We Are The People 代表取締役 安田雅彦氏(撮影:冨田 望)

 人材の多様化が進むにつれて、多くの日本企業でマネジメントの難易度が上がっている。「管理職は罰ゲーム」という声も散見される中、マネジメントにはどのようなアプローチが必要なのだろうか──。こうした疑問に対して「外資系企業のフィードバックの仕方を知り、身に着けることで解決できる」と話すのは、2025年2月に著書『世界標準のフィードバック 部下の「本気」を引き出す外資流マネジメントの教科書』を出版した、We Are The People 代表取締役の安田雅彦氏だ。日本企業と外資系企業ではフィードバックの仕方にどのような違いがあるのか、効果的なフィードバックにはどのような要素が必要なのか、同氏に話を聞いた。

本稿は「 Japan Innovation Review 」が過去に掲載した人気記事の再配信です。(初出: 2025年9月22日)※内容は掲載当時のもの

日本では「真の意味のフィードバック」が行われていない

──本書『世界標準のフィードバック』では、安田さんがグッチグループジャパンやジョンソン・エンド・ジョンソン、アストラゼネカ、ラッシュジャパンといった外資系企業の人事に携わってきた経験をもとに「外資系におけるフィードバック」の考え方や実践法について解説しています。著書では、多くの日本企業において「昭和型のフィードバック」が行われていることを指摘していますが、そこにはどのような問題点があるのでしょうか。

安田雅彦氏(以下敬称略) 外資系企業と日本企業で働き、今はコンサルタントとして日本企業を見ている立場から実感しているのは、「ほとんどの日本企業では真の意味でのフィードバックが行われていない」ということです。

 フィードバックの本質は「期待されていること」と「実際のパフォーマンス」との間にあるギャップ(差分)を伝えることです。そして、それを部下の成長機会に結びつけることが重要です。

 しかし、日本企業のフィードバックは年1回、あるいは半期に1回、評価面談の場を活用したフィードバックがほとんどであり、それすらまともに行われていない会社も多いと感じています。ましてや、日常的なフィードバックはほとんど行われていないのが実情ではないでしょうか。

 フィードバックは、年1回や半期に1回では全く足りません。部下に対する期待値と実際のパフォーマンスの差分は、評価のタイミングで突然発生するわけではなく、日々少しずつ発生するものです。よって、年間の勤務日数が240日あるとすれば、240回のフィードバックの機会があるはずです。

 ところが、日本企業ではこの日常のフィードバックが全くなされていないため、評価のタイミングで初めてその差分を伝えることになります。部下の立場からすれば、納得できないと感じるのも無理はありません。これでは人材の成長は期待できないでしょう。

なぜ、部下のパフォーマンスは「全て上司の責任」なのか?

──外資系企業では、日常的にフィードバックが行われているのでしょうか。

安田 そうですね。なぜかというと、外資系企業では部下のパフォーマンスが悪ければ、それば全て上司の責任だからです。部下が決められた目標を達成するために十分な仕事をしているのか、成果が出ているのか、うまくいかないことがあってもこの会社で頑張りたいというエンゲージメントがあるか、その全てにおいて上司は責任を問われます。

 例えば、チームに入ってきた新卒社員が3年連続3カ月で辞めているとしましょう。そうなれば、「あの上司のチームはどうなっているのか?」と問題になります。上司は責任を問われて降格したり、給料が下がったりします。部下のパフォーマンスが低くてもそこまで責任を問われない日本の管理職とは、インパクトがまるで違うのです。

 そのため、外資系企業の管理職は、部下のことが気になって仕方がありません。その結果、おのずと部下に関心を持って日常的にフィードバックを行い、何とかして部下のやる気を引き出そうとします。会社から「部下にフィードバックせよ」と言われるからやっているわけではありません。会社に言われてフィードバックや1on1ミーティングをする、という考え方がそもそも間違っているのです。

──なぜ、外資系企業の管理職と日本企業の管理職ではここまで責任の大きさが違うのでしょうか。

安田 採用や組織文化が違うからだと思います。外資系の中でもグローバルに事業展開を広げる企業では、直属の上司が必ず採用プロセスに関わります。採用時点から責任を負っているため、育成に対する思いも違うのです。

 ところが日本企業の管理職は、自分が採用したわけでもない部下をいきなり会社から押しつけられます。人事異動もありますから、どんなに手塩にかけて育てても「いつか自分のもとから離れていく」と思えば、育成に身が入りません。

 加えて、日本企業ではプレイングマネジャーが多いことも、部下へのフィードバックに身が入らない一因だと考えています。マネジャーになっても個人目標を課せられるため、部下の育成よりも個人の目標達成が優先的に評価されます。会社も短期的な業績が下がることを恐れるあまり、マネジャーが最重要顧客を持つなど、「プレイヤー」として全力貢献することを良しとしていますし、故に育成に力を入れていなくてもあまり問題視されません。だからこそ、日本企業ではプレイングマネジャーが存在し続けているのです。

──外資系にはプレイングマネジャーはいないということでしょうか。

安田 基本的にはプレイングマネジャーは存在しません。そもそもグローバルカンパニーにおけるマネジャーの役割は「チームをマネジメントして成果を出すこと」です。こうした共通認識がありますから、プレイングマネジャーであることは原則として許されないのです。

 プレイングマネジャーがいるとチームがサステナブルでなく、安定成長が見込めないと考えられています。重要な「プレイヤー」としての役割を担っているマネジャーが居たとしても、それはあくまで一時的です。「その仕事をいつ誰に委譲するのか」ということを、当該マネジャーは常に問われています。

 もちろん、外資系企業でもセールス部門のマネジャーに昇格するのはトップセールスの人であり、それは日本と同じです。しかし、マネジャーになった瞬間にトレーニングとマインドチェンジが行われます。日本企業の多くは「徐々にマネジメントに慣れてくれればいいよ」というスタンスでプレイングマネジャーを容認していますが、こうした悪しき慣習はどこかで断ち切るべきだと考えています。

効果的なフィードバックの3要素は「EEC」

──安田さんが二十数年間を過ごした外資系企業では「フィードバックに力を入れていない企業は1社もなかった」とのことですが、そこではどのようなフィードバックが行われていたのでしょうか。

安田 外資系企業におけるフィードバックとは、単なる「小言」や「叱責」ではありません。①事実(Example)、②及ぼす効果・影響(Effect)、③褒める・変更の提案(Congrats・Change)の3要素を必ず押さえています。この効果的なフィードバックの構造を「EEC」と呼んでいます。

 例えば、EECの構造に沿って部下へフィードバックすると、次のようになります。

「先日のレポートは、①スライドだけの説明だったために(Example)、②多くの人が正確に理解できず、少し混乱していたようだね(Effect)。③次回からは、資料を準備してはどうだろう?(Change)」

 フィードバックの構造的な理解が弱い日本企業の現場では多くの場合、実際のフィードバックでこの3要素が満たされていません。③変更の提案が抜けて「スライドだけの説明では、みんなよく分かっていなかったみたいだぞ」という言い方になっていたり、「次からは資料を配ってね」というように、①事実と②及ぼす影響が抜けていて、理由の説明が不十分だったりします。

「①あなたはこういうことをした。②それはこういう効果や影響を及ぼした。③次は、あなたがもっと良い成果を出すために、こういうことを試みてはどうだろうか」というEECの構造を意識した伝え方ができて初めて部下の成長機会や行動変容につながるのです。