それぞれの要素ごとに、「これ」という明確なやり方が決まっているわけではない。クライアントごとにタイプが違うし、一人ひとりが置かれている状況も異なるためだ。クライアントのタイプや状況を見極めてテーラーメードで進めていくことは、コーチングの大原則になっている。

 例えば、承認において、誰に対しても「良くやったね」と同じような言葉を用いても、受け取り方は違ってくる。褒められることで認められたと感じる人もいれば、かえって疑念や不安を覚える人もいる。緻密な作業が好きな人には、漠然と評価するより、「あの資料の何ページのどこが素晴らしい」と具体的な内容に踏み込んで評価するほうが承認の効果が高まりやすい。

 質問についても、これを聞けば必ずうまくいくといった固定的な方法はない。大切なポイントは、クライアントが自発的に答えを引き出せるように導くことである。「○○に興味がありますか?」といったYes/Noで答えられる「クローズドクエスチョン(閉じた質問)」ではなく、「将来どのようになりたいですか?」のようにクライアント自身が自由に答えを選べる「オープンクエスチョン(開かれた質問)」になるように心がけることは、コーチングにおける効果的な質問のテクニックの一つだ。

 話の抽象度を上げたり下げたりして、クライアントの視点を変える「チャンクアップ」「チャンクダウン」と呼ぶテクニックもある。クライアントとの対話の中で、漠然とした話題が続くようなら、「例えばどういった懸念が考えられるのだろう?」などと具体的な話に落とし込む質問をする。逆に、課題の細部に終始するようになってきたら、「その課題はどんな影響があるのだろう?」と全体を俯瞰するような質問をする。

コーチからのフィードバックの留意点

 コーチは答えを出さないと前述したが、クライアントとの対話の中で気になった点や気づいたことがあれば、適宜フィードバックする。ただし、その際に留意すべきポイントがいくつかある。

 第1に、「これからフィードバックします」と断りを入れて、クライアントの許可を得る。コーチングの主体はクライアントである。コーチは、真っ白な画用紙に絵(ビジョン)を描くクライアントに寄り添う。必ず断りを入れることで、そうした姿勢を明確にする。

 第2に、クライアントと共有できる客観的な情報をフィードバックする。コーチの考えを述べるのではなく、「○○の話をしていたときに声色が明るくなったね」、「これまでに『でも』『どうせ』というセリフが5回あったね」など客観的な事実を伝える。こうすることで、クライアントは自分では気づかなかった新たな興味を発見したり、否定的になりがちな思考を肯定的な方向に切り替えたりするきっかけが得られる。

 第3に、コーチは自らの考えにこだわらない。フィードバックでコーチが自身の考えを提示するのは問題ないが、「自分こそ正しい」と固執するのはご法度だ。仮に、クライアントがコーチのフィードバックに異を唱えても気にしない。コーチの考えを受け入れるかどうかの選択権は、常にクライアントが持っているからだ。そのような関係をクライアントとコーチがきちんと築くことは、結果的にコーチングの効果を高めることにつながる。