データ活用に成功する企業と
失敗する企業。
何が明暗を分けるのか
~重要なのは、データを活用し
継続的に改善できる環境づくり~

2021.11.10

 データ活用が企業経営・戦略立案に欠かせないと言わるようになって久しい。多くの企業が取り組みを進めているが、データ活用に成功している企業がある一方で、残念ながら失敗している企業も少なくないようだ。その理由はどこにあるのか。三井住友カードの専務執行役員としてシステム部門を統括し現在はアクセンチュアの特別顧問を務める森陽一氏と、同社で多くの企業にコンサルティングを行っている三原哲氏にその真意を聞いた。

企業におけるデータ活用の
重要性がますます高まる

アクセンチュア株式会社
特別顧問
金融サービス本部
森 陽一

データを経営資産にすべきという声が増えています。その潮流はどのように起きたのでしょうか。

大きな要因は、テクノロジーの進化によって、膨大なデータを蓄積できるデータレイクが活用できるようになったこととAI(人工知能)による高度なデータ分析が行えるようになり、その結果を将来のマーケット戦略の策定や具体的な顧客へのマーケティング活動に活かしたりすることができるようになってきたことだと思います。また、データを扱える部署がシステム部門だけでなく、ビジネス部門にも広がってきているのも要因の一つです。更に、データ取得の範囲が広がり、基幹業務システムのデータだけでなく天気予報や全地球測位システム(GPS)などの外部データをも取り込めるようになりました。このようにデータ取得の範囲が広がり、かつデータ分析の精度が大幅に向上したことから、よりデータの付加価値を高めることが可能になっており、データを経営資源として、活かしてゆくことが求められています。

三原「世の中にデータ活用が普及した」という観点から言うと、GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)の台頭もその一因だと考えられます。これらの企業は、データを活用した新たなビジネスモデルを創出するとともに、大きな収益を得ています。そのプラットフォームを利用する企業や、いっそその枠組みを自分たちでも構築すればいいと考える企業などが増えてきたのです。森さんが指摘するように、制度の高いデジタルマーケティングの仕組みを一般企業でも活用できるようになりました。

アクセンチュア株式会社
テクノロジーコンサルティング本部
データグループ日本統括
マネジング・ディレクター
三原 哲

こうした潮流を受け、システム開発も大きな転換期を迎えているように感じます。かつてはウォーターフォール型のシステム開発が主流でしたが、現在はアジャイル型やクラウド型のシステム開発も増えています。この点はどのようにお考えですか?

モバイル、クラウド、SNS(交流サイト)、AIの四つのIT革命により、システム開発は「企業起点」から「顧客起点」で考える開発スタイルが必要となってきました。つまり、机上ではなくマーケットと対話しながら開発を行うスキーム作りが求められるようになってきたのです。そのためには、「完成したらおしまい」のウォーターフォール型ではなく、短期間で開発を繰り返しながら顧客満足を追求していくアジャイル型の開発が必要となっているのです。

三原クラウドを使えるようになったことも大きいですね。必要な時に必要なリソースを使えるようになりました。その結果、従来のシステムの開発なら1年ぐらいかかっていたものが、数カ月でできるようになりました。「顧客起点」とはすなわち、お客様の多様なニーズに応えることなのですが、そのためには、ビジネスサイドの部門も自分たちのお客様がどういう人たちなのかをリアルに把握していかなければなりません。その点では、ITもさることながら、ビジネス側もアジャイル型にシフトすることが求められますね。

データ活用に成功している企業と
失敗している企業の違い

データ活用ができている企業とそうでない企業とでは、取り組みや成果にどのような違いがありますか。

データを活用することで、今までできなかったビジネスが生まれます。ところが、データ活用が進んでいない企業では、例えば、データアライアンスによる異業種提携のビジネスを行うと言う発想が生まれにくいと思います。例えば、データを活用すれば自社が保有している顧客のビヘイビア(顧客属性、日常の購買活動履歴、日常の購買活動エリア)から、異なる業種(ECやリアル店舗ビジネス、保険等)のニーズを発掘すると言ったビジネス提携や顧客の活動範囲が特定できることでエリアマーケティングを行えるようなビジネスが生まれてくると思います。

三原AIやRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)による自動化や効率化についても、できている企業とできていない企業に分かれます。取り組みがうまくできている企業は、これまで主な分析の対象としてきた業務システムのデータだけではなく、各種業務システムの利用状況を示すデータ、デバイスの利用状況、オンライン会議の開催状況などから得られる社員やパートナーの働き方のデータ、などのオペレーショナルなデータも積極的に活用しています。その上で、現状を明らかにし、適切な打ち手をうち、効果を測定し、改善につなげるという継続的な取り組みを行っています。

継続的であることは大切ですね。CDO(Chief Digital/Data Officer)の役割もそこにあると思います。CDOの役割は、データを中心にして、既存の業務やビジネスを見直す方向性を示し、大小様々な変革を推進し、データを使って継続的にシステム改善できる環境づくりをすることです。そのためには、システム開発は柔軟なアジャイル型であることが必要ですし、なにより、CDO自身が現場環境を変えることができる変革者のリーダーでなければなりません。

三原データウェアハウスやデータレイクにデータを集約するだけではデータ活用は進みません。データを活用するには、具体的な目的やユースケース、そのために必要なデータ、さらにそのデータの使い方(ナレッジ)を整備していく必要があります。また、データサイエンティストなどが分析して終わり、ダッシュボードをつくって終わりということではなく、そのデータや分析結果を、必要な人がいつでも使えるように業務やそれを支える業務システムに埋め込んでいくことが大事です。そうではないと「データドリブン経営」を実現することは難しいでしょう。

データ活用に成功するための
人材育成

「データ人材の育成」、「データ活用文化の醸成」が重要とされます。ポイントはどのような点ですか。

基幹業務のデータ分析を行うには基幹業務データの意味付けに関する知見が必要です。社外からこれができる人材を調達することは容易ではありません。私の経験では、事業会社のシステム部門でシステム開発業務を経験し、基幹業務データの意味付けを充分理解した上で、データ活用する部署に異動させて、データ分析やデジタルマーケティングを行い、ITとビジネスが分かる要員を育成するような施策が有効だと思います。ただし、組織が縦割りのサイロ型で各部門からなかなかデータが上がってこないという企業も見かけます。いくらいい人材を引っ張ってきたり、育てたりしてもそれではデータ活用は進みません。横の連携ができるような風通しの良い組織体になることが不可欠です。そのためには、まずシステム部門からデータの活用部門に寄り添っていくような関係性が大事です。

三原外部のアナリストやコンサルタントなどの人材を活用することも有効でしょう。むろん、外部の人材でも内部の人材でも、ビジネスの本質を理解することが必要です。ただし、そこで注意すべきは、その知見がどうしても「人」に蓄積されがちだという点です。人ではなく、組織の仕組みとして共有することがポイントです。さらに全社的に、データを起点にし、データを共通言語にしてビジネスを成長させるという、ゴールに向かって行動できる仕組み作りが大切です。ちなみに、データ加工ツールもさまざまなものが出ていますが、大切なのはユーザー目線でデータを集約し、加工、利用できるようにすることです。従来、データの集約、加工は得意であっても、利用を視野に入れた製品は多くありませんでした。その点で、ユーザー視点で使い勝手のいいインフォマティカのソリューションには期待しています。

日本企業はこれからも
優位性を発揮できる

2030年問題など、日本企業が直面する課題は多いと思われます。IT人材の育成なども含め、日本の企業・社会への期待をお聞かせください。

企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)は今後、IT人材の世代交代を進められるかどうかにかかってきます。これからのシステム開発を担う若手人材は小学校からプログラミングを学んだ真のデジタル世代になります。そうした新たなIT人材を生かすには、開発なども含めたIT部門の抜本的な体制見直しが必要になります。今後、IT部門には与えられた要件を決められた期間に開発するだけでなく、ビジネスそのものをデザインすることが求められます。そのためには、ビジネスとIT双方の知識を持つ開発人材が必須になります。文系、理系の違いなども関係なくなります。さらに、必要に応じて外部人材の活用もバランスよく進めていくことが必要でしょう。もはや、IT部門はバックヤード組織ではありません。変革を推進するリーダーの下、会社全体を牽引するIT部門の組織作りが求められます。

三原森さんが指摘するように、今後は、テクノロジーや統計がわかる人たちが積極的にビジネスに関与することになります。データを活用することが、自分たちを変革するきっかけになります。そのためにはまず、自分たちの立ち位置を知ることが起点になります。その上で、変革を継続的に行える仕組みを企業とか組織の中に組み込まなければなりません。私たちアクセンチュアが、そのお手伝いをしていきたいと願っています。

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