写真提供:日本マイクロソフト
日本マイクロソフトは2024年2月20日、AIによるビジネス変革をテーマにしたイベント「Microsoft AI Tour」を東京ビッグサイトで開催した。Microsoft AI Tourはこれまで世界13都市で開催されており、日本では初開催となる。イベントではビジネスにおけるAI活用の最前線と、生成AIアシスタント「Microsoft Copilot」の機能などが詳しく紹介された。本記事では当日のキーノート(基調講演)の模様を伝えていく。
「副操縦士」として人をサポートするマイクロソフトのAI
キーノートに登壇した日本マイクロソフト 代表取締役社長の津坂美樹氏は、冒頭で次のように述べた。
「AIを語る段階はすでに卒業し、2024年はAIをスケールさせ、活用する1年になるでしょう」
その言葉に続いて津坂氏が口にしたのは、AIによる経済効果だ。経済産業省の試算では、中小企業で11兆円、日本全体で34兆円の経済効果が見込まれているという。さらに別の調査によると、企業がAIに1ドル投資すると平均3.5ドルのリターンがあるという結果も紹介された。
「AIが労働生産性向上などの課題解決になることはもちろん、クラウド化の加速や働き方改革、意思決定のスピードアップ、新たなビジネスの創出といった効果を生み出すと考えています」
こうしたAIへの期待感を述べた後、津坂氏はマイクロソフトの生成AIアシスタントアプリ「Microsoft Copilot」を紹介した。日本でも昨年から本格的な提供が開始されており、その名の通り副操縦士(Copilot)として「みなさんのやりたいことをサポートするAIです」と説明する。
日本マイクロソフト 代表取締役社長の津坂美樹氏(写真提供:日本マイクロソフト)
「Microsoft Copilotは、いつでもすぐにAIをアシスタントとして呼び出せます。それも、ある時には自社の業務に詳しい同僚のように、またある時には専門分野のエキスパートとしてサポートしてくれるのです」
このサービスがもたらす具体的な効果として、先行して導入したユーザー企業の調査結果も紹介された。それによると70%が生産性向上を、67%が時間節約の効果を実感しているという。
「利用企業の方の声として、『AIなしでは仕事ができない』『業務量の90%以上を削減』といったコメントも聞かれます。エンジニアではない私も毎日使っており、AIの民主化を感じられるプラットフォームとなっています」
英語会議の要約は97%の精度、国際的ビジネスの強力な援軍に
津坂氏に続いて登壇したのは、米マイクロソフト エグゼクティブバイスプレジデント兼チーフマーケティングオフィサーの沼本健氏だ。同氏の講演も、改めてAIの可能性を伝えることからスタートした。
「『AI』はIT業界に限らない、全てのビジネスに関係するキーワードです。これまでにさまざまなプラットフォームによるビジネスシフトが起きてきましたが、その中でも大きなインパクトになるでしょう」
では、具体的にどのようなインパクトをAIはもたらすのか。沼本氏は4つの代表的なものを挙げる。
1つ目は「従業員体験の充実」だ。例えば資料や議事録の要約業務をAIが行うことで、従業員が働きやすく、より創造的な仕事に従事できる。
2つ目は「顧客エンゲージメントの改革」である。カスタマーサポートなどの顧客対応において、AIが過去の履歴やデータを基に支援することで顧客エンゲージメントの向上につながる。
3つ目に挙げるのは「ビジネスプロセスの再構築」だ。AIは財務や人事、マーケティングなど、あらゆる部門の業務プロセスに活用できるとのこと。
そして4つ目は「イノベーションの加速」である。新素材の発見など、これまでのテクノロジーでは難しかったことをAIが可能にしていく。沼本氏は「イノベーションのカーブを曲げる」と表現する。
Microsoft Copilotはこれらのインパクトを具現化するサービスということになる。沼本氏は細かな機能を紹介する前に、サービスロゴに込めた意味を語った。
画像提供:日本マイクロソフト
「Microsoft Copilotのロゴについてはたくさんの議論を行いました。とても思い入れがあります。このデザインは、人と人とが手を握り合うハンドシェイクの姿をイメージしています。なぜならマイクロソフトのミッションは『地球上の全ての個人と全ての組織が、より多くのことを達成できるようにする』であり、私たちがこのサービスで実現したいのは、あくまで人を中心にして、AIが『Copilot』として支援する世界だからです。その思いをロゴに込めました」
先述の通り、すでにさまざまな企業が導入しており、沼本氏からも現時点で表れている数字的な導入効果が紹介された。沼本氏は翻訳機能の秀逸さを示す例として、日本のユーザーが英語の会議に参加し、Microsoft Copilotのサポートを基に会議内容を要約した結果、97%の精度で報告できたという事例を挙げた。これは「ネイティブなイングリッシュスピーカーがツールを使わずに要約した場合より高い精度」だという。
マイクロソフトではさまざまなソリューションを提供しているが、今後それら全ての領域にMicrosoft Copilotを横断的に展開、実装していくという。
AIの著作権侵害リスクも「マイクロソフトが担保していく」
この他、沼本氏の講演で重点的に触れられたのが、AIのリスクへの対応だ。まずマイクロソフトでは、AI開発を進めるに当たって「公平性」「プライバシーとセキュリティ」「透明性」「信頼性と安全性」「包括性」「説明責任」という6つの原則と、それに伴う17のゴールを定めている。その上で、Microsoft Copilotが作った成果物の著作権侵害リスクなどに対しては、そのリスクをマイクロソフトが担保する。これらは同社の「Copilot Copyright Commitment」に明記されているという。
米マイクロソフト エグゼクティブバイスプレジデント兼チーフマーケティングオフィサーの沼本健氏(写真提供:日本マイクロソフト)
もう1つ、ユーザーのデータが生成AIの学習に使われるのではないかという懸念に対しては、「許可なくお客さまのデータがAIのトレーニングに使われることはありません。お客さまのデータはあくまでお客さまの物であり、社外に出る心配も不要です」と沼本氏は伝える。
これらの説明を終えた上で、同氏は、日本企業がAI活用を進める際の注意点とマイクロソフトの対応をこう付け加えた。
「AIを導入する上で問題になるのは、技術的なこと以外のケースが多いといえます。例えば、事業戦略と技術戦略が噛み合わない、あるいは組織や企業文化との兼ね合いが難しい、といったことなどです。それらに対しても、私たちマイクロソフトがサポートしていければと思います」
