神戸物産代表取締役社長 沼田博和氏(撮影:栗山主税)
写真提供:神戸物産(左)

 2000年にFC(フランチャイズチェーン)1号店がオープンした「業務スーパー」は2022年、1000店舗を突破した。運営する神戸物産では、2026年に向けた中期経営計画で「外食・中食事業の拡大」を打ち出している。業務スーパーの急成長の秘訣は何か。なぜ今、外食・中食事業の強化に取り組むのか。沼田博和社長に話を聞いた(前編/全2回)

業務スーパーが外食・中食を強化する理由

――中期経営計画(2024年~2026年)では、「外食・中食事業の拡大」を基本方針の1つに掲げています。業務スーパーの印象が圧倒的に強いため、神戸物産と外食・中食という取り合わせを意外に感じる方もいるかもしれません。

沼田博和氏(以下敬称略) じつは、私たちは2006年から外食事業に参入しています。その年、世界各国の本場の料理をビュッフェ形式で提供する「神戸クック・ワールドビュッフェ」のFC(フランチャイズチェーン)1号店を出店以来、全国に14店舗を展開してきました。

 また、厳選したお肉と店内手作りのデザートを楽しめる焼肉オーダーバイキングである「プレミアムカルビ」を関東圏と静岡県に20店舗出店している他、中食については惣菜店「馳走菜」を主に業務スーパーに併設し、114店舗展開しています。

写真提供:神戸物産

 長期的な計画としては、これらの業態や新規業態を合わせて500店舗にまで拡大することを目標としています。

――なぜ今、外食・中食事業を強化するのでしょうか。

沼田 一番の狙いは、食に関するさまざまなシーンにおいて、神戸物産グループにしか提供できない価値を提供することにあります。

 おかげさまで、2023年10月期の決算では売上高4615億4600万円、営業利益307億1700万円と、いずれも過去最高の実績を残すことができました。こうした実績から考えても、私たちが従来、主力事業としてきた業務スーパーはしっかりと成長軌道に乗っていると判断しています。業務スーパーは、全国に1048店舗を展開しています(店舗数は、いずれも2023年10月末時点)。
 
 しかしながら、それはあくまで小売という食のワンシーンにおける限定的な手応えでしかないとも受け止めています。

沼田 日常生活のあらゆる場面で、お客さまに対して良質な商品をより安く提供したいと考えてきました。食の総合企業を目指す私たちとしては、外食・中食事業の強化は必然性の高い方針であると思います。

 とはいえ、小売業と同様、外食産業は競争が大変激しい領域です。既存の飲食店に対して、いかに差別化を図るかが問われますが、その点、業務スーパーの運営を通じて培ってきた独自のノウハウが活用できると見ています。

 外食・中食の領域でも業務スーパーらしい特徴を打ち出して、新たなお客さまとの出会いを増やしたいと思います。

輸入商品とPB商品が演出する「業務スーパーらしさ」

――業務スーパーらしさや神戸物産グループにしか提供できない価値とは、具体的にどういうものですか。

沼田 それは、おそらく私たちの強みとも言えると思うのですが、業務スーパーには大きく3つの特徴があると認識しています。それは、「商品力」と「ローコストな販売システム」、そして「食の製販一体体制」の3つです。
 
 第一の「商品力」については、業務スーパーの店舗には一般的な食品スーパーでは見かけないような商品が並んでいます。
 
 例えば、定番商品の「クラシックアップルパイ」という冷凍食品も、その一つでしょう。オランダからの直輸入品で、内容量が1.8キログラムと大きく、いかにも外国の商品らしいボリュームと本格的な味わいが人気の商品です。

写真提供:神戸物産

 もし私が担当バイヤーだったら、日本の食卓に「クラシックアップルパイ」が並ぶ光景は想像することもできなかったと思います。おそらく、輸入を提案しようとは考えなかったでしょう。
 
 しかし、業務スーパーでは当時、担当者の一人だったオランダ出身のバイヤーが自信をもって提案してくれたおかげで、採用することができました。現地ではスタンダードなサイズであることを知っていたため、日本人とは異なる感覚で、値頃感もある良品であると的確に見抜いたわけです。

 神戸物産では、このように各国の事情に精通したバイヤーたちが、およそ50カ所の国や地域から特徴的で良質な商品を見出してくれています。おかげで、取扱商品の総数は約5680アイテムですが、そのうちの約1680アイテムを海外からの輸入品が占めています。

 世界中から本場のユニークな商品が取り寄せられた店内を眺めるだけでも、普段のお買い物に彩りが加わるのではないでしょうか。

――そうしたバイヤーたちの選別眼は、どのように養われるのですか。

沼田 基本的には、バイヤーの個人的な感覚や商品に対する情熱を尊重するようにしています。もちろん、業務スーパーの店頭に並べるべき明確な根拠が示されなければ、提案が採用されることはありませんが、とくに海外のメーカーとの交渉を進める上では、見出した商品を多くのお客さまに届けたいという熱意が非常に大切だと考えています。

 というのも、以前、日本人のバイヤーがアプローチを試みても相手にされなかった海外メーカーに対して、のちに入社した同国出身のバイヤーがアプローチをしたところ、スムーズに交渉がまとまったケースがありました。自社の商品を理解してくれているかが分からない外国人より、その国で生まれ育ったバイヤーが「この商品を日本の消費者に届けたい」と訴えかける方が、より熱意を感じさせるということなのでしょう。
 
 また、食文化には地域性や国民性が色濃く反映されています。和食に最も慣れ親しんでいるのが日本人であるように、モッツァレラチーズに詳しいのはイタリア人であり、中国の食材を選別する能力は中国人に分があるのではないでしょうか。

 輸入先は中国をはじめとするアジアが最も多く、ヨーロッパがそれに続きますが、今後はハラール食材の需要も視野に入れながら、海外からも多彩な人材を採用して、商品力をいっそう強化するつもりです。

――中期経営計画にプライベートブランド(PB)商品の強化が掲げられたのも、商品力のさらなる拡充が狙いでしょうか。

沼田 それも、狙いの一つです。ナショナルブランド商品を中心とした品揃えでは他店との差別化が難しく、接客サービスを充実させたり、惣菜メニューの開発や生鮮食品の仕入れに力を入れたりして、特徴を打ち出すことになります。

 一方、PB商品は業務スーパーでしか購入できないため、お客さまの来店動機に直結します。業務スーパーの継続的な成長を実現する上で、魅力的なPB商品の開発は不可欠な要素であると思います。
 
 また、PB商品をはじめ、業務スーパーで取り扱っている商品はもともと業務用食材でもあります。従って、それらを今後、拡大する外食・中食事業でも活用すれば、調理の工数を減らしたり、味とコストのバランスを調整したりする上でも、シナジー効果が期待できるのではないかと考えています。

 現在、PB比率は34%程度で推移していますが、中期経営計画では37%にまで向上させ、長期的には40%を超える水準にまで引き上げることを目指しています。

――神戸物産のPB商品は、価格設定も消費者から高く評価されていますね。

沼田 商品力とともに、低価格も業務スーパーの強みであり、それを実現する独自のローコストな販売システムは、私たちのビジネスモデルを特徴づけている大切な要素の一つであると思います。

 また、神戸物産グループでは、国内26工場に加えて、海外にも500を超える協力工場があり、海外と直接、取引を行うことによって流通コストを削減しています。業務スーパーの新規出店が近年は毎年30店舗前後のペースで続いていることに加えて、年々、輸入商品の取扱数量が増えています。

 各地の店舗網が変化し、海外との取引が拡大していく中で、神戸港と横浜港の近辺での倉庫の確保や物流業務を委託する3PL(サードパーティロジスティクス)サービスの積極的な活用など、流通面での最適化は常に改善を続けるべきテーマと認識しています。

なぜ、段ボール箱のまま商品を陳列してもいいのか

――中期経営計画では店舗運営の効率化も重点施策となっていますが、ローコストな販売システムを実現する上で、やはり店舗運営でも独自の工夫があるのでしょうか。

沼田 店舗運営コストと業務コストについては、創業以来、改善を重ねて削減に努めてきた私たちの核心的なノウハウと言えます。「ムダやロス、非効率は神様に対する裏切り行為である」というのが、創業者の考え方でした。
 
 例えば、最も分かりやすい工夫の一つとして、商品を陳列する際の「ワンウェイ(一方通行)」の原則が挙げられると思います。
 
 通常、食品スーパーの売り場に段ボール箱に入ったままの商品を置いておくと、間違いなく、スタッフは店長に注意されます。しかし、業務スーパーではスタッフの作業量を減らすため、原則として、いったん倉庫から売り場に持ち出した商品を再び倉庫へ戻すことはしません。

写真提供:神戸物産

 段ボールのままなので見栄えはよくないかもしれませんが、こうしてオペレーションの効率化を徹底するのが私たちのスタイルです。

【後編に続く】ロイヤリティは「仕入れ額の1%」異例のFC方式で発展してきた「業務スーパー」のローコストオペレーションの神髄(2025年1月8日(水)AM6:00公開予定)