継続的なデータドリブン経営に必要な
データガバナンスとは

2022.1.26

 データドリブン経営を推進するにあたって忘れてはならないのがデータガバナンスだ。データを利活用するための枠組みを策定し、継続的に全社で運用・維持するための「要」だ。DXで成功している企業は、データガバナンスを中枢としたデータマネジメントに取り組んでいる。実際の事例をベースに、そのポイントをインフォマティカ・ジャパンの森本卓也氏に聞く。

データガバナンスとは

 データガバナンスとは攻めのデータ利活用と守りのデータ保護を両立し、企業内の誰もが安心安全に、データの利活用をリアルなビジネス上の変革につなげていくための中枢となる考え方のこと。

図1:データガバナンスはデータマネジメント全体のフレームの中心として位置づけられる

 図1はデータマネジメントのバイブルである「DMBOK2」で定義されているデータマネジメントの知識領域だ。データマネジメントの各知識領域から構成された「DAMAホイール図」があり、その中心にデータガバナンスが配置されている。この中で、データガバナンスは、データマネジメントの各要素を制御・統括する存在のように描かれている。

 ただ、これは包括的な体系で、データマネジメントとデータガバナンスとの関係が少々イメージしにくいため、インフォマティカではこれを図2のように読み替えて提示している。データ統合基盤の構築やメタデータ管理、品質管理、マスターデータ管理、プライバシーおよびデータアクセスの管理、標準データモデルの作成といったデータマネジメントを、「全社規模で継続的に維持」していこうとした際に、これらのマネジメントにセットで必要になる取り組みがデータガバナンスということになる。

図2:データガバナンス課題と施策のまとめ

 このとき、データガバナンスの重要性は次のように考えられる。たとえば全社規模でデータの品質を改善しようとしたときに誰かが問題を発見したとする。ガバナンスの無い状態では、この問題をどのように解決するのかが属人的で人任せとなる。この問題を確実に解決し、データ品質を継続的に維持していくためには、どういうプロセスを回すことでそれを解決するのか、誰が責任をもって対処するのか等、問題発生に対する解決のフローを準備しておく必要がある。そういった取り組みを推進していくためにはデータリテラシーを高め、会社規模での役割を明確化した組織的な仕組みづくりとプロセスの整備は不可欠だ。そうした体制づくりの元になるのがデータガバナンスだ。

森本小さな組織内でデータを取り扱う限り、このような問題は発生しません。なぜならば、組織内の知り合い同士のコミュニケーションで解決できてしまうためです。一方、全社規模の場合はその限りではありません。問題が見つけられたとしても、誰も解決に導かなければ、結局放置されてしまいます。リテラシーと組織の体制づくり、それをセットで推進することで、継続的にデータを使える状態を全体に提示できるようになる。近年、全社規模でのデータドリブンなDXを推進するため、この体制づくりに多くの企業が邁進しています。

 以降では、いくつかの事例でデータガバナンスの取組みについて見ていこう。

攻めのデータ利活用、
データリテラシーをいかに醸成するか

 最初にある製造業での事例を見てみよう。この企業では、従来各事業部でデータを活用したいとなったら、まずIT部門に依頼を行い、それをもとにIT部門が着手するという流れだった。たとえば、事業部から「過去の売上データと天気予報の掛け合わせから、季節の需要予測が欲しい」と言われたら、必要なデータを集めて変換し、需要予測を可能にするAIや機械学習アプリケーションの開発をしていく。最終的に見えてくるものを検証し、事業部の望むイメージ通りの成果がだせるようであればそのまま業務に組み込むという形だ。しかし当然、実は地域や店舗別の予測結果が欲しかった、時間帯別の分析をしたかった等、少しでもイメージと違うとなるとIT部門への手戻りが発生してしまう。場合によってはIT部門が忙しくて作業に着手するまで数ヶ月も要したり、アイデアが出てからビジネスに反映するまでに2、3ヶ月ないしはそれ以上かかってしまったりという状況にもなる場合も少なくなかった。

森本これでは、みんなでデータを使っていこうという流れにするのは難しいですよね。この製造業のお客様では、基本的には事業部側で必要なデータを見つけてきて、分析したものからインサイトを得て、対策を打つところまで、基本的にセルフサービスでできるのがベストと考えていました。

 ツールに関していえば、非エンジニアであっても簡単に使えるTableauなどのBIツールが出てきているので、それらを使うことでデータ分析のハードルを下げることはできる。ただ、肝心なのは必要なデータを発見して手元に揃えないと何もできないということだ。そのため同社のIT部門は、自社のデータの中からニーズのありそうなものを予めデータレイクなどにためておき、使いやすいように標準化して整えておく。更に、データを誰もがセルフサービスで簡単に発見・理解できるようにデータカタログを整備した。それによって、事業部側が自分でデータを探しにいって、使ってみるという流れを作ることを目指したのだ。実際、セルフサービスで思い立ったらすぐに自分たちで対策が取れる形を整え、最短3日でPDCAのサイクルを回せることに目指し、体制づくりの取り組みを進めているという。

 全社的にデータのリテラシーを高めながら、あらゆる事業部の人たちが継続的にデータを使っていくという、データの「民主化」を目指している取組みと言える。

攻めと守りの両立、
データの透明性をいかに担保するか

 次に、データの透明性について、某通信会社の事例をもとに考察してみる。通信会社と言えば、やはりデータを使って効率的かつ魅力的なサービスを展開するかという点においては、従来からかなりの知見と経験を持っていた。その中で今後部門や会社横断的な、全社規模でのデジタル戦略を推進していく上で、この会社が着目したのはメタデータの扱いだった。リテラシーがあるだけに、積極的にデータを利活用しようとする社員が増えてきている。しかし今度は、はたして会社として放任でデータを使わせてしまっていいのか、という課題が持ち上がる。いつかどこかで、誰かがデータを誤った目的、ないしは外部の規制に違反する形で使ってしまうというような事故が起きてしまうのではないか。この会社ではトップが危機感をおぼえ、対策に乗り出すことになった。

森本この会社の場合は、データを利活用するリテラシーが社内にあっても、全社で標準化されたルールづけの部分が弱いことが1つの課題でした。みんながデータを使っていこうというボトムアップの動きは理想的です。しかし、データを実際に使う立場の人にはいろいろな組織の人がいます。データを提供する側の人もいれば、データを使って分析をする人も、分析された結果を使って意思決定をする人もいます。また、データの利用目的を法務的にレビューするという立場の人がいます。そういう様々な方が関わるデータですから、蓄積・使用にあたっての透明性を担保しルールを整備するのは、会社として全体最適化の目線で検討すべき部分です。

 どういうデータがあって、そのデータのオーナーは誰か。誰が責任をもってマネジメントをしているのか。データの品質はきちんと管理できているのか。このデータを使う上で遵守しなければならないプライバシーポリシーは何かなど、個々のデータの内容まで含めて理解し、コントロールしていかなければならない。それには、適切なレビュープロセスやルールを整え、万が一事故が起きた場合でも事後に調査ができるよう透明性を維持していくことが重要になるということ。それが結果としてデータを間違った方向に使ってしまうことを防ぐことにもつながる。

 つまり、データそのものだけではなく攻めのデータ利活用をビジネスに組み込み、可視化をしていくことがまず前提としてあり、そこに寄り添う形でデータを保護するための仕組みを作る、そして誰もが安心安全に継続してデータから価値を得られる環境が作られる。この会社では、図3のようなフローを作り、組織やレビュープロセスを整備していった。

図3:データライフサイクル全体のレビュープロセスの例(ある通信会社の事例)

 こうしたフローをもとに、レビューの結果やすべての足跡をしっかり残すことによって透明性を担保していく。もちろん実行するには組織論が極めて重要になってくる。さらには、一社だけの問題ではなく、親会社、関連するグループ会社、外部の提携会社など複数のステークホルダーを巻き込みながら環境整備を進めていく必要がある。実際には、現場にプロジェクトチームを設け、データ利活用の基準づくりが行われている。

森本そもそも何を確認したら隣の部門の人にデータを公開してOKなのかという基準に関しても曖昧なままだったのです。誰もがわかる基準として明確に定義をし、誰もが統一された基準でしっかりレビューを回しながらデータを安全に利活用することができる。そういった組織を作るという要素と、さらには組織がどういう契約関係にあるか、そこまで含めて加味することが、安全安心にデータを使っていく上では非常に重要であると、この会社では気づいて、今まさにそこに取り組んでいるという状態です。

 データの透明性を担保しながら、攻めと守りの両方の観点でのリテラシーも高めていく、さらにはデータの使い方に配慮した組織的な対策へと進んでいく。この会社の場合、インフォマティカと約一年間、議論を重ねて行き着いた結論だった。データ利活用といったとき、データをいかに自社のビジネスに役立てるか、データをどう収集し、分析していくかに関心が集中してしまいがちである。しかし、実際にビジネスの中でデータを使っていく段階の先には、こうしたデータ保護との両立の課題があるということに留意しておくべきだろう。

攻めと守りを支える管理、
データの品質をいかに確保するか

 データの品質という観点でもやはりガバナンスが重要になってくる。全社的なデータの利活用という取り組みを考えたとき、従来の事業部単位でのデータの見方だけではなくて、事業横断的な、全社的なデータの見方をしていく必要がある。たとえば製造業の某企業の場合、ウェアラブル事業、ロボティクス事業など、事業部単位の個別システムの中で、個別の標準を決めてデータの品質を管理していた。各事業部で独立してデータ分析する分には問題はなかったが、いざ全社的なデータ利活用の取り組みをしようとすると、スムーズには進まない。

 どの仕入先の人たちが自社に貢献してくれているのか把握するにも、それぞれのシステムで「取引先」と「得意先」のように用語が違っていたり、異なるコードで管理されていたりすると同一の仕入先を同じ会社だと特定して見ることができない。そうしたことを改善しようとするには全社で統一的なデータ品質表示を決めて、マスターデータのコード体系や用語も含めて標準化していくことが必要になる。

森本このとき重要なのは、データ品質の確保の先でどのようなビジネス上の価値に貢献しているのかを全社員の共通の理解にすることです。データの品質を上げていくという活動はそれだけを見ると非常に地味な活動で、生産的な活動と見なされません。数年後にたとえば事業部長が変わってしまうと、品質担保の活動の必要性が理解されず、業務としての継続性が途切れてしまう可能性が出てきます。この業務は本当に必要なのか、と。

 それらのデータがどの業務で使われているのか、その業務の効率化にどのように貢献しているのか、を広い視点で見ることができるよう、可視化して誰もが理解できるようにする。そうすることで、データの品質を整えるという業務の重要性にみんなが気づき、将来に渡り全社横断で信頼できるデータを利活用し続けられる環境が整うのです。そういった考え方も継続的なデータの利活用としては重要になると思います。

 データガバナンスの取り組みは、システムやツールを導入したり、アプリケーションを開発したりするような一過性のプロジェクトとは異なる。全社レベルで将来に渡って誰もが安心安全でデータドリブンなビジネスを実現していく、企業文化を変革していく旅路のようなものである。これを成功させるためには、データを使ってどのようなビジネス変革を遂げたいのかを明確にし、関係するあらゆる事業部門を巻き込むことが必要不可欠である。そのためには、従来型の分け隔てられた事業部とIT部門の壁を破壊し、恒常的で有機的に機能するアジャイルなコラボレーションをいかに作るかが鍵となる。このデータガバナンスの旅路の中で、もし今後の行き先に迷うようであれば、豊富なデータガバナンス経験を持つインフォマティカに相談してみることをお薦めする。

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