ヤオコーの店舗数は2024年4月1日時点で187店。グループ企業の「エイヴイ」「フーコット」「せんどう」を合わせると230店になる

 スーパーマーケット業界でヤオコー(本社:埼玉県川越市、川野澄人社長)の存在感が高まっている。首都圏に200店超のスーパーマーケットを展開する規模になったにもかかわらず、厳しい競争環境の中、35期連続で増収増益を続けている。なぜ、ヤオコーは成長を続けられているのか。その要因をひもとく。

本稿は「Japan Innovation Review」が過去に掲載した人気記事の再配信です。(初出:2024年8月15日)※内容は掲載当時のもの

収益力と店舗の営業力は業界随一

「同業他社との競争から一歩抜け出した」

 都内で行われた決算会見の場でヤオコーの川野澄人社長はこう語った。

 2024年3月期(連結ベース)の営業収益は6195億8700万円(前期比9.8%増)、営業利益は293億2800万円(同11.8%増)、経常利益は288億7700万円(同12.8%増)。

 スーパーマーケット業界の営業収益ランキングでは、1位がライフコーポレーション(8097億900万円、2024年2月期)、2位がユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス(USMH。事業会社としてマルエツ、カスミ、マックスバリュ関東を持つ/7066億5700万円、2024年2月期)、3位が西友(6647億5200万円、2023年12月期)、4位がオーケー(6238億8900万円、2024年3月期)で、ヤオコーは5位となっている。

 収益力はどうか。

 ヤオコーの営業利益率は4.7%。これはライフコーポレーションの3.0%、USMHの1.0%、西友の3.9%をしのぐ水準で、オーケーの5%と肩を並べる高い数値だ。

 オーケーはヤオコーと同じく首都圏を地盤に急成長を続けているスーパーマーケット。日本生産性本部が毎年実施している顧客満足度調査ではスーパーマーケット部門で14年連続で1位を獲得している、「安さ」に定評があるチェーンだ。

 ただし、好業績を持続させている点では、ヤオコーが上。オーケーが2022年3月期、2023年3月期と2期続けて減益と苦戦をする中、ヤオコーは2024年3月期(単体ベース)まで35期連続の増収増益を達成している。

 店舗の営業力を示す既存店売上高伸長率でも、ヤオコーは7.7%増。2023年度のスーパーマーケット業界の既存店売上高伸び率(全国スーパーマーケット協会の数値)は2.6%増で、これを大きく上回る。オーケーの8.8%増には敵わないが、既存店の営業力の高さでもヤオコーはスーパーマーケット業界のトップクラス。

 こうした数値が、川野社長の「同業他社との競争から抜け出した」という言葉の裏付けとなっている。

「2割強い店づくり」で同業他社との競争から抜け出した

 ヤオコーはなぜ同業他社との競争から抜け出すことができたのか。

 その大きな要因はヤオコーが進めてきた「2割強い店づくり」にある。

 「2割強い店づくり」はヤオコーが2021年開始の中期経営計画(3カ年)で方針に挙げたもの。「同じ立地であれば、これまでよりも売り上げが2割高い店にする」ということ。「定番商品の価格は競合店並みにしながら、売場提案や催事などで競合店にない魅力を加えること」で、これまでよりも2割強い店にするという考え方だ。

 ヤオコーには、それを象徴する施策が2つある。

 1つ目が「消費のハレとケの二極対応」。

 ヤオコーはメインターゲットを50代未満の子育て世代に設定しているが、この消費のハレとケの二極対応が店舗の客数の増加とともに、客単価の増加につながっている。

 ヤオコーでは、ハレの消費への対応としてミールソリューションに取り組む。通常、ミールソリューションは「メニューを考える手間、調理の手間や負担を解消するコンセプト」として語られることが多いが、ヤオコーではこの点を踏まえた上で、売場で「食の楽しさや栄養面でのサポートを含めた提案」などを行う。

 食の楽しさの提案では、例えば鮮魚売場で定番魚種のマグロをサクやスライス、お造りに加え、部位別の食べ比べセットなども商品化。毎月一度、週末に実施される「豊洲祭り」では市場直送により、普段は品ぞろえされない魚種を展開する。

 また、精肉売場では黒毛和牛の焼き肉セットやステーキ用の厚切り肉など飲食店に行かないと目にしないような食材も品揃えし、それと組み合わせる野菜や調味料なども関連販売する。

 家庭のメインメニューとなる食材を軸にちょっとしたハレの要素を加えることで、他のスーパーマーケットとの違いを創り出している(これはコロナ禍の巣ごもり消費で外食から取り込んだ需要をつなぎとめておく施策にもなっている)。

精肉売場では外食メニューに匹敵するステーキ用和牛を品揃えする。

 栄養面でのサポートは店舗にある「クッキングサポート」というメニュー提案や試食を行う専用スペースで行われる。ここには専任スタッフが常駐し、顧客からの料理に関する相談に対応したり、食材の栄養価を生かした調理法や減塩など健康面を意識したメニューの提案する(調理法やメニューの提案は地域の食生活や顧客属性を踏まえて店ごとに対応している)。

 もう一つのケの対応、普段の消費ではお客の節約志向への対応を強める。メインターゲットのヤングファミリー層は日常の支出はできるだけ抑えたいという意識が強い。

 こうした場面では安売りをするディスカウントストアなどが競合となるが、ヤオコーはそうした店舗を意識しつつも、価格訴求は限定的に行う。

 その1つが「カテゴリー割引」(カテゴリーの全商品を期間限定で特売)。価格訴求するカテゴリーは米、加工肉、ドレッシング、コーヒー、日用品、ペットフードといった消費頻度の高い商品で、そのいずれかを毎日、カテゴリー割引することで、お客の来店動機にしている(カテゴリー割引は1日に複数が対象になったり、特売期間を長く設けるものもある)。

 また、安売り店と単品で価格競争するために低価格PB(プライベートブランド)を活用。ヤオコーではライフコーポレーションと共同で「スターセレクト」という低価格PBを開発しており(ライフコーポレーションと協力して、数量をまとめることで製造原価を引き下げられる)、缶飲料、カップ麺、菓子など購買頻度が高い商品を価格訴求の武器としている。

 「2割強い店づくり」を生む2つ目の施策が「全員参加の商売」だ。

 スーパーマーケットの店舗が成果を出すためには地域のニーズを深く知ることが重要であると考え、ヤオコーではその地域で暮らす「パートナー」(パートタイマー社員)の知恵と工夫を店舗運営に生かしている(先述のクッキングサポートの提案メニューやレシピ作成にパートナーのアイデアを活用している)。店ごとに売場づくりや演出に変化をつけることもパートナー社員が主役。

 また、部門ごとに商品を決めて店同士で販売量を競い合う「日本一企画」などの販促についても店舗の従業員が全員参加で取り組む(成功事例については毎月行われる発表会を通じて全社に共有されている)。

 その結果、ヤオコーが重要指標とする店舗1キロメートル圏内のシェア率は2024年3月期に20.0%となった。5年前の2019年3月期は17.0%だったが、じわじわとシェア率を高め、2023年3月期の18.9%からさらに伸ばしたのだが、これは「2割強い店づくり」の成果だ。

令和の店づくりで店舗売り上げをさらに伸ばす

 35期連続で増収増益を続けてきたヤオコーの強さの源は中期経営計画にあるといっていい(「2割強い店づくり」は2021年開始の中期経営計画テーマだった)。

 ヤオコーは1994年の第1次を皮切りに3カ年ごとに中期経営計画を立ててきた。それを一覧にしたのが下の図だ。

 注目したいのが、1997年4月から始まる第2次中期計画で、ヤオコーは「エブリディ・ライフスタイルアソートメント型スーパーマーケットづくり」を志向した。

 このとき、ヤオコーはスーパーマーケットの品ぞろえを、コモディティ商品(大衆実用品でグロサリー部門の商品に多い)とライフスタイル商品(生活充実品で生鮮・デリカ部門の商品に多い)に明確に分類するようになった。

 当時は共働き家庭が増えている時代で、デパ地下やテイクアウト、コンビニなどの中食と呼ぶ市場が注目され始めた時期。これを捉え、ヤオコーはライフスタイル商品の要の一つとして、惣菜の差別化を図っている。

 その後、ヤオコーは2003年に惣菜製造の専門会社を設立(現在は本体に経営統合)し、オリジナル商品づくりに注力。2004年スタートの第4次中期計画のテーマにある「ミールソリューションの充実」につなげていく。

 以降、第5次の「ヤオコーブランドの確立」、第7次の「チェーンとして明らかに差をつける」、第8次の「スーパーではなく“ヤオコー”と呼ばれる存在へ」と同業他社との違いを明確に出すことを常に戦略の中心に据えてきた(こうした取り組みが川野社長の「同業他社との競争から抜け出した」との発言につながっていく)。

 先述の二極化への対応と自社製造をはじめとしたオリジナル商品の強化で、2割強い店づくりに取り組んだのが、第10次中期経営計画。これにより、ヤオコーの1店舗当たり平均年商28億円となった。

 この中期経営計画でヤオコーは差別化の取り組みもさらに進め、2023年には「SPA推進部」を設置。惣菜、ベーカリー、デザートといった自社製造商品の拡大を図る体制づくりを構築。

 そして、2024年度(2025年3月期)を初年度とする第11次中期経営計画のテーマである「シン・ヤオコー『昭和』モデルから『令和』モデルへの構造転換」につなげていく。

 これにより、ヤオコーでは1店舗当たりの平均年商を2027年3月期に30億円に引き上げる計画で、そのために取り組むことの一つが「着手が遅れていた」(川野社長)という人材育成と人材開発。

 ヤオコーの強みである「全員参加型経営」をさらに進化させるために、現場への負荷を軽減しつつ、より生産性を高めようとしている。

 商品の発注など日常的な業務はデジタル化でさらなる自動化を進め、より販売に集中できる環境づくりを推進。社員やパートナーから、店舗でより高い売り上げを実現させるためのアイデアや能力をさらに引き出そうとしている。

2025年3月期最初の新店「ヤオコー武蔵浦和店」では米国のグルメスーパーマーケットをイメージした内装にした。オレンジ色の床はインパクト十分。

南北政策とベトナム進出で次なる成長を目指す

 ヤオコーにとって、増収増益の継続は全社挙げてのミッションの一つといえる。

 だが、ヤオコーがスーパーマーケットを出店する首都圏エリアは豊かなマーケットとはいえ、中長期的には少子高齢化と人口減がやってくる。

 そこで、ヤオコーでは今後の成長に向けた幾つかの取り組みを進めている。

 その中で筆者が特に注目しているのが、次の2つの取り組みだ。

 1つ目が「南北政策」と呼ぶエリア対応。

 ヤオコーの出店エリアは「首都圏をぐるりと囲む国道16号線内の都心部を除いた地域」。つまり、関東の肥沃なマーケットをドーナツ状に切り取ったエリアになる。

 だが、埼玉県を中心に南は東京、神奈川へ、北は群馬、栃木へと出店地域が広がることで、「店舗がある地域によってお客の嗜好に差が生じる」という課題に直面することになった。

 そこで、ヤオコーの拠点である埼玉県を含む南関東では、ヤングファミリー層に向けて、先述のミールソリューションと低価格の二極化対応を行うことで成果につなげる一方、低価格志向が高く、顧客に占めるシニア層の比率が高い北関東では、加工食品の特価訴求などを強化する。

 その代表例が飲料のケース売り。「北関東は農作業に従事する層が多いためか、チラシで栄養ドリンクを日替わり掲載すると反応が良い」(川野社長)という。

 現状、ヤオコーの店舗の半分は出身地である埼玉県内に集中しているが、お客の嗜好に差を踏まえたエリア対応を突き詰めることで、茨城、群馬、栃木といった16号線外の既出地域の店舗網を厚くすることが可能になっていく。

 2つ目が「海外進出」。

 ヤオコーは今後、成長が見込める海外市場進出の布石として、2024年5月13日にベトナムのスーパーマーケット企業への出資を発表した。

 JETRO(日本貿易振興機構)によれば、ベトナムの小売りサービス業市場は2023年には約38兆140億円(前年比9.6%増)と急成長。日本からはイオン、セブン-イレブンといった大手チェーンが進出し、イオンではショッピングセンター(イオンモール)、ドラッグストア(ウエルシア)、コンビニ(ミニストップ)とさまざまな業態を展開しているが、スーパーマーケットチェーンの進出例は見当たらない。

 その意味でヤオコーの進出は注目だ。

 ヤオコーでは店舗の製造部門や、先述のデリカ生鮮センターで多くのベトナム人を技能実習生として受け入れ、貴重な戦力としている。そうした技能実習生はベトナムに帰っても食品製造などに関わる仕事を続けており、ベトナムにおけるヤオコー流の店舗運営や食品製造のノウハウの展開が可能とみての出資といえるだろう(これをヤオコーでは「戦略的投資」と呼んでいる)。

 2024年4月からヤオコーは36期連続で増収増益を目指す新しい年度に入った。

 既に4カ月が経過したが、各月の既存店売上高伸長率は2024年4月が7.7%増、2024年5月が6.0%増、2024年6月が8.8%増、2024年7月が3.4%増。先述の全国スーパーマーケット協会の数値では2024年4月が1.8%増、2024年5月が1.5%増、2024年6月が3.8%増(2024年7月は未発表)と、ヤオコーは同業他社との店舗営業力の差をさらに広げている。

 盤石のヤオコーである。