ノジマ取締役兼代表執行役社長の野島廣司氏(撮影:宮崎訓幸)

 2023年3月期決算で前期比10.8%増となる6262億円の売上高を達成、2024年3月期には売上7600億円を記録したノジマ。家電専門店 「ノジマ」や携帯キャリアショップ、インターネット事業の展開に加え、最近では金融事業会社など業界の垣根を越えたM&Aにより業績を伸ばしている。メーカー派遣の販売員を置かないノジマの店舗運営方法、人材活用術から、M&A戦略、DXへの取り組みまで、ノジマグループの成長シナリオを野島廣司社長に聞いた。

マニュアルだけの作業からイノベーションは生まれない

――「ノジマ」のキャッチフレーズは「メーカー販売員のいない唯一の家電専門店」ですね。自社の販売員のみで接客対応する「コンサルティングセールス」の狙いはどこにありますか。

野島 廣司/ノジマ取締役兼代表執行役社長

1951年、神奈川県生まれ。中央大学商学部卒業後、1973年に有限会社野島電気商会(現・株式会社ノジマ)へ入社。当時、経営悪化により社員数 2 名となっていた会社を立て直し、連結売上高 7,600億円超 (2024 年3月期)の企業グループへと成長。1994年に社長、2007年に会長就任。2008 年に再度社長に就任し、現在の代表執行役社長に至る。販売ノルマではなくカスタマーディライト(顧客の歓喜・感動)を追求し続けること、従業員が自ら発案した企画は失敗の可能性が高くてもチャレンジさせる「失敗のすすめ」を重視。経営方針として、社員一人ひとりが経営者の自覚を持って行動する「全員経営理念」を掲げる。

野島廣司氏(以下敬称略)当社も90年代頃まではメーカーから販売員を派遣してもらっていました。ただ、2000年代に入りそれはやめました。なぜなら、メーカーの販売員は当然ながら「洗濯機が欲しい」というお客さまに対して、他社の商品よりも自社の商品を薦めます。それが本当にお客さまにとって一番適した商品なら良いのですが、時には売れ残っている商品を本社から「さばけ」と指示されたので熱心に売るということもあります。それでは本当にお客さまに喜ばれることはないと考えて、メーカー販売員を置くことはやめました。

 ノジマの販売スタイルはお客さまの立場になっての「コンサルティングセールス」です。洗濯機を探しているお客さまであれば、家族構成や家の間取りなどを伺いながら、複数の選択肢を提示します。それぞれの商品の良い点や悪い点なども包み隠さず伝えた上でお選びいただくのです。また、1人の販売員が洗濯機だけでなく、冷蔵庫、エアコン、テレビ、電子レンジ、さらにはパソコンやインターネットまで幅広い知識を持っています。このため、「次に買うときもまた〇〇さんにお願いしたい」とお客さまから指名される販売員が何人もいます。お客さまの親子2代、3代にわたって指名されている従業員もいます。

――ノジマにはマニュアルがなく、ノルマもないと聞きました。それでも従業員が高いモチベーションを保ち、成果を出している理由はどこにあるのでしょうか。

野島 「メーカー販売員のいない唯一の家電専門店」ということは、自社の販売員で対応するということです。つまり、人件費もかかります。一方で、従業員にとっては、自分たちの働きが業績に直結するということが、ひしひしと感じられるわけです。また、ノジマグループでは、短期的に業績が悪くなったからといって安易に人を切ったりしませんので、雇用が維持されるという安心感もあります。

 マニュアルやノルマがないのは従業員に自発的に考え、行動してほしいと考えているからです。私は、マニュアルやノルマは、上司から部下への「命令書」だと思っています。「この紙に書いてある通りにやれ」というのがマニュアルです。どうしても「やらされ感」が大きくなりますし、できないときの言い訳もしがちです。そうなると、従業員が腹落ちして行動できません。

 当社の人事ポリシーは「NOJIMA」すなわち、「N(№1:何でもナンバーワンであること)」、「O(Open:オープンなコミュニケーション)」、「J(Joy:仕事を喜びの種に)」、「I(Innovation:組織や仕事を革新創造)」、「M(Management:経営意識をもって育成)」、「A(Achievement:努力して成し遂げる)」です。この人事ポリシーは当社の人事評価に対する基本的な考え方でもあります。マニュアルに書いてあることを繰り返すだけではイノベーションは起きません。

――従業員の定着率も高いそうですね。シニアワーカーの方も活躍されています。

野島 従業員の定着率は年々良くなっています。ずっと勤めたいという従業員も増えていて、現在は80代の従業員が3人います。いずれも「働きたい」と言っていただいたので、「ぜひお願いしたい」と答えました。雇用の年齢制限を撤廃するなど人事制度も改めました。当社には「この仕事が好きです。ずっと続けたいです」と話す従業員が多いのです。

 ただそこで難しいのは、「管理職にはなりたくない。ずっと店頭で販売をやりたい」と答える従業員もいることです。私たちとしては、できれば店長など、もっと責任ある仕事にも挑戦してほしいと思うのですが、本人が「自分は販売に向いている」と答えるのです。

 私の経験からいうと、そのように「自分は販売に向いている」という従業員でも、仕入れをやってもらったり物流をやってもらったりするとバリバリ活躍する従業員も多くいます。本人すら気付いていないような適性を見つけ、配属してやるのも管理職や経営者の役割だと思っています。

M&Aでグループ化した企業を短期間でV字回復させる

――2015年には携帯電話販売店大手のアイ・ティー・エックス(ITX)を、2017年には富士通子会社ニフティのインターネット接続事業を買収しました。2023年には携帯電話販売業界3位のコネクシオを買収しました。買収の判断の根拠はどこにあったのでしょうか。

野島 ニフティの買収額は約250億円、ITXの買収額は約880億円、コネクシオの買収額は約854億円と、いずれも大きな投資です。また、買収時の業績はあまり良くなく、数字だけ見れば苦戦中の企業だったかもしれません。ただ、私は数字を追いかける経営はしません。従業員を含めた「全員経営」ができるかどうか、お客さまに喜ばれる経営ができるかどうかという点から買収の判断をしました。ITXもニフティもコネクシオも、そのポテンシャルがあると感じました。社内向け小冊子「ノジマウェイ」で日ごろから伝えている当社のポリシーを大切にしながら、フェアにオープンに、社員の自発的な行動と発想を促すようにしていけば必ず会社は変わります。

 ITXは私が当初4年間社長を務めましたが、その間に女性部長を10人登用し、女性の課長も増やしました。業績も一気に好転しました。コネクシオはまだ途上ではありますが、必ずV字回復できると自信を持っています。

創業100周年までに「世界一」の企業グループを目指す

――DX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組む企業が増えています。ノジマグループは早くから自社のデジタル化やデジタル商品の提供に取り組んできましたね。2000年代初めにはすでに「デジタル一番星」というコンセプトを掲げています。

野島 「デジタル一番星」は、デジタルGS4(Goods・Support・Service・Setting・Soft)を提供・普及させ、地域と日本の発展に貢献するというノジマの志を表すものです。当社のデジタル化は早かったですね。1983年には家電業界で初めてPOS(販売時点情報管理)システムを導入しました。まだ携帯電話もスマートフォンもインターネットもなかった時代です。以後、データドリブンで会話をする文化が根付いていると思います。

 ただし私は、目標数字を掲げて、各店に下ろしていくようなやり方はしません。機関投資家などのステークホルダーに向けて業績の見通しは話しますが、数字は結果にしかすぎません。お客さまに喜んでいただければ、必ず結果はついてくるのです。

――「町の電器屋さん」から始まり、グループで約1万8000人の従業員を擁する東証プライム上場企業にまで成長しました。これまで順風満帆でしたか。

野島 むしろ失敗の連続でしたね。ただし、その失敗から学ぶことも多くありました。家族経営だったころには、私だけが仕事を干され閑職に追いやられたこともあります。その頃は「オレの指示通りやれ」という気持ちが大きくうまくいきませんでした。その後、従業員から乞われて復帰したのですが「全員経営が大事なんだ」と気づいてから、会社が急速に伸び始めました。

――国内市場の成熟化にともない、家電業界も縮小傾向にあります。今後、ノジマグループをどのように成長させていく考えですか。

野島 確かに業界全体を見ると、白物家電(洗濯機やエアコンなど)、黒物家電(テレビや携帯電話など)ともにシュリンクしています。だからといって家電量販店がなくなるわけではありません。お客さまに喜んでいただける企業は必ず生き残れます。また、当社グループもすでに海外事業に進出していますが、ポテンシャルのある国・地域、産業はまだまだ残っています。また産業全体が伸びるかどうかではなく、その企業が伸びるかどうかを見てほしいですね。

 私は常日頃、従業員に「世界一の会社になろう」と話しています。世界一は売上高や店舗数ではありません。世界一お客さまに喜ばれる会社、世界一従業員が幸せだと思う会社です。創業100年を迎える2061年までにそうなりたいと願っています。