ウエルシアHDは、イオングループにおける「ヘルス&ウエルネス事業」の中核会社。ツルハはイオンと同社がジャスコだった1995年に業務・資本提携を締結したが、両者の提携関係は大きく進展することなく、それぞれの独自路線が続いていた。
〔画像の出典〕(左)写真提供:共同通信社、(右)写真:森田直樹/アフロ

 少子化と超高齢化が進む日本において、自分の健康は自分で守るという「セルフメディケーション」の拠点となるのがドラッグストアだ。このシリーズでは「健康産業」の担い手としてドラッグストア各社がどのような取り組みをしようとしているかを前編で解説したが、後編では今、最も注目度が高い「業界1位のウエルシアホールディングスと業界2位のツルハホールディングスの経営統合に誕生により生まれるチェーンの姿」について紹介する。

「ウエルシア2.0」で示された戦略の転換

「原則として新規のM&Aは中止する」

 これはウエルシアホールディングス(HD)が2025年2月期中間決算の場で発表したグループ経営戦略の施策、「ウエルシア2.0」の一つだ。

 「2.0」という言葉には戦略の転換や発展の意味が込められており、その内容は店舗戦略の見直しとヘルスケア戦略の拡大ということになる。

 ウエルシアHDが成長の原動力の一つであったM&Aを見直す理由は直近の数値にもあるといえる。

 中間決算の売上高は6305億8500万円で前年同期比3.2%増だが、営業利益は188億8200万円で前年同期比23.7%の減少。

 ウエルシア店頭でのたばこ販売の終了や販促ポイントサービスの移行により、売り上げが微増にとどまる中、人件費の増額および薬価改定による利益率の減少が減益の要因となった(たばこ販売をやめたこと、人件費増も人材投資という面でみれば、今期の減益はさらなる成長に向けた前向きな取り組みといえる)。

 ウエルシアHDは、イオングループにおける「ヘルス&ウエルネス事業」の中核会社で、2024年2月期の売上高は1兆2173億円。イオン全体の売上高9兆5535億円の12.8%を占める。

 「GMS事業」の3兆3893億円、構成比35.5%、「スーパーマーケット事業」の2兆7821億円、構成比29.1%に次ぐのが、ヘルス&ウエルネス事業で、その営業利益432億円はGMS事業の283億円、スーパーマーケット事業の419億円をしのぎ、イオングループ全体の利益の約2割を占める稼ぎ頭となっている。

 一方、経営統合の相手であるツルハホールディングス(HD)の2024年5月期売上高は1兆274億円。ウエルシアHDと合算すると店舗数は約5500店、売上高は2兆2500億円と、ドラッグストア市場の2割以上のシェアを持つ巨大ドラッグチェーンとなる。

 また、ウエルシアHDが7店舗(2024年2月時点)にとどまっていた北海道の店舗にツルハの道内432店舗が加わることで全国チェーンとしての厚みが増すという意味も、この経営統合にはある。

 冒頭で記した新規M&Aの原則中止は「当面はツルハとの経営統合に集中し、スケールメリットを確実なものにする」ということなのだ。

ファンドからの提案が両社の距離を近づけた

 日本のドラッグストア業界に最大チェーンが誕生するまでの統合プロセスはこうなる。

 まずイオンがツルハHDに対し、普通株式を追加取得することで持分法適用関連会社とする。その上で、ツルハHDとウエルシアHDはツルハHDを親会社とする経営統合を行う。経営統合完了後、イオンはツルハHDの株式を追加取得し、ツルハHDを連結子会社とし、これを2027年度までに完了させる。

 つまり、ウエルシアHDはツルハHDの完全子会社としてツルハグループに入り、 ツルハHDはイオンの連結子会社となってイオングループのヘルス&ウエルネス事業を担うのだ。

 ウエルシアHDでは資本・業務提携発表後の2024年4月に松本忠久社長が退任する事態が起きたが、桐澤英明新社長のもと、統合に向けた準備が進んでいる。

 ツルハHDも2024年7月に決算期を5月15日から2月末日に変更することを発表。今期は2025年2月期までの9.5カ月の変則決算となる予定だ(これを同社では同業他社との業績比較をしやすくするためとしているが、ウエルシアHDとの決算期を合わせたと見ることもできる)。

 イオンとツルハの関係は長い。

 イオンは旧ジャスコ時代の1995年にツルハと業務・資本提携を締結した。当時、イオンは近隣型ショッピングセンター開発を戦略としており、地方の専門店チェーンに対し、「ゆるやかな連帯」を旗頭に提携戦略を進めていた。

 一方、当時、北海道トップのドラッグストアチェーンであったツルハは東北、関東への進出機会を探っており、両社の意向が合致した上での提携だった。

 その後、両者では共同の商品開発などが行われたが、提携関係は大きく進展することなく、それぞれの独自路線が続いていく。

 変化が起きたのは2023年6月。香港の投資ファンド、オアシス・マネジメントからツルハHDに対して、取締役選任に関する株主提案がされたことだ。

 ツルハHDはオアシス・マネジメントの提案を拒否。当時、ツルハHDの筆頭株主であったイオンはツルハ支持を表明したが、それが両社の距離を近づけたといっていいだろう。

 今回の経営統合ではイオンがオアシス・マネジメントからツルハHDの株式の取得を行うことになる。

ウエルシアHDで進む内部充実の取り組み

 ウエルシア2.0で、ウエルシアHDの戦略はどう変わるのか。

 まず、店舗戦略面ではドミナントエリアに集中させた出店や改装にウエートを置くことで店舗の収益性をより高める。また、特徴であった長時間営業を地域に応じて見直しを進める。

 ここには、M&Aでは最大にして最後となるであろうツルハHDとの統合を前に、収益性の改善を図ろうという意図がみられる。

 統合後の姿について、両社からは独占禁止法のクリア前ということで具体的な施策は明らかにされていないが、2024年2月の経営統合発表の会見時にイオンの吉田昭夫社長は「ドラッグストア産業はすでに低成長期に入った」と語り、2027年の経営統合完了を待つまでもなく、「商品開発や物流面など規模の効果が実現できるものは早期に出していきたい」とした。

 今後、商品面ではPB(プライベートブランド)についても共有を図ることになる。

 ウエルシアHDは「トップバリュ」のような各業態に展開する汎用型PBだけでなく、「からだWelcia、くらしWelcia」のブランドで機能性食品や衛生用品などドラッグストアならではのPBを拡大している(2024年2月期のPB構成比は8.4%だが、これを2029年2月期には20%にすることを目指す)。

 経営統合により、ウエルシアHDはツルハHDの完全子会社の形になるが、ウエルシアHDの桐澤社長は「商品周りや戦略などでシナジー効果が一番大きい。ウエルシアとしてやるべきことを続けたい」と、これら商品についてツルハHDとの共有を視野に入れている。

 そして、ヘルスケア戦略で取り組むのが「セルフメディケーション」の深耕。

 セルフメディケーションとは「生活者が自身で健康管理と疾病予防を行う」ことを指しており、日本のドラッグストア各社が共有する考え方となっている(これは1999年に日本チェーンドラッグストア協会が設立されたときから同協会の趣旨になっており、会員企業とともに取り組みを進めてきた)。

 生活者にとって、病気や健康の最初の相談相手としてドラッグストアの役割が期待されていることは、このシリーズの前編で紹介した。

 例えば、「受診勧奨」。店舗の担当者、すなわち薬剤師や登録販売者が接点となり、相談者である顧客を「医療機関の受診の要不要」「適切なOTC医薬品(市販薬)の販売」「生活指導」と適切に振り分ける取り組みで、医療機関の負担軽減や医療費の抑制にもつながるものとして、ドラッグストア業界全体で取り組みが始まっている。

 この点で、ウエルシアHDは業界の先を行っている。「地域No.1の健康ステーション」のコンセプトのもと、店舗において薬剤師や管理栄養士などの専門家によるカウンセリング、各種検査や健診に対応するなどヘルスケアサービスに取り組んでいるからだ。

 これは78.0%という高い調剤店舗比率が武器になっている(調剤店舗比率ではツルハHD、マツキヨココカラ&カンパニーを含めた上位3社で群を抜いている)。

 そして、柱である調剤事業でデジタル化に注力するのも、ウエルシアHDの特徴となる。

 「Amazonファーマシー」を1920店舗で導入。これは医療機関から電子処方箋を取得し、Amazonショッピングアプリで薬局を選択、薬剤師による服薬指導をオンラインで受け、処方薬を自宅など指定の住所に配送してもらったり、薬局の店舗で受け取れる取り組みだ。

 国も公的病院を皮切りに電子処方箋導入を要請しており、ウエルシアHDではさらなる取り扱い拡大を見込んで取り組みを進めているが、これには店舗受け取りをすることでAmazonユーザーをウエルシアの顧客化する狙いもある。

 また、需要が高まる介護市場も視野に入れる。訪問介護サービスなどの相談や調整を図る拠点として居宅介護支援事業所の店舗併設を進める考えで、すでに茨城県内の一部店舗で導入されているが、さらに拡大を目指している。

 もともと、ウエルシアHDはオストメイト(人工肛門や人工膀胱の使用者)対応のトイレ設置店舗の拡大、AEDの全店設置、夏にクーリングシェルター(指定暑熱避難施設)を設置するなどヘルスケア市場を意識した地域密着の店舗の機能強化に取り組んできた。

 経営統合により、こうしたウエルシアモデルをツルハHDと共に研究、深化させる取り組みが進んでいく。

 「地域No.1の健康ステーション」ネットワークと収益性をつくり、さらにヘルスケア市場を深掘りする。少子化と超高齢化社会の課題に対応する拠点としての店舗への転換を急ぐ。

 「ウエルシア2.0」はそのメッセージといえるが、これは業界1位の自社と業界2位のツルハHD(両社ともドラッグストアは「ヘルス&ウエルネス」型で似ている)が力を合わせることで、これまで以上に社会課題の解決に注力していきたいという強い意思になっている。