イギリス・グラスゴーで開かれていた国連の気候変動枠組みを決める「第26回締約国会議(COP26)」は2021年11月13日、世界の平均気温の上昇を1.5度に抑える努力を追求するという成果文書を採択して閉幕した。二酸化炭素と並ぶ抑制のカギを握るのがメタンガスだが、牛の飼育などで多く排出されることがわかっている。また、気候変動が続けば食料危機がやってくると言われる。これらの救世主になり得るのが代替肉で、環境、食料危機、健康といった地球規模の課題を解決する大きな役割を担う可能性を秘めている。
植物由来の代替肉、肉由来の培養肉
代替肉とは、大豆を中心に作られる植物由来の肉で、「大豆ミート」とも言われる。主に脱脂大豆を加熱加圧し(小麦やえんどう豆などもある)、栄養価をアップさせ、攪拌させることで肉のような食感や繊維質を再現している。海外では「フェイクミート」、「オルタナティブミート」などとも呼ばれる。
一方、牛や豚、鶏などの動物の幹細胞を培養して作るのが「培養肉」である。2021年1月にシンガポールの会員制レストランで培養肉のチキンナゲットが、世界で初めて販売された。
最近、なぜここまで代替肉が注目を浴びているのか。例えば、新型コロナウィルス感染拡大の影響で、感染症のクラスターが発生したことにより工場の稼働が止まり、それに伴う価格上昇が家計にダメージを与えたことや、コロナによって世界中の物流網が寸断されたことはその一因である。植物由来の代替肉は自国で作りやすいため、サプライチェーンの寸断による供給不足を回避できるというわけだ。
また、経済産業省は「健康経営優良法人認証制度」を創設し、健康が企業経営にも影響を与えることを標榜している。代替肉にはコレステロールがほとんど含まれておらず、カロリーも低いことから、健康意識の高いビジネスパーソンからの注目も高まっている。
代替肉が普及するメリットとは?
代替肉の利点は、地球環境への負荷軽減である。環境省によると、1kgのトウモロコシの生産には、灌漑用水として1800Lの水が必要で、牛はこの穀物を大量消費して育つことから、牛肉1キロ生産するにはその2万倍の水が必要としている。また、牛のおならやげっぷは二酸化炭素の20~25倍の温室効果がある言われるメタンを大量に放出。その量は二酸化炭素に換算すると20億トンにも達する。
代替肉がより普及すれば水不足の解消と地球温暖化を軽減させることに繋がるのだ。
また、国連の予測によると地球上の人口は2019年の約77億人から2030年には約85億人、2050年には約97億人に達すると試算。従来の畜産のやり方では今後、十分に食肉を供給できないが、代替肉が市場に広まれば食料危機の一助になることは間違いない。
さらに、植物由来で、食感や味などが本物の肉と似ていることからビーガン(完全菜食主義者)からも支持されている。
一般にも広がり始めた代用肉と安全性
事実、代替肉は一般にも徐々に広まりつつある。米ハンバーガーチェーン大手は2021年11月3日からアメリカ国内8店舗で代替肉をつかったハンバーガーの販売を期間限定で始めた。日本の有名ハンバーガーチェーンも、代替肉をつかったハンバーガーを2020年5月に販売したほか、別のハンバーガーチェーン店でも同年9月に熊本のスタートアップが開発したものを販売した。
また、大手食品会社も将来性を見込んで代替肉市場に参入した。大豆を利用したハム、カレー、から揚げなどを販売している。進化はとまらず、担々麺、中華まんなど料理の幅も広がってきており、食べる楽しみもさらに増えてきた。
日本人が懸念するのは安全性の問題だが、代替肉が植物由来というのは安心材料である。前述のように多くの企業が販売していることからもわかるように、一定の安全性が担保されていると考えてよいだろう。アメリカの代替肉起業インポッシブルフーズは、同社の製品が食品医薬品局(FDA)から安全性に問題はないとの見解を示す通知を受け取っている。
食品偽装は日本では大きなニュースになるほど消費者が敏感であり、安全性が担保されないと分かると売れなくなる確率は高くなる。そのような背景から、各企業は日本市場において安全性の高い代替肉を作らざるを得ないと言えるだろう。
いずれにせよ、日本人はまだ代替肉について詳しい知識を持っているとは言いがたい状況だ。対策の一つとして、企業が代替肉について丁寧な説明をしていけば、消費者に受け入れられ、より普及していることが考えられる。
食の可能性を広げるフードテックと代替肉の未来
代替肉を作るには「フードテック」と呼ばれる技術が欠かせない。「フード=食」と「テクノロジー=技術」を合わせた造語のことで、代替肉の製造、調理、物流分野においてIT技術すらも利用したりする。農林水産省も「フードテック官民協議会」を立ち上げ、起業支援のほか、海外展開をしたい企業に対しては最大で4000万円の補助金を支給するなどし、本格的に事業支援を後押しする。
このようなテクノロジーが進めば、ステーキ店や焼き鳥店といった専門店でも代替肉が十分使えるレベルにまで進化する可能性がある。すでに香港のフードテック企業はオムニポークという豚肉の代替肉を開発。2020年から日本でも販売するなどしている。
矢野経済研究所は2020年の代替肉と培養肉の世界の市場規模について、2020年は2573億円だが2030年には1兆8723億円にまで拡大するとしており、フードテックを駆使して代替肉が美味しくなればなるほど、その可能性は大きく広がっていく。
無論、代替肉にも課題はある。大量生産によるコスト削減効果までは至っておらず、一般の肉と比べて高値であり、また、代替肉が普及すれば畜産農家のほか精肉業界も影響を受ける可能性がある。従来の食肉と代替肉双方にメリット、デメリットが存在するため、従来の食肉も完全になくなるということはないだろうが、上述の通り、代替肉は、地球や人間社会が抱える課題の多くを解決するものとして大きなポテンシャルを秘めている。もし種々の課題が解決できれば、もう1つの大きな選択肢となるという流れは日本を含め世界にできつつあると言えそうだ。