牛丼が泣いている!?仕事倦怠期に喝!

ここはとあるビジネス街。
ランチタイムが過ぎて、店内にも穏やかなムードが流れてきた昼下がりのすき家。
30代半ば、スーツ姿の男性が遅い昼食を取りにやってきました。

「牛丼、並」
「お待たせいたしました」と9.5秒で運ばれた丼。ろくに見ようともせず箸を伸ばした彼でしたが……。

「泣いておる。泣いておるぞ牛丼が!!」
「な、なんだ君たちは!」
「すき家仙人じゃ」
「そして私は弟子のスキゾー」

「おぬし、悩んでおるな」
「僕が? いや別に」
「喝ッ! いいやワシにはすべてお見通しじゃっ。入社して早10年、ようやく仕事も覚えて責任あるプロジェクトを任されたりちょっとばかり部下なんかもできて本当なら脂の乗った時期でバリバリ仕事が楽しくなっていいはずなのに好きで入ったこの業界でなんか今ひとつ燃えられないっていうかこれが本当に俺のやりたいことだったのかなあ転職するなりキャリアアップするなり考えるならここ数年がふんばりどころなのにな~んかテンションあがんねえんだよなあとりあえず腹減ってるから牛丼でも食べておくかとか思っておったろう」

「長すぎて読みづらい上に牛丼が冷めてしまいます師匠」
「な、なぜそこまでピタリと僕の考えを? しかも牛丼のことまで当たってる」

「このスカポンタン。牛丼の泣く声が聞こえんか? モーモー、モーモーと」
「それは鳴き声でございます師匠」
「牛丼が泣いてる? どういうことです仙人さん?」
「うむ敬語になったな、その調子じゃ。おぬしに足りないのはこれじゃ。スキゾー!」
「は、師匠、ここに」
「これは……すき家のメニューじゃないですか」
「喝ッ! 答はすべてここにある」

すき家のメニューは自由裁量
「ご飯少なめ、肉多め」の牛丼《中盛》は、
肉好き至高の一品なり

牛丼

「おぬし、牛丼をどう頼む?」
「どうって、並、とか、ねぎ玉牛丼大盛おしんこみそ汁、とかでしょう?
他に?」
「喝ッ! それはそれで正しいが喝! おぬしが若い頃あれほど欲しがった自由裁量はそれか? 裁量権が増えるとは頭下げる回数と尻ぬぐいの回数が増えることと思っておろうが。すき家のメニューはフリーダムじゃ。目ン玉かっぽじってここを見るのじゃっ!」
「かっぽじるのは耳でございます師匠」
「これは、サイドメニュー? それが何か? 痛っ」

トッピング

「喝ッ! まだわからんか? すき家の牛丼は初めての人でも楽しめるようにバリエーションメニューを用意してあるんじゃが、その多くは牛丼+トッピングでも再現できるのじゃ。その組み合わせたるやミニからメガまでの6種×玉子×キムチ×青ねぎ×山かけ×高菜明太マヨ×おろしポン酢×…………ええい、無限大じゃっ!」
「計算あきらめましたね師匠」
「喝ッ! 《己の一杯》を見つけること、これすき家の道なり」

「己の、一杯。確かに、僕はせっかく責任が持てるようになったのに、誰かがやったことばかりを真似して、自分なりの道に足を踏み出せていなかったように思う。失敗は禁物とばかり思って」 「失敗せよ。転べん奴が歩けるか? まずは誰も見たことのない牛丼を目指すのじゃ」

牛丼

「はい仙人! 本当は僕は肉がたっぷり食べたいです!」
「ならば、こうじゃっ」
「仙人!? ああっ! 僕の牛丼を食べちゃった」

「細かいことをいうな、うまかったぞ。さ、この新メニューを見よ!」
「牛丼・中盛? これは何です?」
「このスキゾーが説明しましょう。えへん!中盛とは、肉が並盛のなんと6割増し!
一方ごはんは少なめで、肉をがっつり食べられるのに総カロリーは並と60kcalしか変わらないという、肉好きには実にお得なメニューなのです」

「うむ、たっぷりの肉のおかげでトッピングのベースにもぴったりなのじゃ」
「それ行きます! それから仙人、僕は辛いのも好きです!」
「となるとキムチかコチュジャンだれ、あるいは1辛から3辛を選べる辛口だれもよいな」
「では辛口だれ・2辛で! さらにおろしポン酢に青ねぎ、納豆入れてもいいですか?」
「訊くな、おぬしの一杯じゃ。好きなものを好きなだけ入れよ。ただし失敗しても残すでないぞ」
「オーダー入れました師匠!」

「さ、これがどこにもない、おぬしだけの一杯じゃ」
「こ、これが僕の、ねぎ納豆おろしポン酢ピリ辛中盛オレスペシャル・バージョン1、なんですね!」
「師匠、案外この人調子のっちゃうタイプですね」

「仙人! 肉すごいです! たっくさんの肉にたっぷりの青ねぎ、シャキシャキ感がまた絶妙で。それでカレー用と思っていた辛口だれが意外にも牛丼に合う! 効く! でもおろしポン酢と納豆のおかげでいい感じにマイルドになって、後口もさっぱりと食べられます! うまっ! 辛っ! 今度はごはん大盛でバージョン2にチャレンジしてみます。た、玉子も入れちゃおうかな」

「うむ、まずは成功のようじゃな。心次第でただ腹に入れるものにも、他にはない極上の一杯にもなる。それが自由じゃ!
牛丼……それは心の小宇宙」
「それ前回やりました師匠」
「牛丼……それは最後のフロンティア」

仙人

「大げさです師匠」
「仙人! 牛丼も仕事も同じだったんですね! 心の声に耳を傾けて自由に足を踏み出す。失敗したら、また立ち上がればいい! これまでの僕は、柵のない平原なのに、うつむいてただ誰かの足跡をたどって歩くだけだった! だから熱くなれなかったんだ! ありがとう、すき家仙人! ……仙人?」

「もう大丈夫じゃな。スキゾー、ワシはさらなる修行に出るぞ」
「どこまでもお供します、師匠」
「うむ。今や海外にもすき家はある。まだ見ぬ国にも助けを求める者がおるはずじゃっ」
「行きましょう師匠! 広めましょう牛丼! まずはどこへ?」
「世界の果てへじゃっ!」
「いざ~」

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