
サプライチェーン改革フォーラム
特別講演2「End To Endでのグローバルサプライチェーンオペレーションを起点としたグローバル経営改革」
開催日:2024年3月19日(火)
主催:JBpress/Japan Innovation Review
オムロンのヘルスケア事業を担い、世界各地に生産拠点を展開し売り上げの8割以上を海外で上げるオムロンヘルスケア。同社の生産SCM統轄部グローバルSCM革新部で部長を務める井沢晃将氏は、「SCM(サプライチェーンマネジメント)は製造業の根幹の業務であり、経営そのものである」と言います。
オムロンヘルスケアがコロナ禍の混乱にもうまく対応し、堅調な成長を続ける背景には、2017年から取り組んでいるグローバルSCM戦略の存在があります。「SCM起点でグローバル経営改革ができる」「SCMは製造業にとってDX戦略の答えである」としながらも、「実行レベルで差が出る」と語る井沢氏。同社のサプライチェーン改革の全容と改革の実行におけるポイントを、本講演でぜひご確認ください。
【TOPICS】
- グローバルにヘルスケア事業を展開
- 現在のサプライチェーンを取り巻く4つの環境変化
- オムロンヘルスケアにおけるSCM基本戦略とサプライチェーン改革の流れ
- まずはグローバル在庫の一元管理から
- 「Bias-Less Planning」によるサプライチェーン可視化の取り組み
- グッドプラクティス企業の2つのポイント
- サプライチェーンの可視化領域を拡大し、さらなる価値の創出へ
- サプライチェーン改革を成功させる3つのポイントとは
予防医療の分野でグローバルに事業を展開するオムロンヘルスケア
井沢晃将氏(以下、井沢氏) オムロンヘルスケアの井沢です。本日は、「End to Endでのグローバルサプライチェーンオペレーションを起点としたグローバル経営改革」というタイトルでお話をします。
まず、自己紹介をします。私は、オムロンヘルスケアに入社して19年目になります。前職はIT業界でシステムエンジニアをしていて、オムロンヘルスケアにはIT部門に入社しました。その後、アメリカ販売会社でオペレーション改革を実施し、2013年からこれまで日本でSCMの改革を推進しています。
本日は、伝えたいことが3点あります。1つ目が「SCM起点でグローバル経営改革ができること」、2つ目が「SCMは製造業にとってDX戦略の答えであること」、そして、3つ目が「SCM戦略を作ることは容易だが実行レベルで差が出ること」です。
SCMというと、在庫管理や需給調整、物流などの業務を思い浮かべる方も多いかと思います。しかしながら、私が今までやってきて思うのは、SCMは製造業の根幹の業務であり、経営そのものであるということです。だから、そのあたりのエッセンスを本日はお伝えしたいと思っています。まず会社紹介、次に今までやってきた取り組み、そして取り組みのポイントという順で説明をします。
まず、会社の紹介です。オムロンヘルスケアは、オムロングループ全体の16%を占めるヘルスケア事業を担っている会社です。売り上げは、2023年度期で1421億円です。ミッションは、「地球上の一人ひとりの健康ですこやかな生活への貢献」です。グローバルで健康ヘルスケア領域の事業を行っています。
売上高は過去10年間右肩上がりで、利益成長も伴いながら成長を続けています。 事業のビジョンは、「Going for ZERO 予防医療で世界を健康に」を掲げています。健康ヘルスケアの中でも予防医療という分野での事業を行っており、その中での健康医療機器の製造販売とそれに伴うサービス事業を展開しています。
この図は、カテゴリー別の売上高の構成比率です。
商品では血圧計が全体の63%と大きな部分を占めており、これが事業の柱となっています。そして、ネブライザ、体温計、低周波治療器などが続いています。このような製品群を、グローバルに供給しています。
エリア別の売上高構成比率では日本が19%で、海外売り上げが全体の8割を超えています。海外では中国が29%と少し大きいですが、他に米州、欧州、アジアと均等に事業を行っています。グローバルSCMの機能が非常に重要であることが、この売り上げの構成から分かるかと思います。
生産体制は、日本、中国、ベトナムのアジア3拠点がメインの供給拠点になっています。それにイタリア、ブラジルを加えた5つの生産拠点から、世界中に商品をお届けしています。
サプライチェーンを取り巻く環境変化とオムロンヘルスケアの取り組み
井沢氏 ここから、サプライチェーンの話をしていきます。下の図は、サプライチェーンの現在の状況です。現在の環境を見ると、大きく4つのトレンドがあると言われています。
1つ目は、グローバル経済の大きな変動です。中国を中心とした動きが大きな経済の変動を生んでいます。
2つ目に、消費者・顧客の多様化と産業のハイテク化です。消費者のニーズの多様化や、消費者の購買行動として現在はオンラインビジネスに変わってきているという大きな流れがあります。
3つ目に、サプライチェーンのリスクの高まりです。これが非常に大きく、パンデミックや、最近では日本で大きな地震が起こりました。また、経済的にも為替の変動等、さまざまなリスクが高まっていると言われています。
最後に、昨今新たな社会価値が台頭し、サステナビリティや環境問題、人権対応などの新たな課題が生まれています。サプライチェーンを取り巻く環境は大きく変化していて、サプライチェーンのキーワードを取っても本当に幅広い課題があります。そうした背景から、現在、経営の非常に重要なテーマとなっています。
われわれの会社がサプライチェーンの取り組みをスタートしたのは2016年です。当時の課題感と基本戦略を示したのがこの図です。
当時は、今ほどサプライチェーンは話題になっていなかったように思います。われわれの課題は、グローバルで意欲的に事業を展開していたので販売エリアがグローバルに拡大してきたことと、Amazonを中心としたオンラインの拡大やB2Bの大口需要の拡大という販売チャネルの変化でした。一方で、供給の問題はそこまで大きくなかったと思っています。
2016年当時に策定したSCM戦略の基本戦略が、グローバル一元管理です。データの可視化、全体コントロール機能の設置という基本的な戦略を策定して、SCMへの取り組みを進めてきました。
この図は、サプライチェーン改革の流れです。
2016年に先ほどの基本戦略を作り、そこから2017年、2018年でSCMのPSIマネジメントを導入しました。PSIは、SCMを担当する方ならご存じかと思います。これを使って、2018年からグローバル在庫一元化オペレーションをスタートしました。
その後、2019年にS&OPマネジメントを導入し、SCMの数量情報をベースに金額化することを行い、2020年には市場側でのデータ、代理店在庫や代理店の売り上げであるセルアウトというような市場の情報の可視化を行いました。その頃、コロナが発生しました。それによって大きな問題が発生したのは供給側なので、供給側を可視化しようと、工場キャパ可視化、部品在庫の可視化を実現しました。
このように、7年間ほど継続してサプライチェーンの取り組みをしてきました。
グローバル在庫一元管理の取り組みとその成果
井沢氏 最初のポイントである、グローバル在庫一元管理についてお話しします。
これが最初の取り組みで、非常に重要な部分です。図の左側の分散管理から、右側の集中管理に変更しています。
以前のやり方は、この販売拠点と工場の関係を見て分かるかと思いますが、各販売会社が自分たちで在庫を管理するというオペレーションでした。販売会社がそれぞれ自分たちで在庫を管理し、必要なものを工場に注文して工場が供給するというN対Nの受発注の関係でオペレーションをしてきました。
これを、図の右側のような集中管理に変えたのが最初の改革です。集中管理の図の中心には「GSCM」というものが入っていますが、ここが私がいる組織です。この本社のSCMという部門が、グローバルで各販売拠点の在庫を一元管理するというオペレーションに変えました。SCMのプラットフォームとしてシステムを導入し、この一元管理のオペレーションを実現しています。
この後、2020年、2021年にコロナが発生しました。このコロナによってわれわれの事業にどのような影響があったのかというと、われわれは健康ヘルスケアの領域なのでコロナによって健康意識が非常に高まり、需要が爆発的に伸びました。特に、主力の血圧計と体温計です。体温計は、特に日本においてはお店で買えないような状況になってしまいました。このように、コロナでかなりデマンドが上がりました。
一方で、サプライ側にも時期的にいろいろありました。さまざまな問題で半導体不足、物流困難、工場ロックダウン、リードタイムの長期化など、供給側の問題が発生しました。需給の関係でいうと、かつてない需給ギャップが発生したことがまさにコロナのインパクトでした。
では、われわれのサプライチェーンはどうだったのか。
この時点では、先ほど説明した、図の右側の集中管理のオペレーションを始めていました。供給可能な商品が非常に限られた状況の中で、限られたものを必要なエリアへ配分することが、このオペレーションを使ってできたと言えます。
もしこのオペレーションでなく元々のやり方で対応していれば、おそらく各エリアで商品の取り合いが行われるなど、在庫がかなり偏在していたのではないかと考えています。だから、この取り組み自体は経営にとっても非常に重要であったと思っています。
サプライチェーンを可視化し、経理管理・商品ライフサイクルマネジメントへ
井沢氏 また、市場からサプライヤーにサプライチェーンをつないでいく、可視化していく活動をしてきました。下の図はタイトルが「Bias-Less Planning」となっていますが、これは全体を貫くコンセプトのような話です。
サプライチェーンとは計画をどんどん上流までつなげていく業務ですが、川下から川上へ計画がつながっていく時にさまざまな思惑でどんどん数量が増幅していく、いわゆるブルウィップ効果が発生します。人のバイアスやバッファなどがこの計画の数を増幅させていくので、これをいかに抑えるかというコンセプトを常に持ちながら活動を続けてきました。
一つの答えは、人の意思を入れず、システムに任せて自動計画することです。とはいえ、人がかなりの計画を作るので、人に対してもバッファやバイアスがどのような悪影響を及ぼすのかをしっかりと説明しながら、そのあたりのオペレーションをつくってきました。
下の図は、先ほど「サプライチェーンを取り巻く環境」の図でも引用した調査レポートから取ってきたものです。
サプライチェーンのグッドプラクティス企業の大半はコントロールタワーを整備しており、End to Endでのサプライチェーン可視化まで実現できているケースも多いということです。サプライチェーンのメインの戦略としては、サプライチェーンの可視化とコントロールタワーの整備の2つが一般的です。われわれがやってきた戦略も、今思えばまさにそのとおりです。
この図のデータで示しているのは、グローバル企業と日本企業の比較です。コントロールタワーについては、グローバル企業の75%は設置しています。それに対して日本は50%です。End to Endの可視化については、グローバル企業は半分、日本のグッドプラクティス企業では16%しか実現していません。欧米企業との差がまだまだある中で、われわれはある程度このようなコンセプトで進めることができているように思います。
このような取り組みを2017年から現在まで続けてきて、マーケットからサプライヤーに至るサプライチェーンをつなげてくることができました。現在は、下の図の上段にある経営管理と商品ライフサイクルマネジメントに特に注力して取り組んでいます。
なぜかというと、サプライチェーンのデータをどんどん可視化していくといろいろな情報が集まってきて、それを活用することでサプライチェーンにとどまらない活動ができるからです。
経営管理とは、既にあるサプライチェーンの計画を使っていわゆる事業の計画などをつなげていく活動です。また、サプライチェーンのデータを分析していくと、われわれの商品が今どこで何がどのような売れ方をしているのかがデータとして把握できてきます。そのデータを分析することで、商品ライフサイクルとしてどこで終売すべきかや商品のラインアップ、マーケティングなど、さまざまな部分で提案ができます。現在は、このデータ活用によるサプライチェーン以外の領域での価値を出すことに注力しています。
サプライチェーン改革の実行における3つのポイント
井沢氏 ここからは、サプライチェーンの取り組み実行のポイントとして3点紹介します。
まず、全体最適での即断即決の意思決定が価値を生むということです。サプライチェーンは全体最適なので、全体最適な意思決定ができなかったら価値がないと考えています。
サプライチェーンの中には、販売や物流、生産などの各部門があり、それぞれの部門は自分たちのKPIで動いています。例えば、販売は「売り上げを最大化したい」という思いがあり、「そのためには在庫をたくさん持ちたい」という考えがあります。しかし、それをそのままやってしまうと、売れずに在庫が残ってしまった場合には生産がストップしてしまい、生産ロスが出てしまいます。
そのため、全体最適でいかによい意思決定ができるかが非常に重要です。ただ、このコンフリクトは必ず起こるので、起こることを前提にどのように解消していくのかをあらかじめ決めておくことも重要です。
まず、一番重要なのはトップマネジメントの巻き込みです。当然、全体最適に一番理解があるのはトップマネジメントなので、トップマネジメントをしっかりと巻き込んでいきます。同様に、キーメンバーも巻き込んでいきます。各部門にも全体最適を理解できるメンバーがいるので、このような人たちをしっかりと巻き込んでいくことが2つ目の重要なポイントです。そして、3つ目に、全体最適のKPIを各部門の人に持ってもらいます。
最後に、事実ベースのデータ活用です。データは非常にパワフルであり、全体最適でやる時に「データではこのようになっている」ということを示すと、やはり納得するケースが多いといえます。このような4つの点を重視して、全体最適を実現していく取り組みをしています。
次のポイントは、オペレーションを変えて定着させるところのチェンジマネジメントが一番の肝であるということです。
先ほど説明したとおり、システムを導入しながらオペレーションを変えていく取り組みを順次展開してきました。まずシステムを導入し、そのシステムを使ってオペレーションを変えるのですが、それには実際のシステムを使う各ユーザーがオペレーションを理解して自分たちの業務を変え、定着させることが必要になってきます。
そのオペレーションの定着の部分が、非常にハードルが高いのです。かかる労力では、システム導入よりもオペレーションの定着のほうが難しいのではないかと思っています。システム導入は、コンサルティング会社にお金を払ってシステムを作ってもらえば、ある程度のシステムは完成すると思います。一方、オペレーションを変えて定着させることは、やはり自社の社員の仕事のやり方を変えることになるので非常に難しく、時間のかかるタスクです。だから、粘り強くやっていくことが必要です。
さらに、成果はどこで出るのかを見ると、多いのはオペレーションが定着した後に出てくるケースです。システム導入でたくさん投資をしていると思いますが、成果が出るまでに非常に時間がかかります。だから、このオペレーションの定着をいかに早くやるかが重要になってきます。そうすることで、投資を早く回収でき、次の投資につなげることができます。かなり粘り強い対応が必要ではないかと思います。
3つ目に、グローバルSCM組織の在り方についてです。これは私が今いるグローバルSCMという、コントロールタワーの役割を担う組織のご紹介です。
この組織には、2つの特徴が必要だと思っています。1つは、業務バックグラウンドの多様性です。SCMはさまざまな業務全体の縮図だと思うので、各部門の経験者が集まって部門としてのポートフォリオを持つこと、多様性を持った組織になることが重要だと思っています。
もう1つは、グローバルのコミュニケーション能力です。カウンターパートが海外の販売拠点と工場という海外のメンバーになるので、グローバルでのコミュニケーション能力が必要となります。
この2つの能力を、組織として持つ必要があります。このような組織は、かなりポジティブな要素がたくさんあります。やはり多様なメンバーが集まるとさまざまな知識が集まるので、メンバーが互いに学び合うことができます。さらに海外のメンバーを含めて切磋琢磨(せっさたくま)できるので、非常に高いモチベーションで仕事ができる環境かと思います。
特に日本企業ではグローバル人材の育成は非常に難しい課題かと思いますが、このグローバルSCMの組織がグローバル人材の育成を担うことができます。現在、そのような点でも機能している状況です。
この図は、本日伝えたかったことの再掲です。
ご覧の3点のポイントをお伝えしてきました。私もSCMを手がけてきて、非常に楽しく、よい業務だと思っています。日本企業がこのSCM起点で経営改革をし、さらなる発展を遂げることを目標に今後も進めていきたいと思います。
以上です。ありがとうございました。













