世界で初めて『ユーロマネー』『ザ・バンカー』『グローバル・ファイナンス』の3誌から「世界のベストバンク」という称号を12カ月のうちに冠された銀行「DBS」。これは銀行界では、映画でいうアカデミー賞で「作品賞」「監督賞」「主演賞」の3つを同時受賞したに等しいともいわれる。顧客満足度最下位だったシンガポールの元政府系金融機関、DBS銀行(旧称:The Development Bank of Singapore)は、いかにして最先端のテック企業へと生まれ変わったのか?「世界最高のデジタル銀行」と称賛されるDBSの変革の軌跡から、DXを成功させるための教訓、ベストプラクティス、成功の秘訣を学ぶ。

 第3回となる本稿では、デジタル化により顧客志向を徹底追求するためにDBSが取り組んだ、組織文化を変革する思考と手法を解説する。

(*)当連載は『DBS 世界最高のデジタル銀行』(ロビン・スペキュランド著、上野 博訳/東洋経済新報社)から一部を抜粋・再編集したものです。

<連載ラインアップ>
■第1回 世界最高のデジタル銀行「DBS」の変革は、いかにして実現されたのか?
■第2回 DBSがデジタル主導銀行へと変革するために取り組んだ、4つの優先項目とは?
■第3回 DBSをDXで「世界最高のデジタル銀行」たらしめた、3つのシンプルな戦略原則(今回)


<著者フォロー機能のご案内>
●無料会員に登録すれば、本記事の下部にある著者プロフィール欄から著者フォローできます。
●フォローした著者の記事は、マイページから簡単に確認できるようになります。
会員登録(無料)はこちらから

1. 組織の芯までデジタル化する

 デジタルシフトを起こすためには、DBSのコア・プラットフォームに対する多額の投資が必要であり、それには5~10年を要した。経営陣は、全く新しいテクノロジー・アーキテクチャーを採用する必要性を認識していた。

DBS 世界最高のデジタル銀行
(東洋経済新報社)
拡大画像表示

 そして「アジアウェーブ」は、全てのデジタルトランスフォーメーションのプロセスに向けた「頭金支払い」であると考えられた。

 また経営陣は、芯までデジタル化するためには、テクノロジー・アーキテクチャー全体の見直しが必要となることと、そのテクノロジー・アーキテクチャーの見直しでは根幹部分に立ち返ることが必要となることを理解していた。すなわち、中核プラットフォーム、レガシーシステム、ネットワーク、データセンターである。

 そして、それぞれの領域について見直しが必要となった。

2. カスタマージャーニーの中に自らを組み込む

 これは、徹底的に顧客志向となる方法を別のかたちで表現したものだ。本当の変化は、顧客のために「やるべき仕事」を再考するところから始まる。現在では、なされるべきことを定義して組み立てる銀行の物言いの中に組み込まれている表現である。

 このフレーズは、顧客ニーズに基づいたイノベーションに関するクレイトン・クリステンセンの著作から採用された(注6)

注6 クレイトン・M・クリステンセンほか、「顧客の『なされるべきこと』を理解せよ」、HBR.org、2016年9月

 具体的には、銀行はデザインシンキングを採用して、「4D」と呼ばれるアプローチを使えるように職員を訓練した。Discover(発見)、Define(定義)、Develop(開発)、Deliver(提供)である。4Dアプローチが教えるところによって、職員たちはカスタマージャーニー思考を身につけ、顧客への価値提案を定義する方法を検討し直した。

 銀行の経営陣は、顧客中心主義が「デジタルウェーブ」における最優先事項であると固く信じていた。このゴールは、テクノロジーや職員中心主義を最優先項目とする他の企業とは異なるものだった。