高度なコーチングの実施でアンケート結果に差

 コーチは答えを出さない。考えを提示しても固執しない。それで本当に人材が育つのかと疑問を抱くかもしれない。そこで、最後に筆者らが、文部科学省「グローバルアントレプレナー育成促進事業(EDGEプログラム)」の共通基盤事業として、2016年12月から2017年2月にかけて、複数大学の19名の若手研究者らを対象にコーチング手法の導入を行い、意識変化を分析した結果を紹介する。

 まず、コーチングの集合研修(1日)は19人の受講者全員が受けた。その後、1対1のコーチングを受けるグループと受けないグループに分けた。そのうえで合計4回、「自分の研究を主体的に取り組んでいる」や「新しいことに挑戦している」など10項目について、5段階で評価してもらった。

 各項目の評価内容は、「非常に意識が高まった:5点」「意識が高まった:2.5点」「変わらない:0点」「下がった:-2.5点」「非常に下がった:-5点」と点数に換算。それを、5点(非常に満足)から1点(非常に不満)まで5段階評価した講座の満足度の点数と合算した。

 集計の結果、10項目のうち「将来のビジョンが明確である」と「自分の研究をやり抜く自信がある」の2項目について明白な違いが出た。いずれも1対1のコーチングを実施した受講生の評価は、未実施の受講生を0.5ポイント上回った。

 とくに目を引いたのは、後者の「やり抜く自信」の項目である。2017年2月半ば、受講生は自ら考えたビジネスモデルを磨く「ビジネスモデル仮説検証プログラム」の一環で、協力企業から直接顧客としての意見を聞いた。そこで厳しい意見に触れたためか、2月下旬に実施した最後のアンケートで、1対1のコーチングを受けていない受講生は自信の評価ポイントを落とした。一方、コーチングを実施した受講生はアンケートを行うたびに自信を深めていった。

 コーチングをカリキュラムに加えてから日が浅いので、効果について未知数の部分が少なからず残っている。それでも、1対1のコーチングによって、起業への一歩を踏み出す自信を育めることは間違いないだろう。この分析結果を受け、WASEDA-EDGE人材育成プログラムは、1対1の継続的なコーチングを埋め込んだ、「コーチングⅠ」(ベーシック)と「コーチングⅡ」(アドバンス)の2コースの講座を2017年度から実践している。

 コーチングの体験を通して質問のスキルを身につければ、起業後に困難に直面したときに状況を俯瞰する適切な質問を自身に投げかけるなど、自分をコーチングしながら課題を乗り越えられるようになる可能性もある。