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その咳や息苦しさは喘息かも?
「特異的IgE検査」をもとに適切な治療を受けるために

喘息といえば子どもの病気、と思われるかもしれない。しかし実際には大人でも喘息に悩まされている人は決して少なくない。喘息にはアレルギーが原因となっているものもあり、血液検査によって喘息悪化の原因物質が分かれば、人によっては有効な対策を取ることができるようになる。喘息の特徴や検査方法、治療法などを解説する。

喘息は全世代に共通する病気

喘息とは、気道や気管支が細くなって呼吸が苦しくなり、息をするときにゼーゼー、ヒューヒューという音がする(喘鳴)、ひどく咳き込む、痰がからむといった症状が普段からあるだけでなく、発作的に現れる疾患である。喘息の患者では、健康な人と比べて気道に炎症が起きていたり、粘膜がむくんでいたりしているため、気道が狭くなり空気が通りにくくなっている。また、気道の表面を覆う気道上皮がはがれ落ちていて、刺激に敏感になっている。そこに、ホコリや化学物質などの刺激が加わると炎症がさらに悪化し、気道の周囲にある平滑筋が縮むことで気道が狭くなり、喘息の症状が現れる。

帝京大学ちば総合医療センター内科(呼吸器)の山口正雄先生は、「普段は生活に支障のない患者さんもいますが、悪化すると、夜間に息苦しくて眠れない、咳が続いて仕事に行けないなど、日常生活に影響が出る患者さんもいます。症状が重い場合には入院することもあります」と話す。

帝京大学ちば総合医療センター内科(呼吸器)教授 山口正雄先生

喘息といえば子どもに多い印象があるかもしれない。実際、小児の7%は喘息1)と診断されている。その一方で、成人の4%も喘息と診断されており1)、日本では子どもから成人まで合わせて推計で400~500万人の喘息患者がいる。山口先生は、「比率でいえば子どもに多いのは確かですが、80代になって初めて喘息と診断される人もいます。すべての年代にあり得る病気です」と話す。

喘息を放置すると、炎症がどんどん悪化し、さらに気道の壁が厚く、硬くなったりする「リモデリング」という現象が起きて症状が重くなり、日常生活に大きな支障をきたす。最悪の場合には気道が閉じてしまい、死に至ることもある。1990年代には年間で約5000〜6000人が亡くなっていたが、吸入ステロイド薬や気管支拡張薬などの治療法が進歩したため、2020年の死者数は1500人を切るまで減少している2)。それでも無視できない数字だろう。

山口先生は、「夜中や早朝に息苦しさや咳がある、運動した後の息切れが強い場合、風邪を引いた後も咳が長引く場合は喘息の可能性があるので、呼吸器内科やアレルギー科を受診することをおすすめします」と呼びかける。

喘息は、これ一つを満たせば喘息という診断基準があるわけではないので、症状や治療薬による反応と検査を組み合わせて判断することになる。山口先生の施設では、患者さんによって対応は異なるものの、症状を確認した上で気管支拡張薬を投与して症状が改善すれば、喘息の可能性が高いとみなし、環境や家族の病気の情報、呼気検査や肺機能検査も参考にして診断している。ただ、心不全や気胸、肺炎、主に喫煙によって起こる慢性閉塞性肺疾患(COPD)でも息苦しさを感じることがあるため、血液検査、心電図検査やレントゲン撮影、肺機能検査などを行って他の病気の可能性を探るようにしているとのことだ。

血液検査で喘息の原因物質を特定できる

喘息は、アレルギー性鼻炎やアレルギー性皮膚炎と同じように主にアレルギー性疾患と考えられている。アレルギーを引き起こす原因物質であるアレルゲンを吸入して症状が現れる喘息をアトピー型喘息という。

小児喘息のほとんどはアトピー型喘息で、成人になると年齢が高くなるにつれその割合は減少していくものの、40歳代でも8割以上、70歳代でも5割以上がアトピー型喘息であることが報告されている3,4)。アトピー型喘息のアレルゲンとして多いのは、家の中にいるダニの大半を占めるヒョウヒダニ(チリダニ)であり、他にも花粉、カビやペット、ゴキブリやガなどの昆虫などがある。そのため、問診では、いつ症状が出たかということが、アトピー型喘息のアレルゲンを推測する上で重要な情報となる。例えば、ペットを飼い始めた、家を掃除してホコリが舞っていたとき、などが考えられるため、居住環境やペットの有無についても質問する。ときには、気道に吸引された小麦粉が気道に炎症を起こして喘息の原因になることもあるため、職業や職場についても確認するという。アトピー体質は遺伝性であり、家族のアレルギー性疾患についても確認している。

アトピー型喘息を引き起こす原因の診断に参考となる検査が、血液を使った「IgE検査」というものだ。IgEとは免疫グロブリンの一種で、アレルゲンを認識してアレルギー反応を引き起こす抗体である。山口先生の施設では初診の血液検査で、いわゆるアレルギー体質か推定するため総IgEと、特定のアレルゲンのみに反応する特異的IgEの値を調べる。

「喘息診療実践ガイドライン2023」5)では、主要アレルゲンとして12項目、追加候補アレルゲンとして10項目を挙げている。保険診療では、特異的IgE抗体を1回に13項目まで測定できるため、患者の問診の中でアレルゲン候補を絞っていくつかの特異的IgE抗体を調べることになる。また、同時多項目検査という検査では、保険診療の範囲内であらかじめセットになった約40項目を測定できるものもある。山口先生によると、患者さんとの話し合いの中で、どの項目を調べるか、どちらの検査にするかを決めるという。

<主要アレルゲン(12項目)>
ヤケヒョウヒダニ、スギ、カモガヤ、ブタクサ、ヨモギ、アスペルギルス、アルテルナリア、トリコフィトン、イヌ、ネコ、ゴキブリ、ガ

<追加候補アレルゲン(10項目)>
コナヒョウヒダニ、ヒノキ、ハンノキ、ギョウギシバ、オオアワガエリ、ペニシリウム、カンジダ、ウサギ、げっ歯類(ハムスターなど)、ユスリカ

原因がわかれば日常的な暴露を避けられる

血液検査の結果は数日後に出るので、採血した次の診察で結果を説明しながら、今後の対応を考えることになる。ハウスダストに多く含まれるヒョウヒダニであれば、家の床をカーペットからフローリングに変える、掃除をこまめにする、布団を清潔に保つ、毛布は防ダニ加工されたものを使う、などの対策がある。ペットのイヌが原因の場合、家の掃除をこまめにしつつ、自分でイヌを洗わない、接する時間を減らし一緒に寝ない、などが現実的な対策となる。カビ対策としては、水回りを清潔にする、エアコンのフィルターを掃除する、観葉植物を置かない(土にカビが繁殖しやすいため)が挙げられる。

また、自分と家族や周囲の人の禁煙、十分な睡眠、疲労を溜め込まないといった生活習慣の改善も、喘息の悪化防止に有効とされている。こうした対策をとりながら、気道の炎症を鎮静化する吸入ステロイド薬や気管支拡張薬などを使用して治療を続けることになる。山口先生は、「喘息を悪化させる要因には複数あるので、対策を1つだけすればよいというわけでなく、いくつかの対策を組み合わせるのがよいとされています」と話す。

特異的IgE検査によってアレルゲンを特定できる可能性があるので検査は有用ではあるものの、現在は有効性の高い薬が登場しており、アレルゲンを回避しなくてもある程度症状を抑えることが可能になっている。それでも、アレルゲン暴露を減らすことは治療の基本でありアレルゲンを知るためには特異的IgE検査が必要になると、山口先生は考えている。

「ダニやペット、そして職場で暴露される物質にアレルギー反応がある喘息では、日常生活の中で常にアレルゲンにさらされていることになります。すると、気道の炎症が継続的なものになってしまい、症状が常に生じやすいだけでなく気道の壁が固くなるリモデリングによって吸入ステロイド薬や気管支拡張薬が効きにくくなります。それを防ぐためには、アレルゲンを特定して避けることが必要になります。原因アレルゲンを特定できれば専門医として適切な指導をすることができるので、専門医にとって特異的IgE検査はとても重要ですし、ひいてはそれが患者さんのためになります」(山口先生)

専門医の診療を受けることで喘息の原因が特定でき、適切な治療を受けられることが期待できる。喘息かな、と思ったら呼吸器内科やアレルギー科を受診していただきたい。

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アレルギーに関する情報はサーモフィッシャーサイエンティフィックのウェブサイト
「みんなのアレルギー情報室」喘息ページへ

参考文献

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