ビーケージャパンホールディングス代表取締役社長の野村一裕氏(撮影:宮崎訓幸)

 ファストフードの店舗数ランキングは、マクドナルド、モスバーガー、ケンタッキーフライドチキンが上位3社だが、4番手争いで目下、急速に店舗拡大しているのがバーガーキング(運営はビーケージャパンホールディングス。以下BKJHD)である。かつては日本市場から撤退し、店舗数も縮小していたバーガーキングはなぜ復活できたのか。同社の野村一裕社長に激しい競争下での戦い方も含めて話を聞いた。

「2028年度末に600店舗」実現の可能性

――キリンビール出身の野村さんがBKJHDに転職された2019年(社長就任は2023年1月)は、前年の100店舗から77店にまで店舗数が縮小していましたが、そこから拡大に転じ、現在は3倍近い226店(2024年5月31日時点予定)まで増えています。どんな点が奏功したのでしょうか。

野村 一裕/ビーケージャパンホールディングス代表取締役社長

1978年生まれ。上智大学卒業、MBA、一橋大学大学院国際企業戦略専攻。2002年キリンビール入社。料飲店・量販店の営業担当や商品マーケティング担当を歴任。2019年ビーケージャパンホールディングスに入社。同年新体制となったバーガーキングのマーケティングディレクターとしてマーケティング戦略、新商品開発、ブランドコミュニケーションを指揮。2022年にCOO就任。マーケティング部門に加え、店舗開発やフランチャイズビジネス部門を統括。2023年1月より代表取締役社長に就任し現在に至る。
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座右の銘:禍福は糾える縄の如し
尊敬する経営者:藤田田(日本マクドナルド創業者)
変革リーダーにお薦めの書籍:『ストーリーとしての競争戦略─優れた戦略の条件』(楠木 建著)

野村一裕氏(以下敬称略) 入社翌年からのコロナ禍で、もともとテイクアウト比率が高かったファストフード業界全体に追い風が吹く状態となりましたし、当社ではタッチパネル式のキオスク端末の導入が早かったことも奏功したと思います。

 加えてデリバリーニーズの高まりも効果があったと言えます。例えば、全国に約3000店を擁するマクドナルドさんであれば皆さん、ご自宅の最寄り駅周辺のどこにお店があるか把握されている方が多いと思います。しかし、バーガーキングはまだ店舗の絶対数が少ないこともあって、お店の場所が消費者にあまりインプットされていません。

 そんな中、コロナ禍ではデリバリーニーズが一気に増えたことで、消費者が宅配する飲食チェーンをスマホで検索し、その過程で「おっ、バーガーキングも宅配してくれるんだな」と気付いてくださった方が大幅に増えたのです。

 また、われわれはまだ店舗が少ないぶん機動力が使えますので、例えば今日決めた施策を1カ月後といわず3週間後には実施できるよう、アジャイルな体制を組んでいます。デリバリーニーズの高まりや、臨機応変に素早く立ち上げるプロモーション施策などによってバーガーキングの認知度が上がり、コロナ禍を経て一気に花開いてきたところです。

バーガーキングの店舗

――2028年末には600店という店舗数目標を掲げています。

野村 バーガーキングの1店あたりの平均月商は、現在1200万~1300万円で、年換算で1億5000万円です。600店舗に届けば900億円になります。

 ただしこれはシステムワイドセールス(フランチャイズ店を含むチェーン全店の売上高)で、一般的には運営本部の売上高はそこから下がりますので、われわれ本部の売り上げは約600億円になる計算です。この数字を他の大手ハンバーガーチェーンと比べてみると、将来2番手争いに食い込んでいく可能性も十分にあると思っています。

「直火焼きの100%ビーフパティ」にこだわる差別化ポイント

――店舗展開の拡大を急ぐ中、消費者のバーガーキングの支持度合いをどう受け止めていますか。

野村 われわれ自身がバーガーキングの強みをしっかりと再認識した点が大きいと思います。

 バーガーキングは100%ビーフパティを直接火で焼いて料理する直火焼き方式を採用しています。バーガーキングにお越しいただくお客さまはあくまでおいしいハンバーガーを食べたいのであって、おいしいフレンチフライを食べにいらっしゃるわけではない――そういうコミュニケーションに振り切って、他社にはないハンバーガーのおいしさを訴求しています。

直火焼き方式を採用しているバーガーキングの100%ビーフパティ

 ダイエット中の方や健康を気にされる方は「ハンバーガーを食べると太るから…」と少し敬遠される方がいらっしゃるかもしれません。でも、われわれは毎日ご来店いただきたいとは考えていません。「たまにはガッツリと、それも本当においしいハンバーガーを食べたい」と思う方に直球勝負をしているのです。

 そう考えると、われわれに近いのは高級路線のグルメバーガーでしょう。グルメバーガーはあまり多店舗展開はできないと思いますが、近い土俵で多店舗化を進められるチェーンがバーガーキングとも言えます。

 今後はより良いもの、よりおいしいものをご提供するとお客さまに納得して対価を支払っていただける時代にますますなっていくはずです。グルメバーガー業界には、一緒にその旗を振ろう、これからもおいしいハンバーガーを作っていこうと呼びかけたいですね。

――バーガーキングの特徴は、他社の通常商品の1.5倍近いボリュームがある、特大サイズの意の「ワッパーシリーズ」の品ぞろえにあります。現在、バーガーキングの平均客単価に変化はありますか。

野村 ここ数年、平均客単価はずっと上がってきています。多少高くてもボリュームがあり本格的でおいしいバーガーを求めるファンの皆さまが増えています。

 しかし、私たちは人件費や原材料、資材の高騰の中でも、価格をできるだけキープしてきました。現在、人気ナンバーワンの「ワッパーチーズ」の単品価格が690円ですので、コストパフォーマンスには自信があります。それでもお客さまが「高い」と思われるようでしたら、われわれは「どうぞ、他のファストフード店で召し上がってください」と割り切れます。他の大手ハンバーガーチェーンはそれが言えるかどうか。

食べ応え抜群のバーガーキング「ワッパー」

――バーガーキングの差別化ポイントである、直火焼きを今後追随してくるチェーンが出てくる可能性はありませんか。

野村 グルメバーガーの中には鉄板焼きでなく直火焼きで出しているところもあります。ただし、小規模、あるいは店舗数が少ないお店であれば可能ですが、大手チェーンではパティの成形もオペレーションも全部変えなければなりませんから、簡単には真似できません。

「バーガーキングを増やそうキャンペーン」の奇策

――比較的高価格帯のバーガーキングですが、例えばワッパーセットの税込み990円がアプリのクーポン利用で300円値引きになるなど、思い切ったキャンペーンも展開しています。こうした戦略の狙いは何ですか。

野村 そもそも、われわれはマクドナルドさんより価格帯が高いところから始めていますので、どのようにしたらお客さまにリーズナブルに見えるかを考えるのもとても大事なことだと考えています。キャンペーン以外でも「オールデイ・キング」といって、全国一律で朝昼晩、また平日・休日を問わず550円、600円、650円のセット価格も実施しています。

 最近は飲食の世界でもダイナミックプライシングの導入で、時間帯や曜日で価格帯を変えるような試みも出てきていますが、われわれは“たかがバーガー、されどバーガー”の、たかがの部分を忘れてはいけないと思っています。ハンバーガーでお得な時間帯はどこかなど、お客さまに余計なことを考えさせてはいけないと思っています。

 たかがバーガーの中で、されどバーガーの部分をどのようにしていくかを考えるのがわれわれの仕事です。おいしい直火焼きで本格的なハンバーガーなら1000円ぐらい出してもいい、と思っていただけるようにしていくことが重要なのです。

――店舗拡大に向けては「バーガーキングを増やそうキャンペーン」(2024年2月5日~3月25日まで募集)を実施しました。全国から寄せられた空き物件で出店が成約したら10万円を進呈、不成約でもクーポンを付与というユニークな戦略でした。野村さんの発案だそうですが、いつ頃から温めていた企画なのでしょうか。

野村 アメリカのマイアミにあるバーガーキング本社などとの話し合いで、「日本ではこのぐらいのお店を毎年出してほしい」という目標の店舗数が提示されています。

 2023年1月に私が社長に就任して以降、なるべくコストを抑えた形で出店を加速する方法をあれこれと考え、かつてキリンビールに在籍していた時期に営業やマーケティングの仕事をした経験値からさまざまな方法の可能性を探ってきました。その1つが今回のキャンペーンです。

――このキャンペーンは、一部とはいえ低コストの店舗開発を可能にしたことに加え、応募状況からどの地域のどのエリアでバーガーキングのニーズがより高いのかを炙り出し、マーケティングの精度を高めることにもつながったそうですね。一方で情報提供者である消費者にもお得になる点があり、いわばWin-Winの企画に映ります。

野村 おかげさまで応募総数は7万8610件にも上りましたが、全国津々浦々、出店可能エリアのホットゾーンの特定から、まだまだバーガーキングの認知度が低い地域など、多くの気付きや学びをいただくことができたと思います。

――今後のバーガーキングの目標は何でしょうか。「こうなりたい」という姿はありますか。

野村 冒頭でもお話ししましたが、2番手争いに入っていけるようにもっていくのが目標です。現状でも2024年の売り上げは300億円を超える勢いですし、高い利益率がキープできておりますので、お店の現場で日々頑張ってくれている店長以下、スタッフ全員にもっともっと還元して報いてあげたいと考えています。

 その一方で、出店スピードに追いついていない店舗スタッフの研修システムの整備も急務です。たかがバーガーですが、創意工夫して皆で知恵を出し合っていけば、されどバーガーの部分に磨きをかけ、お客さまもスタッフもさらに笑顔になる仕組みができるのではないかと思っています。