Healthcare&Medical

羽毛布団や衣類にも?身近な“鳥“が原因で発症する「鳥関連過敏性肺炎」とは

東京科学大学 呼吸器内科 白井先生に聞く、原因や症状と適切な対策

肺炎と聞くと、誤嚥性肺炎や、新型コロナウイルスによる肺炎を思い浮かべるだろう。ところが、空気中の微粒子を吸い込み、吸入した物質に対してアレルギー反応が起こり発症する肺炎もあるという。このアレルギーによる肺炎を「過敏性肺炎(かびんせいはいえん)」といい、羽毛など鳥由来の物質が原因として多く報告されている(鳥関連過敏性肺炎)。鳥関連過敏性肺炎の原因や症状、検査方法、治療について、専門医に話を伺った。

アレルギー物質を長年吸い込んで起きる「過敏性肺炎」

肺炎とは文字通り、肺で炎症が起きることだ。細菌やウイルスなどの病原体が感染して肺炎になることは、多くの人が知っていることだろう。

しかし、病原体の感染が原因ではない肺炎もある。肺胞を支える組織である間質で炎症が起きる「間質性肺炎(かんしつせいはいえん)」のうち、アレルギーが原因のものを「過敏性肺炎(かびんせいはいえん)」という。

東京科学大学 呼吸器内科の白井剛先生は、「過敏性肺炎は病気のタイプが二つに分けられ、急性と慢性があります。急性過敏性肺炎は、原因物質(抗原)を多量に吸い込んだときに起きるもので、急な発熱や息切れなど強い自覚症状が現れます。一方、慢性過敏性肺炎は少量の抗原を反復持続的に吸い込んだ結果、肺の壁が硬くなる『線維化』が起きるのが特徴です。症状としては、息切れや長引く咳などがありますが、慢性の場合、病初期は自覚症状に乏しく、診断が遅れることもあります」と話す。

過敏性肺炎は医療関係者の中でも近年注目され始めたもの。一般の医療機関では、間質性肺炎のうち特発性肺線維症(とくはつせいはいせんいしょう)との区別が難しい。2022年に日本呼吸器学会から国内向けの診療指針が作成されたばかりであり、専門とする医師は少ない。2024年8月、東京科学大学の宮崎泰成教授と岡本師准教授らの研究グループの調査により、日本には約1万人の過敏性肺炎の患者がいると推定されている1)2)

慢性過敏性肺炎は放置すると命に関わる病気であると、白井先生は警告する。「慢性過敏性肺炎は抗原の吸入を繰り返すと肺の線維化が進行し、徐々に肺活量が低下します。軽いうちは階段や坂道を上ったときに息切れをする程度ですが、進行すると息切れが強くなり、トイレに行くなどわずかな労作にも病気の影響が出ます。酸素の不足が慢性化すると、日常生活で酸素ボンベの携帯が必要となることもあり、生活の質(QOL)も下がります。残念ながら、進行が抑えられず、亡くなってしまう方もいらっしゃいます」(白井先生)

東京科学大学 呼吸器内科 白井 剛先生

慢性過敏性肺炎の原因の6割は鳥

2000年から2009年にかけて全国規模での調査が実施され、慢性過敏性肺炎の原因抗原として最も多いのは鳥であり、約6割を占めると報告された3)

鳥抗原が原因の過敏性肺炎を「鳥関連過敏性肺炎(とりかんれんかびんせいはいえん)」と呼び、インコや文鳥などの鳥を飼育しているだけでなく、庭やベランダへの鳥飛来や近くの公園にやってくる野鳥が原因になることもある。白井先生は、「自宅から500メートルほど離れたところにある神社に野鳥が多く生息しており、そこから抗原が風に乗って家の中に入り発症した、という患者さんもいました」と、例を挙げる。

鳥抗原は、生きた鳥だけが運ぶとは限らない。羽毛布団やダウンジャケットなどの羽毛製品にも鳥抗原は存在している。「家庭菜園で使うことがある鶏糞肥料にも鳥抗原が含まれており、利用する際に吸入し発症することもあります。」(白井先生)

もちろん、鳥抗原を吸い込んだからといって全員が鳥関連過敏性肺炎になるわけではない。個人の体質や感受性の違いによって発症のしやすさが変わるようだ。ただ、どのような体質だと過敏性肺炎になりやすいか、具体的なことはわかっていないという。

まずは原因抗原の特定―抗体検査と問診が重要に

白井先生は、「軽い運動や坂道・階段を上ったりしたときなどに、同年代の健康な方より息切れがしやすいと感じたら、かかりつけ医や呼吸器内科を受診してほしい」と呼びかける。また、健康診断で発見されることもあり、定期的に受けることが大事であると話す。こうした場合、最初は間質性肺炎と診断され、過敏性肺炎が疑われる場合は専門医に紹介されることが多い。

過敏性肺炎かどうか判断する方法には、胸部高分解能CT(HRCT)、気管支肺胞洗浄検査、血液検査、生活環境の問診などがある。白井先生は、「HRCTの画像所見で過敏性肺炎に特徴的な所見がないか詳しく評価します。気管支肺胞洗浄検査というのは、気管支鏡を介して肺の中に生理食塩水を注入してから回収し、そこに含まれる細胞や成分を調べる検査です」と話す。

そして、過敏性肺炎かどうかの診断だけでなく、原因となる抗原の種類を特定する上で重要なのが血液検査と問診だ。過敏性肺炎はアレルギーが原因なので、抗原に特異的に反応する「特異抗体」が血液中に存在するはずである。現在、保険が適用できる特異抗体の検査には、鳥特異的lgG抗体と、慢性過敏性肺炎では一番多く、慢性過敏性肺炎の原因抗原として2番目に多いトリコスポロン・アサヒという真菌(カビ)の抗体の2つがある。

また、生活環境の問診も重要だと、白井先生は強調する。「鳥関連過敏性肺炎が疑われる場合、持続的に鳥抗原を吸い込む環境にあるか、問診票と聞き取りから確認します。羽毛布団やダウンジャケットなどの羽毛製品が自宅にあるか、鳥を飼育しているか、庭やベランダに鳥のフンが落ちていないか、近所に公園、神社、河川、畑など鳥が集まる環境はないか、また趣味や職業についても詳しく聞きます」。(白井先生)

東京科学大学 抗原問診票のサンプル

受診するときには、医師に自宅や周囲の環境、季節による症状の変化、生活習慣、趣味、ペットを飼育しているかなど、ぜひオープンに話してほしいと、白井先生は言う。「例えば、冬にかけて羽毛布団やダウンジャケットを使うシーズンで症状がひどくなる場合には、原因抗原が鳥である可能性が高いと考えます。鳥抗原を含むものは世の中に多くありますので、原因を絞り込むためにも、できるだけ詳しく話していただけると助かります」(白井先生)

HRCT、気管支肺胞洗浄検査、血液検査、問診などの結果をもとに、過敏性肺炎かどうかを診断する。場合によっては約2週間入院して、症状が治まれば何らかのアレルギーが原因だと判断することもあるという。

原因抗原を除去することが症状改善や死亡リスク低減につながる

現時点で特発性肺線維症を根本的に完治させる方法はみつかっていない。肺の線維化を遅らせる抗線維化薬があるものの、副作用として食欲不振などが起きることがあり、慎重に検討が必要である。一方、慢性過敏性肺炎は抗原をみつけて除去や回避ができれば病気の進行を抑えられる期待がある。

白井先生は、「過敏性肺炎の治療で重要なことは、原因抗原を除去・回避することです。鳥が原因であるとわかったなら、自宅にある羽毛布団やダウンジャケットなどの羽毛製品をすべて処分してもらいます。患者ご自身のものだけでなく、同居する家族全員分です。庭に野鳥が来る木が植えてあるなら伐採します。近くに緑豊かな公園や神社がある場合には、換気を最小限にとどめてもらいます。その上で、室内に残る鳥抗原を除去するために空気清浄機を設置するように指導しています」と、抗原の除去が基本的な治療方針であると話す。

抗原を除去することで、症状が改善することは多いという。「自宅から抗原を除去したり、あるいは入院して抗原から回避したりするだけで肺活量が回復し、息苦しさが軽くなることも多くあります」(白井先生)

さらに、抗原回避によって死亡リスクも大きく下げられることがわかっている。海外の研究では、慢性過敏性肺炎で原因抗原が不明だった場合に診断後の生存期間の中央値が9.3年だったのに対して、原因抗原が特定できた場合は18.2年と、生存期間が大きく延びたとのことだ4)

過敏性肺炎を根本的に治療することはできないものの、原因抗原を特定して適切な対策をとれば症状を抑えられると期待できる。諦めることなく、まずは医療機関を受診して、保険適用となっている検査などを受けながら、医師とともに原因を突き止めていただきたい。

参考文献

関連記事

Back to top