日本の長寿社会が抱える課題は共創で乗り越えよ

東京大学・秋山弘子特任教授が取り組むこれからの課題解決法とは

松ヶ枝 優佳/2018.11.30

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ジェロントロジー(老年学)を専門とする東京大学・高齢社会総合研究機構の秋山弘子特任教授。20年にわたる全国高齢者調査などに取り組む。

「人生100年時代」という言葉が象徴する、長寿社会の到来。そして、少子高齢化の波。総務省統計局による最新の調査では、総人口に占める高齢者の割合は28.1%と過去最高となっている。だが、社会制度や住宅などは数十年前から大きく変わっておらず、長寿社会に最適化されているとは言い難い。そのことが、さまざまな社会課題を生み出している。

 この状況を打破するにはオープンイノベーションが不可欠だと話すのは、長寿社会に最適化された社会や人の在り方を研究している、東京大学 高齢社会総合研究機構の秋山弘子特任教授(以下、秋山氏)。秋山氏が進める「鎌倉リビング・ラボ」プロジェクトのような、産学官民が連携できる「場」をつくることの意義を中心に語っていただいた。

定年は「上がり」から「スタートライン」へ

 冒頭で触れた通り、今や日本国民の28.1%が高齢者だ。しかし教育制度や雇用制度など「社会制度」といわれるソフト面、移動手段や住宅のようなハード面どちらのインフラも、今の社会に対応したものにはなっていない。また、人生50年から100年時代への移行により、個人の生き方、ライフデザインもおのずと変わる。事実、秋山氏によれば老後に対する個人の考え方はずいぶんと変化してきているという。

「団塊世代あたりから、定年後のセカンドライフについて考えるようになってきています。数年前、50歳から64歳くらいまでの方(次世代の高齢者)を対象に定年後やりたいことについて調査しましたが、そこで一番多かった回答が“働く”。二番目が“自分を磨く(学ぶ)”でした。定年はセカンドライフのスタートライン、と考える人が増えてきているのですね」

 日本の高齢者の多くは、定年退職後も働き続けたい、現役でありたいと願う傾向にあるという。若い世代に支えられる側に回るのではなく、定年後も支える側の存在でいたい。社会に寄与したい。そう考える人が増えているというのだ。

 医療の発達により、生命としての「平均寿命」や人生を謳歌するための「健康寿命」は延ばすことができた。次に社会人としての「貢献寿命」を延ばそうという向きへと変化してきている。

課題の多さ=イノベーションの宝庫

 人口構成の変化に追いつけない社会の現状が、さまざまな課題を生み出している。しかし、解決すべき課題が多いということは、イノベーションの宝庫ということだと秋山氏は話す。

「日本は長寿社会のフロントランナーです。世界に先駆けてさまざまな問題に対処していかなければなりません。つまり、日本にはモデルとして参考にできる国がないのですね。また、他のアジア圏の国は経済成長と高齢化が同時に進んでいるので、高齢化への対処は後回しにせざるを得ないという事情もあります。そういった意味で、経済的な成長を遂げた後に高齢化が顕在化した日本の取り組みは、アジア圏の国をはじめとして世界中の注目を集めています」

 経済成長と高齢化社会という課題が両立している場合、優先されるのは経済成長だろう。日増しに大きくなる高齢化という社会問題に対処したい気持ちはあるが、下手な手を打っては経済成長を止めることになってしまいかねない。このようなジレンマを抱える国々は、自国の課題を解決する糸口になるのではと、日本の企業や政府による長寿社会への取り組みに興味津々だ。

「長寿社会の課題は非常に広範囲に及ぶ上に、複雑です。そのほとんどが一つの企業の力で解決できるものではありません。オープンイノベーションで分野の異なる企業や大学、行政、そして実際に生活している人と共創していく必要があります」

 高齢化という社会問題に対処するには各企業や団体、生活者が共創してイノベーションを興こす必要がある。そのために用意された開かれた「場」が、秋山氏らが取り組んでいる「鎌倉リビング・ラボ」なのだ。