企業のDXが進み、円滑な業務遂行のためにデジタルツールの利用は必然になっている一方で、デジタルツールの習熟度により生産性に差が出ていることも事実です。そこで、デジタルテクノロジーの効果を最大限に引き出す最適な手法などについて議論する「Digital Adoption Forum 2023~データを味方に創り出すデジタル・フレンドリーな世界~」が2023年7月13日(木)、都内で開かれました。デジタルツールの提供側は、データを味方に顧客と共にグロースし続ける方法について具体的な戦略を語り、デジタルツールの利用側は、データを最大限に活用しどのように企業の戦闘力を高めているのか事例を紹介しました。

主催社挨拶

 本フォーラムを主催したのは、企業向けにソフトウェア・アプリの定着化ソリューションを提供しているPendo.io(本社:米国ノースカロライナ州ローリー、以下Pendo)の日本法人Pendo.io Japan株式会社 (所在地:東京都渋谷区、以下Pendoジャパン)である。

 フォーラムの開始にあたり、Pendoの創業者兼最高経営責任者(CEO)であるトッド・オルソン氏がオンラインで登壇。コロナ禍を経て初めて対面で行うフォーラム参加者への謝辞を述べた。

Pendo.io CEO トッド・オルソン 氏

 Pendoジャパン カントリーマネージャーの高山清光氏は「Pendoはソフトウェア分析、活用促進のソフトウェア・アズ・ア・サービス(SaaS)であり、社内外のあらゆるソフトウェアを対象とする」と紹介した。使いにくいソフトウェアを撲滅し、使いこなすためのノウハウがあるのが大きな特長だという。

 具体的には「Pendoは『PLG』と『DAP』の2つが重要と捉え、それらに対する製品を作りノウハウとともに提供しています」と高山氏は語った。

Pendoジャパン カントリーマネージャー 高山清光 氏

 デジタルトランスフォーメーション(DX)が世界的に大きな変化をもたらしている。それにともない、ソフトウェア市場が増大し利用状況も劇的に増大している。その一方で、特に日本ではDXが進んでいないのが現状だ。

「国内企業では最高デジタル責任者(CDO)の平均任期が2.5年と短い。期待されて入社したものの、孤立し退任する人も多い」と高山氏は指摘する。

 そのような日本企業が抱える経営課題を解決しDX実現につながるのが「PLG」そして「DAP」なのだ。PLGは「プロダクト・レッド・グロース」の略でプロダクトが主導し売上を伸ばすという成長戦略だ。自社で顧客接点のプロダクトを作り、ユーザーの声を徹底的に拾い、全部署でニーズを理解した上で、そのプロダクトから売上を上げる仕組みを作る。

 DX実現のためのもう一つの重要キーワードDAPは「デジタル・アダプション・プラットフォーム」の略で、Pendoのように、より効果的に誰もがシステムを使いこなし定着化をサポートするツールを示す。SaaSの普及にともない、企業内には大量の業務アプリが導入されている。だが、これらを使いこなしている従業員は少ない。

「Pendoには『アナリティクス(定性・定量分析)』、『アプリ内ガイド』、『フィードバック』の3つの機能が備わっており、これらを活用することで、ユーザーがより使いやすいシステムへの改善や、生産性の向上にも貢献します」と高山氏は話す。ユーザーサポートコストの削減だけでなく、社内の各部門を跨いだ情報共有と協業などの効果もあるという。「実際のPendo活用事例をこの後の分科会で聞いてほしい」と高山氏は語った。

福岡ソフトバンクホークス前監督
工藤公康氏が語る未来を見据えた組織マネジメント
 

 基調講演は福岡ソフトバンクホークス前監督 工藤公康氏から「未来を見据えた組織マネジメント~実現のための思考と行動~」というテーマで講演が行われた。

「10連覇ができるチームを作ってほしい」というソフトバンクの孫オーナーからの依頼を実現させるために、工藤氏は、手順や方法を模索し、実現や達成のために必要な要素や方法を整理し、突き詰めていったという。講演では、工藤氏が実際に活用したデータも紹介しながら、実践してきた考え方や指針が語られた。

福岡ソフトバンクホークス前監督 工藤公康 氏

分科会1 東急コミュニティーの組織変革。
情報システム部門の「脱・おもてなし」で目指すデジタル定着

 柏崎氏は、IBM AS/400向けミドルウェアを扱うベンチャー企業でのPresales、外資系ストレージ企業の情報システム部門などを経て、現在、東急不動産ホールディングス、東急不動産、東急コミュニティーの情報システム部門を兼務している。

 東急不動産ホールディングスグループ入社後は、同グループへのITSM実現のためにServiceNowの展開、東急コミュニティーの全ファイルサーバー170台/200TBをクラウドコンテンツ管理のBoxに移行するプロジェクトなどを主導した。

 ITを活用した課題解決の手法では外資系企業に強みがある。柏崎氏が進めるのも、自ら経験してきた外資系流のIT活用だ。その柏崎氏が今、導入を進めているのがPendoだという。

※ITSM(ITサービスマネジメント):価値提供に重点を置いた、IT管理への戦略的アプローチ

「Pendoを使うことによって、これまで日本の企業が“解決方法がない”と諦めていた課題が解決できると考えています」と話す。具体的に、Pendoを導入してどのようなことを実現しようとしているのか。「BoxにPendoを当てることによって、まずはオンボーディングガイド(新入社員らが定着するまでの支援のためのガイド)の自動化から始まります。これで手順書・動画・集合研修を手間なく同一品質で継続的に自動化することができます。

 その後はさらに、今までできなかった、『Box利用の不安と疲労を取り除くこと』、『行動分析データを利用して、Boxを正しい操作へ誘導すること』、『ハイレベル社員への専用ガイドの表示』、『Boxヒーローの発掘』と段階を追って実施していくことを全体の目標にしています」

株式会社東急コミュニティー 経営管理統括部グループ IT推進部 ITインフラ企画課 主幹 柏崎正彦 氏

 Pendoを活用することで、よく間違える操作など、習得して欲しい操作は意図的に操作ガイドをBox上に強制表示して、禁止事項を伝えるなど、正しい使い方が自然と身に付くという。中でも、「Boxは使いづらい」「ITは苦手」と考える社員には最低限の覚えて欲しい使い方や、正しい使い方のみを提供することで、不安を解消し、安心感を提供するという。
 
 一方で、ハイレベル社員の支援も行っているのも大きな特長だ。「これまでの東急コミュニティーに限らずITはオンプレ時代には、社員から要望があっても『セキュリティの観点からできません』などと、断ることが多いのが現実でした。クラウドに変わることでBox導入時に、『事業部門を全力でサポートします、一緒にビジネスを作っていきましょう』と呼びかけたらいくつかの部門でBoxの自主的な活用に手が挙がり、そのような社員へも支援を拡大しました。その実績で、Boxカスタマーアワードを2020年に受賞しました」

 このような事業部に対しては、IT部門も活用相談ガイドの作成など、付加価値の高い取り組みが行えるだろう。多くの企業でそれができない理由はどこにあるのか。

「単に遠隔操作をするその場しのぎの『おもてなし』ITサポートを続けている企業が少なくありません。社内ユーザーを満足させるのがIT部門の仕事ではありません。自社のサービスを利用してくるお客様のために、“社員の行動をITによってどう効率化できるか“を実行するのがIT部門の仕事です」と柏崎氏は指摘する。

 ITセルフサービスプラットフォームを提供し、そこから検索できるナレッジを使い、仕事で使うITで困ったら自分で検索して解決し、日々ITリテラシーを向上していくことが理想だという。

 企業におけるIT教育のあり方が問われることになりそうだ。昨今ではIT教育のデジタル化も注目されている。手順書を紙から電子化したり、動画教育を行う企業もあるが、それに対して柏崎氏は「アナログをデジタル化したりクラウド上に置くだけでは効果測定ができません。“現状分析”と“解決策提案の自動化”ができて初めてデジタル化と言えるのです」と語る。

 そこで際立ってくるのがPendoだという。Pendoならガイドを出すだけで終わらずに、エンドユーザーのアプリ操作履歴から傾向を分析でき、セグメント情報により自動でガイドを提供し、エンドユーザーの行動に変化を起こすことができる。

 東急コミュニティーでも、Pendoを導入することで新たな発見もあったようだ。「『Boxが使いづらい』と言っている人の多くは『Boxを正しく使っていない』のです」例えば、URLをコピーして送る方法を知らないので、ダウンロードしてメールに添付するわけだ。さらに、必要のないダウンロードをするのは若手社員よりも部長職層のほうが多かったという。

「そこで、Pendoを活用し、ダウンロード回数の多い社員をピックアップし、ダウンロードの理由を自動でヒアリング、さらにその理由にそった操作改善ガイドを自動で表示するようにしました」正しい操作に改善されたらダウンロード回数が減る。まさに全自動IT教育の仕組みを作っているわけだ。

 柏崎氏は「業務効率をあげるためのITサポートは必要ですが、ITリテラシーの低い人のPCを代わりに遠隔操作する『おもてなしサポート』は生産性が低いので今すぐやめるべきです。これは子供の漢字ドリルに親が代わりに書き込んでいる状況です。この状況を放置した先に未来はない」と語る。これまで、ITリテラシーを上げろと経営から言われても、数字で結果が確認できないのがITインフラの課題だった。

「Pendoを活用することで、数字で結果が見えます。数字をもとに企画を自分で考える組織が作れます。IT部門が数字で考える組織になれる。ぜひ皆さんの組織のITインフラ組織をそんな組織に変えてほしい。そのためにも、IT部門は社員にITサービスを提供するサービス部門であるという意識が大切です。

 プロダクトやツールありきではなく、ニーズ、将来像、ターゲット、結果測定など事前のマーケティングが重要です。一足先に当社ではITとして覚悟をもって変革を進めていきたいと思います」と柏崎氏はアドバイスする。

分科会2 DXを成功に導くデジタルアダプションと組織文化・人材育成

 亀山満氏は、日産自動車、資生堂、三菱マテリアルなどにおけるデジタル技術のビジネス適用を、最高情報責任者(CIO)、最高デジタル責任者(CDO)の立場で実践してきた。

 2020年に三菱マテリアル CDOを退任した後にも、JUAS(一般社団法人日本情報システム・ユーザー協会)主席研究員、戦略コンサルティング会社 グロービング シニアエグゼクティブアドバイザー、一般社団法人 日本デジタルアダプション協会(代表理事 高山清光 Pendo.io Japan カントリーマネージャー)理事を務めるなど、精力的に活動している。そこには亀山氏ならではの「思い」がある。

亀山満 氏
一般社団法人日本デジタルアダプション協会 理事
グロービング株式会社 シニアエグゼクティブアドバイザー
一般社団法人日本情報システム・ユーザ―協会 主席研究員

「一言で言えば、日本はもったいないのです。技術や製品はすばらしく、従業員も勤勉でチームワークも悪くない、投資資金もある。ところが、頑張っているのに成長できない。成長するためにデジタル活用を進めているのに使いこなしていない。次の世代のために、動かなければと考えました」日本デジタルアダプション協会は2022年10月に設立されたが、亀山氏はその立ち上げにも携わった。
 
「デジタル活用についても、日本企業はもったいないのです。SFA(営業支援システム)、ERP(統合基幹業務システム)、ダッシュボード(一覧表示画面)などを入れても経営が見えていない。RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)やAI(人工知能)などを入れても手が回っていない。デジタルを使いこなせていません」と、日本企業はデジタル活用についても課題を抱えていると亀山氏は指摘する。

「製品やツールを狙い・目的通りに使いこなしているか、投資に見合った効果を出しているかといった状況を事実で、具体的に可視化し、改めてデジタル活用を再定義すべきです」
 
 目的は何なのか、誰がどう使うのか、効果のシナリオをどう描くのかといったことを明らかにしていくわけだ。ただ、リソースも限られている中、これを企業が1社で行うのはなかなか容易ではない。「そのような場合にはぜひデジタルアダプション協会に相談してほしいと思います。課題を乗り越えるアドバイスを行います。また、企業の使いこなしているノウハウ、課題を乗り越えたノウハウを共有する場にしたいと考えています」
 
 講演では、亀山氏自らの経験に基づく「組織文化を変革し、人を育てる変革実践のステップと肝」も紹介された。亀山氏は、経営変革のためには、デジタルを活用した事業構造の変革だけでなく、実践するための意識・行動改革が必須、とし、覚悟をもって、本気で変革を徹底実践しながら、今いる人の力を引き出し、上げていかないと変革はできないと指摘し、中でも「一番大事なのは“人”」と語った。

 さらに、亀山氏が学んだ変革のポイントとして。「1.現実を事実で直視する(危機感・自分事)」、「2.目指すべきこと、変わるべきことを明快に示す/Being(具体的・両輪)」、「3.実践するための仕組みを構築する(一貫した仕組み)」、「4.徹底的に実践する/Doing(本気・覚悟)」、「5.ひとを強化し続け、継続できる体制をつくる(世代交代・多様性)」を紹介した。

「1.現実を事実で直視する(危機感・自分事)」では、「いかに課題をリアルに感じるか(危機感)」と「トップも現場も共通の理解を持てるか(自分事)」が大切だという。三菱マテリアルで、コロナ禍で変革への取り組みを延期しようとする雰囲気がある中で、あえて「今やらなければ追い付けなる」と亀山氏が説得したエピソードも語られた。

「2.目指すべきこと、変わるべきことを明快に示す/Being(具体的・両輪)」は、「目指すべきことは具体に。意識・行動変革はきれいごと・建前ではだめ。変えるべき価値軸を明快に。全員で徹底実践」することだという。資生堂では新CEO就任をきっかけに、全員を役職ではなく「さん付け」で呼ぶことや、会議で紙の資料の配布を止めるといったことが徹底されるようになったという。

「3.実践するための仕組みを構築する(一貫した仕組み)」では、「全ての場で実践するために一貫した仕組みを作る」および、「文化・風土を変える仕掛けを作る」ことの大切さが説明された。資生堂ではあえて、役員に若手のメンターを付けてデジタルツールの使い方などを共有するとともに、上下の壁を取り払うような仕掛けも用意された。

「4.徹底的に実践する/Doing(本気・覚悟)」は、どの企業にとってもなかなか難しいところだ。亀山氏は「集中して検討したらやってみる。覚悟をもって、本気でやり抜く。仲間を巻き込んで一緒に戦う。チャレンジを応援し、失敗を責めない」などを掲げた上で、日産自動車で「つながるクルマ」の開発で数百億円の投資をしても成果が出なかったとき、フランス人の上司が「次につながる仕事をした」と評価してくれた話を紹介した。
 
 最後の「5.ひとを強化し続け、継続できる体制をつくる(世代交代・多様性)」では「若い力の活用。多様性を活かす」ことが大切だと亀山氏は語った。同質性ではなく多様性を重視し、人を育てるべきだという。歴史ある企業の変革を、ITやDXの責任者として実践してきた亀山氏ならではの発見と気づきがある講演だった。

 前編では、デジタルアダプション(利活用と定着化)および、プロダクト・レッド・グロース(PLG)の概念を理解するとともに、これらを実践するための組織づくりについて考察する分科会1、2の内容を紹介した。

 後編ではさらに、「分科会3 第一三共の全社プロジェクト:データを味方に“真の働き方改革”を実現」、「分科会4 顧客志向のPLG3社スペシャル鼎談~データを味方に顧客とともにグロースし続けるには?~」、企業交流会の内容を紹介する。

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