鴻海は、従業員のつなぎとめや新人の応募を促すため、手当の支給や報酬の引き上げを余儀なくされた。だが、関係者によると、今回手当や宿泊施設などを巡り、新規採用者との間で「誤解」が生じた可能性がある。

 鴻海が実施している「クローズドループ」操業について、従業員らは、十分な食事が提供されるかどうか不安を抱いている。工場内における不十分な新型コロナ対策も懸念しているという。

 今回の混乱の直前には、会社が生産目標を達成するために感染者も働かせているといううわさが流れた。これより、「さらに何千人もの従業員が工場から逃げ出した」(ウォール・ストリート・ジャーナル)という。

 ロイターによると、香港に拠点を置く人権団体は、「クローズドループは新型コロナが都市に広がるのを防ぐ効果はあるものの、工場内の労働者にとっては無策を意味する」と指摘する。

iPhone、供給不足で商機逃す恐れ

 米証券DAデビッドソンのアナリスト、トーマス・フォルテ氏は今回の混乱について、iPhone販売の一部は、1年で最も重要な年末商戦時期から次の四半期(23年1~3月)にずれ込む恐れがあると予測している。

 香港のカウンターポイント・リサーチによると、鴻海の鄭州工場では、新製品「iPhone 14」の普及モデル(14/14 Plus)の80%以上を、同上位モデル(Pro/Pro Max)の85%を製造する計画だった。

 アップルは、22年11月初旬に異例の声明を出し、「鄭州の主要な14 Pro/Pro Maxの組立施設は生産能力を大幅に縮小して操業しており、顧客の手元に届くまでの待ち時間が長くなることが予想される」と説明した。

 ロイターによると、鴻海は鄭州工場を22年11月中にフル生産体制に戻すことを目指していた。だが、関係者は今回の騒動が、新規採用従業員の稼働体制に影響を及ぼすと指摘する。「我々は当初、22年11月末までに新人工員を生産ラインに立たせることができるかどうか見極めていた。今回の混乱により、11月末までに通常の生産を再開できないことが確実になった」(関係者)。

 米ウェドブッシュ証券のダニエル・アイブス氏は、工場が閉鎖されれば、アップルに逸失売上高が生じると指摘する。1週間におけるiPhoneの逸失売上高は約10億ドル(約1400億円)になるという。21年の年末商戦時における1週間あたりのiPhoneの売上高は約60億ドル(約8300億円)だった。