともに「e-コレクト」という代金引換サービスがある。これは、配達に訪問したドライバーが商品を届け、利用者から代金を受け取るとき「支払い方法は、現金はもとより、クレジットカードやデビッドカードでも可能で、分割払いでもいい」という柔軟性に富んだ宅配サービスである。2009年度の取扱個数が1億2713万個(前期比121%)と業界No.1の実績を誇り、決済金額が1兆3709億円(前期比113%)に上ったことからも、生産者と消費者の双方が満足していることがうかがえる。
JAあわじ島が「e-コレクト」を評価するのは、「振替の場合、お客様はそのために足を運ばなければならないわけですし、私どもにも未収金が発生する心配があります。一番いいのは、双方に便利なことですからね」という理由によるものだ。このため現在は「代金引換を推奨する」という方針を打ち出し、今や「その比率は90%以上になっている」という。
JAあわじ島は、市場へ出荷する分も含め2008年度の販売額が35億円だったタマネギを皮切りに、特産品の通信販売を増やしてきた。冬場から春先の白菜、出荷額では52億円とトップのレタス、そしてキャベツなどである。特徴ある商品として話題になるものに、タマネギとの詰め合わせでも販売しているカレーがある。長谷川氏が「昨年、ある著名人が新聞やラジオで『おいしい』と紹介してくださった途端に注文の電話が殺到、一気に800箱、4000食も受注しましてね」というエピソードもある商品だ。
「カレーは、特産品のタマネギに特産品の淡路牛を組み合わせて開発したオリジナル商品なのです。淡路牛の子牛は、神戸牛はもとより近江牛や松阪牛にもなるもので、非常に肉質がいい。そこに着目し、1995年頃に創り上げたのです」と経緯を説明する溝渕氏は「生産は島内の工場へ委託していますが、昨年は約8万食を販売、そのうち約1万食が通信販売でした。それ以外は地元の人の購買と、土産物店・特産品店での販売で、スーパーなどへは出荷していません」という。
取扱商品が増え、かつ旬のある農作物が多いとなれば、当然、出荷数にも波が生まれる。それに対応したのが佐川急便で、淡路島店カスタマーサービス課係長の小野成信氏は次のように説明する。「受注業務を間違いなくスムーズにこなし、手際よく発送につなげるため、当初は出荷支援システムとして『飛伝V』を導入、一昨年にはその後継システムとして『e飛伝Pro』に移行していただきました」。
e飛伝Proは、専用パソコンとプリンターを使って送り状を発行するシステムで、大量出荷の場合でも大幅に作業効率の向上が図れると好評だ。JAあわじ島で農産物の集荷・選別・発送作業などを行い、かつ通信販売の受注業務も受け持っている施設センターの所長・安倍文宏氏は「印字をもう少し大きくとか、欲を言えばキリがありませんが、システムの移行は問題なく終了しました。ピークには1日100件という入力も造作なくこなせましたし、新タマネギをご案内するDMを5000通ほど出したときも、楽々と作業できました。リストに登録したお客様は電話番号で住所などを簡単に確認でき、スピーディーに発送できるのもいいですね」と満足している。
核家族化、単身世帯の増加、働き方の多様化など、ライフスタイルの変化を考え合わせれば、今後も通信販売が伸び続けることは間違いないだろう。それは同時に競争激化を意味し、そこで成功するには良質の商品を適正な価格で販売することが第一条件となる。だが、成功するためには、それだけでは十分ではない。消費者に効果的に告知し、購入してもらった場合にはリピーターとして囲い込むことが大切だ。
そこで佐川急便では、そのための手立てとして「eコレクト ショッピング ナビゲーション」を用意している。これは「e-コレクト」を利用できる商品などを集積し、消費者が手軽に検索できるようにしたネットショップサイトで、認知度の向上や売り上げ増大に寄与するものになっている。また、グループ会社の佐川アドバンスによる通信販売事業「カットコット」なども展開している。
さらに佐川急便は、消費者が最も気を使う個人情報の漏洩、情報セキュリティーの確保にも、万全の体制を整えて臨んでいる。「発注はインターネットでするが、支払いはネットではなく代金引換、それも受け取り時にクレジットカードで」というような消費者の要求を満足させるサービスを構築したことが、その典型だろう。「通信販売を成功させるには、受注・発送から代金回収、さらには販促支援まで多彩なサービスとソリューションを用意している佐川急便が、強力な援軍になる」ことは確かだと思われる。